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アイアンクロー (2023):映画短評

アイアンクロー (2023)

2024年4月5日公開 130分

アイアンクロー
(C) 2023 House Claw Rights LLC; Claw Film LLC; British Broadcasting Corporation. All Rights Reserved.

ライター7人の平均評価: ★★★★★ ★★★★★ 4

くれい響

A24作品らしい不穏でホラーな空気感

くれい響 評価: ★★★★★ ★★★★★

『マーサ、あるいはマーシー・メイ』でカルト教団における信者への洗脳を描いたショーン・ダーキン監督が、今度は毒親における息子たちへの洗脳を描いた、映画版「プロレススーパースター列伝」ならぬ“プロレスラー残酷物語”。尺の都合から、六男クリス(91年に自殺)の存在が無視されたなんて細かいことは置いといて、あまりにドラマティックな「呪われた一家」のエピソードを、堂々たる演出で魅せる130分一本勝負。アメリカンドリームを描きつつ、不穏な空気感がホラーな効果をもたらし、80年代プロレスに興味がなくても、いろんな意味で刺さりまくるはず。そういう意味でも、A24作品らしい一作といえる。

この短評にはネタバレを含んでいます
猿渡 由紀

暗く、重い話だが、最後には奇妙にも希望を感じる

猿渡 由紀 評価: ★★★★★ ★★★★★

信じられない本当の話。近年時々言われる「有害な男らしさ」に警鐘を鳴らす話でもある。映画には出てこないが、実はもうひとり弟がいたというのだから驚き。悲劇が次々に起き、心が沈んでいくが、最後にはそれらのことを乗り越えた主人公の強さに感動し、不思議に希望が湧く。肉体改造と特訓でレスラーになりきった主要キャストには大拍手。ザック・エフロンが試合をするシーンも、ノーカットで撮影したとのこと。感情的な演技の面においても、エフロンのキャリアで最高と言っていい。タイプはまるで違うが、ダーキンの「不都合な理想の夫婦」も夫の野望のために家族が転げ落ちていく話で、今作となんとなくつながるものがある。

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大山くまお

アメリカを象徴する一家を襲った悲劇の正体

大山くまお 評価: ★★★★★ ★★★★★

“鉄の爪”こと稀代の悪役プロレスラー、フリッツ・フォン・エリックと“世界最強の一家”となるべく父親の期待を受けてプロレスラーになった息子たち――フォン・エリック・ファミリーを襲った悲劇の正体とは何か。それは、アメリカの価値観の中心にあった“男らしさ”の権化であり、強烈な家父長制の頂点に立つエリックがもたらしたものだった。エリックの価値観を疑いもしなかった息子たちは、いつしか死の淵へと追い込まれていく。抑制の効いた演出で描かれるのは、アメリカを象徴する大家族を描いた叙事詩のよう。同時に、プロレスという競技の過酷さ、恐ろしさ、難しさも感じる。プロレスファンだけでなく、今多くの人に見られるべき映画。

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相馬 学

レスラー一族の皮肉すぎる悲劇の物語

相馬 学 評価: ★★★★★ ★★★★★

 子どもの頃に観たプロレス中継に“鉄の爪”と呼ばれる外国人レスラーがそういえばいたなあと、思い出した。もちろん当時はこのレスラー一族の残酷物語など知る由もない。

 父と同じ道を歩みプロレスラーとなった次男ケビンの視点で物語は展開する。父のスパルタ教育により弟たちもレスラーとして成功していくが、フィジカルが鍛えられる一方でメンタルが弱っていく皮肉。

 ダーキン監督は『マーサ、あるいはマーシー・メイ』で洗脳を扱ったが、本作にも父による息子たちへの“洗脳”が垣間見える。むろん背後には父性愛があるのだが、それが悲劇を引き起こしたのは、やはり皮肉としか言いようがない。

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平沢 薫

悲劇的な物語に、別の視点から光を当てる

平沢 薫 評価: ★★★★★ ★★★★★

 実在のプロレスラー、フリッツ・フォン・エリックと、プロレスラーになったその息子たちの物語は、描き方によっては、親と息子たちの関係性が内包する問題のみに焦点を当て、それを糾弾するものにもできるところを、そうしないのがこの映画の魅力。問題を浮かび上がらせつつ、同時に、息子たちが抱いていた父親への愛、息子たちの間にあった強い兄弟愛に光を当てる。途中で倒れてしまった者たちに、あたたかな眼差しを注ぐ。

 監督・脚本は『マーサ、あるいはマーシー・メイ』でも、人間の意識の闇を描いたショーン・ダーキン。監督が子供時代にファンだったという、80年代のプロレス試合の華やかさと熱気が、画面から伝わってくる。

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森 直人

男たちによる、男性性の「呪い」とそこからの解放

森 直人 評価: ★★★★★ ★★★★★

凄まじい傑作。昭和世代には懐かしいプロレスラー、フリッツ・フォン・エリックの一家の実話が男性性の抑圧に殺されていく男達の悲しき神話として差し出される。フィルム撮影で80年代を見事に再構築しながら、旧約聖書を彷彿させる父親と兄弟(カインとアベル)の物語は、ギリシャ悲劇やシェイクスピアにも通じる風格を湛える。

監督のショーン・ダーキンはカルトコミューンの問題を扱った『マーサ、あるいはマーシー・メイ』でも極端な男性優位の呪縛を主題としたが、今作での「男の世界」の崩壊は、フェミニズムと同じ意味の裏面であり時代的な迫力を帯びる。それを批判や風刺より、哀惜を持って描いている距離感が絶妙だ。役者陣も最高!

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斉藤 博昭

最高のプロレスシーンを目指す心意気。悲劇には想像力を

斉藤 博昭 評価: ★★★★★ ★★★★★

監督が根っからのプロレスファンで、「過去のプロレス映画を超える」と意気込み、それに俳優陣も肉体改造と技の実践で応えただけあり、プロレスシーンの“本気”に驚いた。とくにザック・エフロンの筋肉の付き方は異常レベル。トップロープからのダイブなど実際に挑んだことで生々しいまでの豪快さが映像にやきつけられた。一家の得意技、アイアンクローの“痛さ”も存分に伝わる。
一家の運命を知らない人にとって、後半の悲劇はかなりの衝撃度のはず。その瞬間をあえて見せないことで、悲しみも増すという演出が効果的。家族間の愛と葛藤もドライに描くことに徹し、ベタつかないのが好印象。そこが物足りないと感じる人もいるかもしれないが。

この短評にはネタバレを含んでいます
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