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『GARMWARS ガルム・ウォーズ』押井守監督 単独インタビュー(2/2)

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■実写作品が続いたワケ

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実写とアニメ、押井監督の目指す地平は (C) I.G Films

Q:『ガルム』を経た今、ご自身の中でアニメの監督なのか実写の監督なのかという線引きはありますか?

まぁ、どっちでもいい。方法論が違うだけで監督は監督だからさ。実際問題、俳優と付き合う方が楽しいしリラックスできる。アニメーターと付き合う方がはるかに難しいし、今、アニメやれって言われたら面倒くさいなと思うけど(笑)。でも、アニメの良さも確実にあって、ひとつひとつを積み重ねて自分のイメージを形にしていくっていうのは他にないものだから。

Q:近年は『THE NEXT GENERATION パトレイバー』『東京無国籍少女』『GARM WARS ガルム・ウォーズ』と実写作品の公開が続きました。

それはたまたま一緒になっちゃった。監督っていうのは仕事を選べないからさ。ないときは2~3年なかったりするし、決まるときは立て続けに3本決まったりするんですよ。(依頼が)来た物を受けるか受けないかっていうことなので、今回はこの際だから全部やっちゃおうっていう。結果的にいえば見事に違う映画を3本作って、結構、大きな経験になった。

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(C) I.G Films

Q:実際には、その中で『ガルム』が最初に撮影された作品とうかがいました。

公開順序はまるで逆だけど、『ガルム』が一番に完成した。だから、完成して1年くらい経っているので、今どういう気分かって言われると、自分の中では、わりと終わっちゃっているんです。でも、これからお客さんにどの程度受け入れられるのかはわからない。そこに、鈴木敏夫の話がふってわいたから、ますますわからなくなった。彼が僕の作品に(製作として)関わったのはこれで3回目だけども、基本的に今まで1回も成功していないから。

■ジブリ鈴木敏夫の存在

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タイトルロゴも鈴木敏夫が手掛けた(C) I.G Films

Q:『天使のたまご』『イノセンス』といった作品ですね。

鈴木敏夫といえども、「無から有は生み出せない」って言ってたよ。でも、『天使のたまご』はラインプロデューサーをやったわけじゃないし、『イノセンス』は宣伝プロデューサーとしてのかかわり。今回はもうちょっと踏み込んでる。日本語版で公開するって言い出したのもあの男だから。絶対必要だってね。公開を待ちくたびれちゃって、もう忘れかかったところで突然やるからってなって出てきたのがあの親父で、なるほどって思ったよ。確かに、これしか手はないだろうって。日本語吹き替え版やるっていうのも半ば予想してた。あの男だったら絶対そう言うだろうって。編集を変えようって言わなかっただけ立派だよ。言ったって無駄だって思ったんだろうけどさ。

Q:その日本語版ですが、素晴らしい出来だなと感じました。

多少悔しいけど、思ったよりぜんぜん良かった。違和感がなくて驚いたよ。非常にうまく作られている。しかも、映画の中身は変更していないから。ただ、ファンタジーってある程度は言葉の世界で、特殊な言葉使いが多いわけ。固有名詞はさすがに変えなかったけど、いろんな言い回しに関していえば、当然変わってくる。だから、僕が考えるファンタジーの色合いからするとね、少し薄まって、薄まった分だけわかりやすくなった。

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現実と地続きではないビジュアル世界が展開する (C) I.G Films

Q:以前『ブレードランナー』について「映画ってストーリーとキャラクターだけじゃなくてビジョンが大事なんじゃないかと確信した作品」という趣旨の発言をされていましたが、本作はまさにそういう作品だったのかなと思いました。戦闘機のデザインひとつとっても、現実と地続きの存在に見えないというか。

人間に至るまで、全てビジュアルで異世界を構築するっていうものを目指した。例えば戦闘機なら人間が作り出した物からイメージされる……つまり『スター・ウォーズ』のXウィングじゃなくて、どういう原理で飛んでいるんだろうって物。コックピットに乗っているって時点でもう駄目で、体の延長として、着るものとしての戦闘機っていう発想だったりしたんですよ。ほかに重さの単位とか時間の単位も全部作り上げて、固有名詞もなるべく聞いたことのないようなネタをいろんなところから引っ張ってきて、そういう世界を構築する作業にすごい時間がかかった。ただ『アヴァロン』でも言っていたけど、「誰も見たことのない映像」なんてのは、鈴木敏夫に言わせれば「そんなこと言ってるから駄目なんだよ」って。それは観客に観に来るなって言っているようなもんで、お客さんっていうのは見たものしかわからないんだからってさ。僕が言ったわけじゃないんだけどね。ただ、圧倒的なビジュアルを作り上げようとしたことは事実だった。

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■映画は国境を越えない!

