平沢 薫

平沢 薫

略歴: 映画ライター。視覚に訴えかけるビジュアルの派手な映画がお気に入り。「SCREEN」「SCREEN ONLINE」「Movie Walker」「日経エンタテインメント!」「DVD&動画配信でーた」「キネマ旬報」「SFマガジン」「映画.com」等で執筆。他に「キングスマン:ゴールデン・サークル」ノベライズ、「グレートウォール」ノベライズ、「X-ファイル 2016」ノベライズ、「フランケンウィーニー」ノベライズ、「「ターミネーター:新起動/ジェニシス ビジュアルガイド」翻訳など。ウェブで映画やTVドラマのニュースを追いかけ中

近況: スティーヴン・ザイリアン監督のミニシリーズ「リプリー」@Netflix を視聴中。滑らかなモノクロ映像は、すべてのショットが、ヤリすぎなくらいキメキメの構図で、ひれ伏すばかり。

平沢 薫 さんの映画短評

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  • 悪は存在しない
    気づくと、息をひそめて画面に見入っている
    ★★★★

     カメラが、そこで起きていることに耳を澄ましている。その出来事が語りかけてくることを、聞き逃すまいとしている。1シーンが長く、手持ちではなく定点に固定されたカメラは、何かにズームすることなく、レンズの前にあるものを静かに撮り続け、そこで生じる音、人々の会話を録り続ける。気づくと、こちらもカメラ同様、息をひそめて、目の前で起きていることに見入っている。

     厳しい自然と共存して生きる人々の土地に、開発業者がやってくるが、経営者は補助金が必要なだけで、説明に来た社員2人も仕事をしているのみ。悪意はなくても取り返しのつかない事態は起きる。まだ雪の残る高原の冷たく清澄な大気が胸に沁みる。

  • システム・クラッシャー
    リアルな手触りが、ドキュメンタリーかと錯覚させる
    ★★★★★

     9歳の少女ベニーは、自分の感情が制御できず、暴力的で身勝手に行動し、彼女に好意的な里親や支援施設職員も、彼女を受け入れられなくなる。そんな状況をドキュメンタリーと見紛うリアルな映像で描き出す。監督・脚本のノラ・フィングシャイトは、ホームレス女性のドキュメンタリー撮影中に出会った14歳の女性から本作を発想したという。

     人間の心理は年齢に関係なく複雑で、自分自身にも扱い難い。そんな彼女に周囲は何ができるのか。彼女にとって何が幸いなのか。投げかけられる問いは奥深いが、冷気の中に溢れる光と、9歳の少女が発する強烈なエネルギーが、ほのかな希望を感じさせる。

  • ゴジラxコング 新たなる帝国
    主人公は人間ではなく、巨大モンスター自身
    ★★★★★

     アダム・ウィンガード監督による巨大モンスター映画の魅力は、主人公が人間ではなく、モンスターが主人公の物語を描いていることにある。その中で、モンスターが自分の力を発揮する時に感じている喜びも表現される。本作ではコングが何度も大きな跳躍をするが、そのたびに、彼がそれを気持ちいいと感じていることが、画面から伝わってくる。コングとゴジラが膨大な数の建造物を破壊する光景が見ていて気持ちいいのも、彼らの快感が伝わってくるからだろう。

     監督が好きな60~70年代のゴジラ映画に寄せて、色調は明るく鮮やか。今回もイースターエッグは山盛り、バッドフィンガーなど懐かしのポップソングの数々も楽しい。

  • 陰陽師0
    まだ初々しい安倍晴明が華やかに宙を舞う
    ★★★★★

     いつか、原作小説のような、のどかでありながら端正かつ風雅な景色を、彩度を抑えた日本の伝統色で描くような陰翳礼讃な陰陽師映画も見てみたいが、今回は「0」のサブタイトル通り、まだ陰陽師になる前の安倍晴明と源博雅の初々しさと華やかさを描く映画なので、この明るく鮮やかな色調も納得。
     平安京を俯瞰する空には鳳凰が飛翔し、怪異は竜の姿で出現し、恋情には無数の花が咲き乱れ花びらが舞い散る的な分かりやすさも楽しい。晴明の武闘は、衣の袖や裾が空気をはらんでひるがえる形が美しく、中国の古装ワイヤーアクションの趣き。博雅と思い人が、楽の音を奏でることによって別のどこかで結びつく、というイメージも魅力的。

  • 異人たち
    人間は誰もが異人である
    ★★★★

     昼と夜の間の”たそがれ時"の光の中、ガラス窓の表面に何かが滲んだかと思うと、それが窓に映り込む主人公の姿だとわかる。そういう淡い光の中に、リアルとアンリアルの狭間の世界が映し出されていく。

     そして原題「All of Us Strangers」通り、人間がみな異人であることが胸に沁み入る。ここは自分の居場所ではないと感じる者はみな異人であり、永遠にここにいるわけではないという意味で人は誰もが異人だ。原作は親子の物語の印象が強いが、本作はそれをすべての人間の物語として描き直す。『荒野にて』『さざなみ』のアンドリュー・ヘイ監督は、これまでもそんな異人が一人で歩く光景を描いてきたのかもしれない。

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