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「どうする家康」時代考証・小和田哲男氏が驚いた大胆なアレンジとは?

第1回「どうする桶狭間」より瀬名(有村架純)と家康(松本潤)
第1回「どうする桶狭間」より瀬名(有村架純)と家康(松本潤) - (C)NHK

 松本潤主演の「どうする家康」(NHK総合ほか)をはじめ、数々の大河ドラマで時代考証を担当してきた小和田哲男氏が、時代考証という仕事、大河ドラマの醍醐味などを語った。本作は「リーガルハイ」や「コンフィデンスマンJP」シリーズなどで知られる古沢良太が手掛けたオリジナル脚本による物語だが、小和田氏を驚かせた大胆な史実のアレンジとは……?

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 静岡大学の名誉教授で、主に戦国時代を研究してきた歴史学者の小和田氏。大河ドラマでは「秀吉」(1996)、「功名が辻」(2006)、「天地人」(2009)、「江~姫たちの戦国」(2011)、「軍師官兵衛」(2014)、「おんな城主 直虎」(2017)、「麒麟がくる」(2020~2021)の時代考証を担当し、「どうする家康」で8作目となる。本作は、三河の田舎大名だった徳川家康(松本潤)が、さまざまな重責を負い選択を迫られる中で成長していくさまを追う。

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 本作について、まずタイトルのユニークさが目を引いたという小和田氏。「面白い作品になりそうだなという感じがしました。というのは、これまで大河ドラマで家康を扱った作品は何本もありますけど、どちらかというと『成功者・家康』というか、すでに完成した家康が描かれてきた印象があるので。このドラマでは、家康が紆余曲折を経ながらどっちにしようか、あっちにしようかと迷いながら決断していく。そんな家康が、最終的には戦国の覇者になった。そんな道筋が描かれたら面白いのではないか。今までの家康像とはちょっと違う印象を持ちました」

 時代考証とは、脚本で描かれる事象と史実に齟齬がないか目を配る役割。具体的にどんな例があるのか。「歴史というのは単に結果ではなくて、いくつかの局面で選択があって、その時にどういう選択をしていったのかというところが描かれると面白いんじゃないかなというお話は申し上げました。例えば、まだ竹千代と名乗っていた家康が駿府、今川家で人質として過ごしていた時代。どうしても“人質”というと、監視の目が厳しくいじめ、虐待のようなこともあったのではないかという印象があるんだけれど、どうもそうではないんだよというところは申し上げたことがありますね」

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 小和田氏いわく、家康の最大の魅力は「戦国乱世に終止符を打った男である」こと。「わたしは、岐阜関ケ原古戦場記念館の館長を務めさせていただいているのですが、関ケ原の戦いを研究すればするほど家康は戦国乱世に終止符を打った男というイメージが強いのです。人によっては戦国100年あるいは150年と言いますけれど、その長い間続いた戦国乱世に最後、これ以降は戦いはなしにしようというのが関ケ原の戦いだったので、そういう意味では戦国乱世に終止符を打った。つまり徳川260年の平和、これを実現した男。それが最大の魅力だと思います」

 家康を主人公にした大河ドラマは、第21作「徳川家康」(滝田栄)、第39作「葵 徳川三代」(津川雅彦)があり、ほかにも「功名が辻」(西田敏行)、「武田信玄」(中村芝翫※当時は中村橋之助)、「天地人」(松方弘樹)、「真田丸」(内野聖陽)、「おんな城主 直虎」(阿部サダヲ)などで登場(カッコは家康を演じた俳優)。近年では「青天を衝け」で北大路欣也が二度目の家康役でナレーションを務めたことも話題を呼んだ。小和田氏は、時代によって家康の描かれ方が変化していることを指摘する。

 「例えば江戸時代では神君家康公ですから、東照大権現という神なので誰も家康のことを非難できない。家康がやったことはすべて正しかったんだという描かれ方をしてきたわけですが、これが幕末維新になって薩長史観になると変わってくる。家康がいかにずる賢く、よくいわれるタヌキおやじ、タヌキじじいというイメージが近代になって作られるようになってきました。『どうする家康』では、そうした結果論からちょっと外れた『生の家康』というか、先入観なしに古沢さんが描いてくれますので、そのあたりが期待しているところですね」

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 その古沢が上げてきた台本で、小和田氏が特に驚いたのが「家康と瀬名が恋愛結婚する」展開。初回では家康が今川義元(野村萬斎)の家臣・関口氏純(渡部篤郎)の娘である瀬名(有村架純)と出会い、恋に落ち、夫婦となり、子をもうけるまでが描かれた。瀬名は泣き虫・弱虫だった家康のありのままを愛する女性という設定になっている。

 「最初に古沢さんの脚本を読んだときに『えっ』と思ったのが、家康と瀬名が相思相愛で仲良くなっていったという流れでした。当時の武士階級は、結婚は大体親が決めたもので本人同士の恋愛というのはほとんどないので、どうしたものかと悩みました。ただ、考えてみたらまったく例がないわけでもないんですよね。例えば豊臣秀吉と正室おね(ねね、高台院)がそうです。史料が残っていて『明らかに史実と異なる』と言えなければ否定もできないし、ありかなということでゴーサインを出しました。このあと瀬名は築山殿と名を変え、世間ではいわゆる悪女みたいなイメージで知られていますが、もしかしたら今回の古沢さんの脚本では、これまでの通説とは違った二人の関係が描かれるのではないかと楽しみにしています」

 大河ドラマの醍醐味について、「教科書には書かれていない歴史」だと小和田氏。「特に若い方には、教科書で習うような歴史は政治史中心であって、市井の人々の生活がどんなものだったのかというのはなかなか見えてこない。そんな付随的な部分が描かれることによって、視覚的に戦国時代はこういうものだったんだ、歴史はこういうふうに動いていったんだ、あるいはわたしたちの先祖はこういうふうに歴史を作ってくれたんだということを、ドラマを通して多くの人に知っていただけると思います」

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 そして、家康の人生からも学びがあることを強調する。「家康は歴史的な結果としては、織田信長、豊臣秀吉が成し遂げられなかった天下泰平を成し遂げた成功者として知られるようになるんですけど、実際にはその都度、挫折もあったわけです。戦国最強と言われた武田信玄には、三方ヶ原の戦いで完敗しました。だけれど、負けたことがむしろ家康にとってプラスになった。ドラマではそんな描かれ方になっていくと思うので、人は人生失敗することなくすいすいいければいいと思ってしまうんだけれど、どこかで挫折を経験してそれを乗り越えることで一回りも大きくなっていく家康を、わが身にもあてはめて考えると人間の生き方のモデルというか参考になるんじゃないかと思います」

 初回では主君や家臣たちから次々と「どうする?」と難題を突き付けられ、時には逃げ出そうとする弱弱しい家康が描かれたが、そんな彼がなぜのちに「神」となりえたのか。その旅路はまだ始まったばかり。(編集部・石井百合子)

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