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激震の雨傘運動、中国返還20周年…香港映画界の今(3/4)

映画で何ができるのか

香港映画人としてのアイデンティティーを守る

アウト・オブ・フレーム
『アウト・オブ・フレーム』(2015)監督:ウィリアム・クォック 当局の圧力によって精神的に追い詰められていく画家たちの苦悩。北京で実際に起こった芸術村閉鎖事件がモデル

Q:香港映画の中での、最近の警察の描き方については気になっていました。香港警察といえばマフィア並みに怖い存在でしたが(苦笑)、今年のウディネ・ファーイースト映画祭で上映されたアンディ・ラウ主演『ショック・ウェーブ(英題)/Shock Wave』(2017)も『エクストラオーディナリー・ミッション(英題)/Extraordinary Mission』(2017)も、気持ちいいくらいの警察ヒーローものでした。たまたま選ばれた作品がそうだったのかもしれませんが。

ヴィンセント監督:やはり何が怖いって、そうした見せしめがあることで、暗黙の圧力を受けて自主規制の風潮が生まれることでしょう。実際、今年の香港インディペンデント映画祭でこんなことがありました。台湾ニューシネマの特集を企画したので、せっかくなので多くの人に観て欲しいとシネコンに上映交渉に行きました。当初、支配人は乗り気だったのですが、いざチラシが完成して持って行くと、この映画祭では香港インディ・ビジョン部門で「雨傘運動」の映画も上映することを知った。すると急に怖気付いてしまって、結局、そのシネコンでの上映は諦めざるをえませんでした。そしてわたし自身、『乱世備忘』のプロデューサーでもあるのですが、いろんな劇場を回って営業をしましたけど、全部拒否されましたからね。その理由はわかりませんが、やはり自主規制があったのではないかと思います。

Q:くしくもテアトル新宿でのトークイベントで森達也さんが指摘していたように、社会を封じこめようとする大きな力が生まれた時に、それに抵抗するような粋のいい、面白い作品が生まれる傾向があるようにも思います。今年の大阪アジアン映画祭でグランプリを受賞するなど各国の映画祭で話題になっているウォン・ジョン監督の『一念無明』を筆頭に、人間ドラマで魅せる、良い作品が生まれているのではないでしょうか。

ヴィンセント監督:確かに、最近公開された『台湾新電影時代』(2014)という作品がありますね。ホウ・シャオシェンエドワード・ヤン、ワン・トンらがいかに時代を作ったか? というドキュメンタリーですが、彼らが頭角を現してきた1980年代というのは、台湾の社会情勢が決して良い訳ではなかった。でもそれと同じような流れを『十年』のオムニバスを撮った監督たちが作れるかというと、わたしは少し懐疑的です。

ウィリアム監督:しかも、今製作されている香港映画のほとんどが中国との合作映画であって、必ずしも香港の今をリアリズムで描いている作品ではありません。ただ昔の、ジャンル映画に特化していた時代の監督たちと違って、今の若い監督たちが自分の身の周りで起こっている事に関心を持つようになったのは良い傾向だと思います。

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遺棄
『遺棄』(2013)監督:マック・ジーハン 病で働けなくなった父と、イジメに遭う息子という社会から“遺棄”された父子の壮絶なドラマ。弱者が切り捨てられていく社会は日本と通じるものが……

マック監督:若い映画監督たちにとって今はチャンスですよね。ウォン・カーウァイツイ・ハークが活躍していた香港映画の黄金時代だったら、彼らは映画を撮る機会すら与えられなかったでしょう。僕の場合は、劇映画ではなくドキュメンタリーなので、その恩恵にあずかれるかどうかはわかりませんが。

ヴィンセント監督:いずれにしても今、香港で映画を撮るというのは、政治に左右されることは避けられない状態です。

マック監督:実際のところ香港で映画を撮っているぶんには、そこまで中国を意識しなくても良いのかもしれない。でも中国のマーケットを考慮して作るとなると、少なくとも広東語ではなくマンダリン語で映画を撮らねばならず、それだけで自分のアイデンティティーが奪われたような感じになります。

ウィリアム監督:日本も、中国との合作協定が進んでいるそうですね。より大きなマーケットを考えれば合作も良いかもしれませんが、何かを犠牲にし、妥協して映画を作ることが本当に良い道なのか。面白い映画が出来るのか、考えて欲しい。僕らは今後もインディペンデントで、自分たちの映画を作っていきたいと思います。

香港インディペンデント映画祭は6月3日~9日、大阪シネ・ヌーヴォにて開催

>オフィシャルサイト

>座談会メンバープロフィール

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