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大泉洋、役者は「不得意」だからこそ続けられる

『浅草キッド』に出演している大泉洋
『浅草キッド』に出演している大泉洋 - 撮影:高野広美

 ビートたけしが自ら作詞・作曲した楽曲と自叙伝を基にしたNetflix映画『浅草キッド』で、若き日のたけしが師と仰いだ伝説の浅草芸人・深見千三郎を好演した俳優の大泉洋。本作の撮影を振り返るとともに、生涯舞台芸人を貫き通した深見の生き様から学んだ真のプロフェッショナルについて思いを語った。

伝説の浅草芸人を熱演した大泉洋【インタビューカット】

 本作は、『青天の霹靂』(2014)で大泉とタッグを組んだ劇団ひとりが、「これを撮らなければ前に進めない」という熱い思いで監督・脚本を手がけた青春ドラマ。舞台は昭和40年代の浅草。大学を中退し、ストリップとお笑いの殿堂「浅草フランス座」に転がり込んだタケシ(柳楽優弥)は、数多くの人気芸人を育てた深見千三郎(大泉)に弟子入り。個性豊かな仲間たちと切磋琢磨しながら、やがて芸人として頭角を現していく。だが、テレビの普及によって演芸場の客入りは減る一方、タケシは苦渋の決断を下す。

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生き方が違うけれど、深見師匠は憧れの存在

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『浅草キッド』より

 第6回TAMA映画賞最優秀男優賞(大泉)、新進監督賞(ひとり)をダブル受賞した『青天の霹靂』から7年、「それこそ深見師匠じゃないけれど、当時、ひとり監督から褒めてもらった記憶がまったくなかったので、7年ぶりにまた声をかけていただいたことがなによりうれしかった」と感慨深げに語る大泉。「かっこ悪いかっこ良さっていうんですかね、ひとり監督が描く世界観が大好きで、彼のやりたいことも良くわかるし、時おり想像を遥かに超えてくる演出もある。僕が最も信頼している監督の一人、相性もすごく良いので、『次回作もお願いします!』って感じですね(笑)」

 しかもオファーされた役が、大泉も大ファンだというビートたけしを育てた伝説的浅草芸人・深見千三郎。「お笑い好きの方なら誰もがそうだと思いますが、僕も寝ても覚めてもたけしさんの番組ばかり観ていた時期がありましたし、小学校後半から中学生くらいまでは、話し方が完全にたけしさん口調になっていましたからね。それくらいファンだったたけしさんの師匠を演じられるなんて、こんな幸せなことはありません」と喜びを口にした。

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 ただ、大泉と深見は生き方が真逆だそうで、「照れ屋で滅多に人を褒めない。うれしくても『調子に乗るな、バヤカロー!』と怒鳴ってみたり、心とは逆のことを言ってしまう、まさに不器用な昭和の芸人さん。僕とは生き方がまったく違うけれど、『こんな風に言えたらかっこ良いな』という憧れはありますね」と思いを寄せる。ちなみに大泉自身は、「自分が褒められて伸びるタイプだったので、後輩たちの良いところを探して、なるべく褒めるようにしています」とソフト路線。

 さらに、「自分の気持ちを伝えたい時にはっきりと伝えるし、『ありがとう』という言葉を積極的に言うようにしていますね。僕らの上の世代は、『そんなこと言わなくてもわかるだろ』という方が多いし、深見さんに至っては、特にわからせる必要もないと思っていたのかもしれないけれど、今は時代が違いますからね。そういった意味でも、映画とはいえ、昭和の芸人さんの世界に入れたことは、貴重な経験だった」と述懐した。

俳優・柳楽優弥を心からリスペクト

 「芸人なら笑われるな、芸で笑わせろ!」厳しくも愛のある言葉で、将来、日本の宝となる“タケシ”という原石を磨き上げた深見。羨ましいほど素敵な師弟関係だが、撮影を通して、大泉自身もタケシを演じた柳楽に対して同じような師弟愛を感じたのだろうか? 「いやいや、逆ですよ。僕なんかはただ歳をとっているだけ(笑)。柳楽くんは若いけれど、役者として尊敬しています。彼の作品はなにを観てもすごいなと思うから、そういった意味では彼に師弟愛を感じることは全くなかったです。もう心からリスペクトしちゃっているので」とベタ褒めだ。

 そんな柳楽が最も輝くタップシーンがあるが、大泉は「そのシーンが好きでたまらない」と目を輝かせる。「柳楽くん演じるタケシが、深見師匠が大切にしている靴を勝手に履いて楽しそうにタップを踏むんですが、あそこは映画としてもすごく盛り上がるシーンですよね。ちょっと例えが違うかもしれないけれど、映画『ロッキー』みたいに、トレーニングを積んでどんどん強くなっていくみたいな(笑)。曲の良さもあって、めちゃめちゃアガるシーンですよね。もう何回でも観たくなる」と声を弾ませる。

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 大泉自身もタップを華麗に踏むシーンが何度も出てくるが、深見を演じるために撮影前に猛練習したのだとか。「初めてタップに挑戦しましたが、『青天の霹靂』でやった手品よりも自分に向いていると思いました。撮影が終わったあとも続けたいなと思ったくらい。たけしさんもおっしゃっていましたが、僕らのような仕事をしていると、やれるに越したことはない芸ですから。ただ、思っているだけで、継続するのはなかなか難しい。結構、体が温まるので、撮影の待ち時間に踏んだりはしていますが、今となっては完全に寒さ対策ですね」と苦笑いを浮かべた。

俳優は「不得意」だからこそ挑戦しがいがある

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大泉洋 - 撮影:高野広美

 本作は、下積みから這い上がり、スターに成り上がっていくタケシの姿も素晴らしいが、それ以上に芸人として己(おのれ)の“生き様”を貫く深見の姿が胸に刺さる。俳優として大成した大泉にとって、自身の仕事に対して一番価値を感じるところはなにか。そして、今も貫く生き様とは? 「やはり、自分自身が心から納得できるお芝居ができた時ですかね。これが、なかなかうまくいかない」と顔をしかめる。

 「本当に好きなのは、“お笑い”なんだろうなと思いますね。人を笑わせている時の方がずっとリラックスしていてやれている。だからなんとなく、不得意なことばかりやっている気はするんですが、逆に不得意だからこそ、悔しくても、悲しくても、挑戦しがいがあるというか。ここが本当に難しいところ。毎回、毎回、落ち込むし、監督からOKが出れば、それ以上やりたい! と思っても、迷惑だから諦めるしかない。本当だったら、自分が納得いくまでやりたいけれど……そこのせめぎ合いでいつも葛藤していますね」と胸の内を明かした。

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 最後に、波乱に満ちた深見の半生を演じ切った大泉に、改めて“真のプロフェッショナル”についてと問いかけてみると、少々考え込みながら、「その分野において圧倒的なプライドを持って、決して妥協せず、どこまでも努力する人」という真摯な言葉が返ってきた。「深見さんに関しては、本当のところはわからないけれど、最後まで舞台芸人にこだわって、テレビを拒否し続けたとしたら、長いものに決して巻かれないところがすごいなと思いますね。普通の人なら、どう抗ったって巻かれていくものですから」

 映画監督・北野武としてもグローバルな活躍を見せる“お笑い芸人”ビートたけし。彼を世に送り出した伝説の浅草芸人・深見千三郎の生き様が、俳優・大泉洋の姿を通していよいよ世界190か国に知れわたる。(取材・文:坂田正樹)

Netflix映画『浅草キッド』はNetflixにて全世界独占配信中

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