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鉄くず拾いの物語 (2013):映画短評

鉄くず拾いの物語 (2013)

2014年1月11日公開 74分

鉄くず拾いの物語

ライター2人の平均評価: ★★★★★ ★★★★★ 4

今 祥枝

当事者が演じることで可能になったこと

今 祥枝 評価: ★★★★★ ★★★★★

本作は当事者が実際に体験したことを演じるという、限りなくドキュメンタリーに近いドラマである。この方法により製作費を抑えてわずかな期間で映画を完成させたことで、当事者の窮状は改善されることとなった。この種の問題を社会に訴えるのはスピードという点で新聞やTVが果たすべき役割が大きく、本作も新聞記事から始まったプロジェクトだが、映画として世に出ることで国境を越えてより大きな成果を可能にしたと言える。

お金がなければ適切な医療が受けられない時代は、日本の現状において決して遠い話とは思えない。劇中、当事者たちが伝える”リアル”に、迫り来るいい知れない不安と危機感を覚えて胸が苦しくなった。

この短評にはネタバレを含んでいます
森 直人

医療拒否の現実を問う手持ちカメラのプロテストソング

森 直人 評価: ★★★★★ ★★★★★

『ノー・マンズ・ランド』でボスニア紛争の狂気を98分に凝縮したタノヴィッチ監督が、今度は74分の重い一撃を放った。保険証を持っていないロマの貧しい夫婦が医療拒否に遭った顛末を描く内容だが、なんとモデルになった事件の当事者が本人役を演じている。

形式としてはダルデンヌ兄弟系のドキュドラマだが、映画表現の持つ力がフルに活かされた例だ。社会への怒りを事後的に訴えたい時、ドキュメンタリーなら「説明」にはなるが、こちらは生々しい感情を喚起して胸の奥に届く。

かつて従軍した夫は「戦争中の方がまだマシだった」とこぼす。庶民の日常生活を死の淵まで抑圧するシステムの軋み。むろん日本の我々にも他人事ではない。

この短評にはネタバレを含んでいます
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