今 祥枝

今 祥枝

略歴: いまさちえ/映画、海外ドラマライター。『BAILAバイラ』『eclatエクラ』『日経エンタテインメント!』『日本経済新聞 電子版』ほかに連載・執筆中。ほかにプレス、劇場パンフ、各局のHPなどに寄稿。時々、映像のお仕事。著書に『海外ドラマ10年史』(日経BP社)。海外ミュージカルファン。

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今 祥枝 さんの映画短評

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  • 四十九日のレシピ
    女の幸せと、ひとりの人間としての幸せは違うのか?
    ★★★★

    タイトルから料理自慢のしみじみとした人間ドラマを予想したが(筆者は原作もドラマも未体験)、これが思った以上にぐさぐさと女の心に刺さる映画だった。

    主人公の百合子は、実子を持つことなく亡くなった養母・乙美の人生をたどりながら、自身の破綻した結婚と重ね合わせて改めて女の幸せとは、母親とは何なのかを思い悩む。そしてふと涙ながらにつぶやく、「子供を産まなかった女の人生は空白が多いのかなあ」という台詞はずしりと重い。

    現実として、”女の幸せ”に関する社会通念の壁は厳然と存在しており、本作の百合子のように、親戚や知人、メディアに夫やその愛人etc.から受ける「子供を持たない女」への言葉の破壊力は凄まじいものがある。それが故意にしろ無意識にしろ。

    果たして、女の幸せとひとりの人間として幸せに生きることは、別モノなのだろうか? 筆者は決してそうは思わない。乙美の生き方は改めてそう思わせてくれるものだが、観る人の年齢や状況によって思いは複雑だろう。心温まるエピソードも多いが、親子や夫婦、家族のあり方、社会や他者との関わり方などについて考えさせられる作品だ。

  • キャリー
    クロエ・グレース・モレッツがかわいい!以上!
    ★★★★★

    キャリー役クロエ・グレース・モレッの、はつらつとした若さに内側から輝くような美しさは隠しようもなく、誰がどう見ても元気一杯かつ愛らしい。よって、明らかに格下感のある女どもにいじめられても、狂信的な母親に抑圧されても悲壮感にも説得力にも欠けるが、アイドル映画として観る分にはアリなのか。

    ブライアン・デ・パルマの'76年版へのオマージュやリスペクトも理解はできる。が、筆者が最も'76年版に心引かれる点は、”恐怖”よりも”悲しみ”や”痛み”にある。しかし、今作のキャリーからは沸点に達した怒りの根底にあるエモーションは伝わってこなかった。ゆえにラストの惨劇は原作により忠実に派手さはアップしているが、印象はあっさり。全体として表層的にデ・パルマ版をアップデートしただけのライトな仕上がりに…。

    監督は『ボーイズ・ドント・クライ』(00)のキンバリー・ピアース。彼女があえてこの種のジャンル映画に、もとより分の悪い勝負に挑むのであれば、結果的に賛否あったとしても原作に再アプローチした新解釈版『キャリー』を見せて欲しかった。まあ、言うは易しなのだろう。

  • 僕が星になるまえに
    ”死”の残酷さを直視した、作り手の真摯な姿勢に好感が持てる
    ★★★★

    末期ガンの29歳のジェームズが、最後の願いとして親友3人と旅に出る2010年のイギリス映画。

    この種の題材は、必要以上に物語をドラマチックにするあざとさや死を美化して描くことに何よりも嫌悪感を覚える筆者だが、想像以上に現実を直視した作り手の真摯な姿勢には感動すら覚えた。心をもむしばむ身体の激痛に耐えながら、友人たちについ厳しい言葉を浴びせてしまうジェームズ。対して本音をさらけだす友人達との言葉の応酬は、どれも鋭く胸に刺さる。

    命の限りを意識し実感することは、「どう生きるか」に直結する。本作はロードムービーの体裁を取りながら、死の残酷さをきっちりと描くことによって、今生きているこの瞬間がいかに貴重で奇跡的なことであるかを切実に伝えている。

    ジェームズを好演するのはベネディクト・カンバーバッチ。精一杯のシニカルなユーモアを発揮しつつ、友に向けた強い言葉に自分自身が傷ついてしまうような哀し気な表情が忘れられない。ラストは賛否あるだろうが、絶対的な正解は存在しない問題なので個々の見解があって然るべきと思う。

  • ある愛へと続く旅
    壮絶な悲しみを乗り越え、女性たちは次世代へ命をつむぐ
    ★★★★

    むせ返るほど濃密な男女の愛を描いた『赤いアモーレ』(04/監督第2作)のセルジオ・カステリットの新作。かつこの邦題から再び濃厚なラブストーリーを想像したが、中盤以降でがつんと衝撃をくらった。そのヘビーさは、本作の背景となっているボスニア・ヘルツェゴヴィナ紛争の、その後を描いた秀作『サラエボの花』(07)に匹敵する。

    例えようもなく、女であることが悔しくて悲しくていたたまれなくなる映画だ。同時に、主人公ジェンマだけでなく本作に登場する女性たちのたくましさ、生きる力には圧倒される。これほどの苦難を乗り越え、とてつもなく深い愛情をもって次の世代へ命をつないでいこうとする姿の、なんと尊いことか。

    20年にも渡る歳月を力強く演じ切ったペネロペ・クルスに対して、恋人役エミール・ハーシュの純真さともろさがはかなくも繊細な演技がいい。俳優歴の方が長いカステリットは監督としても魅力があるが、『赤いアモーレ』と同じく彼の妻の小説を共同脚本で映画化した本作は、より強い女性の視点と社会派の要素がよく作用しており、情熱的な愛の物語が普遍性のある人間ドラマへと昇華している。

  • パーシー・ジャクソンとオリンポスの神々:魔の海
    前作よりテンポよく、作風は「ハリー・ポッター」化が顕著
    ★★★★★

    第1作はオリンポスの神々の痴話げんかの背景説明などがまどろっこしかったが、今作は冒頭から戦闘開始でテンポもよく冒険ファンタジーとして単純に楽しめた。

    前作の監督クリス・コロンバスは今回は製作総指揮として参加しているが、ギリシャ神話色は薄れて「ハリー・ポッター」化が目立つ。原作は未読だが、半神半獣が集うハーフ訓練所はホグワーツ魔法学校だし、予言やらガジェットやら謎解き絡みの冒険談に強敵クロノスの復活はヴォルデモートのごとく。

    ただし、全般的にノリは軽い。自らの資質に悩めるジャクソンも割とさっさと運命を受け入れ、その上で道は自分の手で切り開くもの!と前向き。主演のローガン・ラーマン(11月22日公開の主演作『ウォールフラワー』は必見)の、どこかのんきで陽性のキャラは癒し系で、これはこれで魅力がある。

    映画ファンには不評の吹替版のタレント起用に関しては、ヒロイン役の渡辺麻友はそつなくこなしている。ナメてるのか!?と思ったゆるキャラふなっしーは、出番は少ないが筆者は不覚にも笑ってしまった。主役続投の宮野真守はプロかつハマリ役なので、2Dで十分の内容だが3D吹替版もありかと思う。

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