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本編にはアクションもふんだんに用意されている (C) I.G Films

Q:わかりやすいといえば、『ガルム』が完成した後の会議で、「作家性が高くて観客を選ぶ」と製作陣に言われたそうですね。実際に作家性は強いけど観客を選ぶ作品という印象はありませんでした。

僕もそう思うよ。あんたらが日本人だからそう思うんだよって、説得したんだもん。剣と魔法がミリタリーとテクノロジーになっているだけで、お話自体は伝統的なファンタジーの典型だし、あれで違和感持つ人間は少なくとも北米、ヨーロッパにはいないよって。ただまぁプロデューサーは、これは誰が観るんだろうって考えるのが仕事で、そういう目を持たなくなったら終わりだからそれは別にいいんですよ。当然怒ったし、何でわかんないんだこのバカ! って思ったけど(笑)、気にしているわけじゃない。それはいつものことだから。『アヴァロン』のときだって、誰が観るんだこれはって言われて日本では当たらなかったけど、海外で結構な商売したので実は十分にペイしちゃった。僕は、日本で駄目でもヨーロッパで売れて元がとれればいいじゃんっていう主義だから。日本人の監督だから日本で勝負する必要があるとは少しも思っていない。

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『エイリアン』のビショップ役ランス・ヘンリクセンも出演 (C) I.G Films

Q:赤字を出さないっていう監督の主義に沿っているわけですよね。

正確にいうと赤字を出したことはあるんだけどね(笑)。でも趣旨としてはそういうこと。時間はかかるけどおおむね成功してきた。

Q:『ガルム』はそういった意味でも、国境に関係なく観られる映画であるかと思うのですが。

いや、日本が一番難しいと思う。だいたい僕の映画って、日本で一番苦戦しているし(笑)。『アヴァロン』もそうだったし。『立喰師列伝』だって、映画祭だけどヨーロッパではウケてますからね。日本ではなかったことになってるじゃん(笑)。

Q:なかったことにはなってないですよ!

いやそうなんだって(笑)。でも、はるか昔に(ジャン=リュック・)ゴダールが言っていたけどさ、映画っていうのはしかるべき場所で観られなければ意味ないんだよって。だから自分の映画がどれだけ当たったってしょうがなくて、観られるべき場所で公開されて意味があるんだっていうさ。映画は国境を越えないっていうのは僕の持論。その映画固有の国籍と監督の国籍は実は一致しないんだよ。ゴダールだってスイス人だからね。音楽だって国境なんか越えないよ。歌詞をわかって聞いてんの? っていうさ。

Q:ただ、日本の皆さんにも観てほしいという立場の方はたくさんいると思いますけど……。

あきらめているわけじゃなくて、もちろん当たったらいいなと思ってるよ(笑)。そういう、本質的に『ガルム』って作品が抱えている問題や難しさを理解したのは実は鈴木敏夫なんですよ。やっぱりあの親父はバカじゃない。(キャッチコピーを手掛けた)虚淵玄もそうだけど、やっぱりあの二人は映画に関しては物をわかっている。だからこそ日本語版っていう発想や、ああいうキャッチも生まれたんだろうけど。

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(C) I.G Films

Q:昔、『GHOST IN THE SHELL 攻殻機動隊』がイギリスのビルボードで1位になったときに、ハリウッドからおいしい話がきたけど、最終的にやらないことにしたと話されていましたよね。今回『ガルム』を経て海外の企画にかかわったりということを考えたりはされますか?

お話があれば。ただ、一定の条件が合えばですよ。向こうの話っていうのはすごく面倒くさくて、下手したら3~4年待たされたあげく、やっぱやめたとかもあるし。だから、別にやりたくないわけじゃない。ただ、自分の性格に向かないと思っただけ。待たされるのが嫌いだし。それに、ハリウッドに行ったから監督としてランクが上がるわけじゃないっていうのは一貫して思ってることだから。イチローとか中田(英寿)だって、メジャーリーグやセリエAに行くこと自体に価値があるとは思ってないと思うよ。日本でできないことがあるから行くだけであってさ。ランクを上げたいとか日の丸背負っていくんだとか、そういうこととも、ぜんぜん関係ないと思う。僕も『ガルム』なんかは日本で撮れないから向こうでやったんであって、それ以外の理由は何もない。日本でやった方がぜんぜん楽だもん。こんなに楽なことないよ。弁当食ってやってりゃいいんだからさ(笑)。

映画『GARMWARS ガルム・ウォーズ』は5月20日より全国公開

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