今 祥枝

今 祥枝

略歴: いまさちえ/映画、海外ドラマライター。『BAILAバイラ』『eclatエクラ』『日経エンタテインメント!』『日本経済新聞 電子版』ほかに連載・執筆中。ほかにプレス、劇場パンフ、各局のHPなどに寄稿。時々、映像のお仕事。著書に『海外ドラマ10年史』(日経BP社)。海外ミュージカルファン。

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今 祥枝 さんの映画短評

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  • さよなら、アドルフ
    アイデンティティーを強制的に喪失させられることの悲劇
    ★★★★★

    父親がナチ親衛隊の高官だった14歳の少女が、敗戦後、性急に大人になることを強いられる過程はあまりにも過酷だ。自己の意思決定に責任を持つべき大人たちの戦争責任は別問題として、この年齢の子供が、一方的な外的要因によりアイデンティティーを崩壊させられることの悲劇。同時に、現実を知った彼女が自身を罰するかのように内側から自己を破壊していくことの痛々しさに言葉を失う。

    戦勝国側か敗戦国側かに関わらず、あらゆる価値観が覆され、自身のルーツを否定され、自己の存在に疑問を抱きながら生きる苦しみとはいかばかりであろうか。今もどこかで起きている人々の苦難を思わずにはいられない。

  • 小さいおうち
    見事なまでの山田洋次節に対する驚嘆
    ★★★★

    恐らく多くの熱烈な中島京子の原作のファンにとっては、冒頭から戸惑いを感じるに違いない。夫婦の関係性や同性愛の要素、タキのある行為をめぐる理由など、原作のキモと思われる部分の設定や解釈が大きく異なる(またはそう考えられる)からだ。

    映画はより戦争が一般市民の生活に落とす影=閉塞感を強調し、”家族”という社会の最小単位に重きを置いた翻案となっている。大筋は変わらず原作のエッセンスを汲んではいるが、その肌触りはかなり違う。最後まで観て改めて、冒頭の戸惑いは見事なまでの中島京子の世界から山田洋次節への変換に対する驚嘆へと変わる。それでこそ映画化の意味もあるというものだろう。

  • 鉄くず拾いの物語
    当事者が演じることで可能になったこと
    ★★★★

    本作は当事者が実際に体験したことを演じるという、限りなくドキュメンタリーに近いドラマである。この方法により製作費を抑えてわずかな期間で映画を完成させたことで、当事者の窮状は改善されることとなった。この種の問題を社会に訴えるのはスピードという点で新聞やTVが果たすべき役割が大きく、本作も新聞記事から始まったプロジェクトだが、映画として世に出ることで国境を越えてより大きな成果を可能にしたと言える。

    お金がなければ適切な医療が受けられない時代は、日本の現状において決して遠い話とは思えない。劇中、当事者たちが伝える”リアル”に、迫り来るいい知れない不安と危機感を覚えて胸が苦しくなった。

  • バイロケーション
    奇をてらわない作りが好印象
    ★★★★★

    もうひとりの別人格の自分(通称バイロケ)が出現するスリラー。全体を支配する、じわりと迫り来る不気味なトーンがなかなかよく、監督の安里麻里は健闘している。この手の恐怖ものに過剰な期待をする映画ファンは少ないだろうが、奇をてらわない作りに好感が持てる。

    ひとり二役に挑戦しているキャストの中では、とりわけ滝藤賢一の目を血走らせた狂気の演技が想定内とはいえ怖いったらない。

    ラストは2パターンある。オリジナル版の「表」に続き、2月に「裏」が公開。各オチはバイロケに全く異なる解釈をもたらすもので興味深いが、最後の数分のために劇場で2度観る観客はいないだろう。試みは買うがDVDの特典映像で十分なのでは。

  • マイヤーリング
    アメリカのTV史を紐解く上でも興味深い
    ★★★★

    先頃、アメリカの放送局NBCでミュージカル『サウンド・オブ・ミュージック』がライブ放送されて話題を呼んだが、かつてTV放送はライブだった。'57年に同NBCの「プロデューサーズ・ショーケース」でライブ放送された本作は、CMの間に衣装替えといった舞台裏の過酷さを想像しつつ、オードリー・ヘプバーンとメル・ファーラーの気品あふれる演技を観ると、また違った感慨があるだろう。

    物語は「許されぬ恋に落ちた2人の悲恋」とわかりやすくドラマチック。在りし日のオードリーに思いを馳せつつ、ノスタルジーに浸るのもよし。あるいは当時のTV事情を紐解くきっかけとして、また今のTV事情を鑑みる上でも興味深い作品だ。

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