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笠松将「オーディションでキレる」の真相 悔し泣きも主演抜擢

笠松将
笠松将

 2020年、若手実力派俳優のネクストブレイク筆頭というべき存在が、ヒップホップアーティストSEEDAのアルバムを原案にした映画『花と雨』(1月17日公開)で主演を務めた笠松将だ。涼しげな切れ長の瞳に社会や自身への怒りを宿し、現代を生きる若者のもがきを体現。オーディションで大役を勝ち取ったが、土屋貴史監督によると「オーディションで、笠松さんはやたらとキレて帰った」とのこと。その真相を聞いてみると、本作、そして役者業にかける真摯な思いが浮かびあがってきた。

【動画】笠松将主演『花と雨』予告編

 幼少期をロンドンで過ごし周囲の空気に馴染めなかった吉田(笠松)が、偶然出会ったヒップホップとの出会いを通して、困難な現実を乗り越えようとする姿を描く本作。もともとは主人公の吉田役ではなく「どんな役でもいいから、この映画に参加したい」との思いでオーディションに参加したという。「SEEDAさんや(原案となっているアルバムの)『花と雨』も以前から好きでしたが、ちょうどその頃、嫌なことやつらいこともたくさん経験して、SEEDAさんの歌詞や表現方法から救われたり、また頑張ろうという力をもらっていた時期だったんです」と思い入れを語る。

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 「キレた」というオーディションを振り返ると、「『この作品の力になれれば』という気持ちで、『花と雨』も聴き込んでオーディションに向かいました。芝居もしっかりやろうとセリフも覚えていったのに、思うようにアピールすることができなかったのですごく悔しい思いで帰ったんです。監督もまったく僕に興味がないと言い切れる反応だったんです……」と述懐。「自分のことを過信して、“バン!”とドアを閉めて怒って帰ったとかじゃないんですよ(笑)。悔しくて、泣きながら走って帰りました」と本気ゆえの悔しさがにじみ出てしまったのだという。

花と雨
映画『花と雨』より(C) 2019「花と雨」製作委員会

 結果、その姿が吉田とピタリと重なって見事に主役を射止めたが、オーディションに臨む上では彼なりの持論があると語る。「僕としては、オーディションでやる気や熱意を見せるのはカッコ悪いと思っていて。頑張るとか一生懸命やるのは、当たり前のことです。準備して臨み、やるべきことをやって芝居を見てもらう。それだけのことです。それで選ばれなければ仕方ない」とストイックな役者魂をみなぎらせる。

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 役者を志したのは、地元の愛知でスカウトされたことがきっかけだ。「僕にも俳優を目指す権利があるんだ。そんな選択肢があったんだ」と気づき、高校卒業後に18歳で上京。「初めは上京してその世界を目指す勇気もなかったんですが、母親が『生活費は自分で稼いでもらうけど、ちょっとでもやりたいと思っているならやってみれば』と言ってくれた」と背中を押されたが、「事務所に書類を送っても、まったく引っかからない。100通くらい送ったと思いますが、面接すらたどり着かない。こんなにうまくいかないものなのか、入り口にも立てないのかと現実の厳しさを思い知った」と挫折を味わった。

 俳優デビューから約6年が経ち「悔しい思いなんてできればしたくない」というが、さまざまな経験をしたことが台本を読む上で想像力を膨らます糧にもなっている。本作では、ラッパーとしてのスキルに磨きをかけつつも、現実の壁に何度もぶち当たる青年のもがきを演じ切ったが、俳優業の醍醐味を聞いてみると「楽しいことでは決してないです。むしろ、キツイ」と笑い、「今回でいうと、吉田に向き合うためには、どうしても僕自身にも向き合わなければいけない。自分自身も見つめ直すことになるわけで、それはしんどいことです」と俳優という職業に常に伴う試練を噛みしめる。

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笠松将

 それでも持ちこたえていられるのは、「やっぱり作品が出来上がると、嬉しいですよね。昔、高良健吾さんが主演をされていたドラマにエキストラで参加したことがあって。高良さんは僕にも話しかけてくださって、ものすごくありがたかったし、素敵な人でした。かっこいいと思える人がいる世界で、ちゃんと成果を残すまではやめられないと思っています」と、先輩たちからの刺激も重要であることを強調する。

 キャリアを積み重ねる中で、本作との出会いは大きなものとなったという笠松。「この映画に出演してからは、どんな仕事も断らずにやろうと思ったんです。たとえどんなに小さな役だとしても、たまたま僕が出ているのを見て、『花と雨』に興味を持ってくれる人がいるかもしれない。きっとそうやってつながっていくもの。何だって、必死にやれば誰かが見てくれていると思うんです。これからも “何かを残してくる”というのを目標にしたい」。熱量や一生懸命という言葉を使うことは照れ臭いようだが、彼から発せられる作品や俳優業への思いは、とことんアツい。(取材・文:成田おり枝)

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