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公開から10年!ノーラン監督作『インセプション』は何が画期的だったのか

映画『インセプション』より
映画『インセプション』より - Warner Bros. Pictures / Photofest / ゲッティ イメージズ

 クリストファー・ノーラン監督の映画『インセプション』が本日7月23日、日本公開からちょうど10年を迎えた。アメリカでは公開10周年を記念し、また彼の次回作『TENET テネット』への期待を高める意味も込めて、31日から劇場再上映が予定されている。『インセプション』以前から批評家、オタク、一般観客から支持を得ていたノーランだが、本作の大ヒットには大きな意味があった。この映画こそ、ノーランブランドを確立した作品なのである。(Yuki Saruwatari/猿渡由紀)

【動画】唯一無二の映画体験!『インセプション』予告編

 『インセプション』は、他人の潜在意識の中に入る能力を持つ主人公コブ(レオナルド・ディカプリオ)が、そこから情報を盗むだけでなく、新たな情報を植え付けようとする物語。アクションであり、心理スリラーであり、犯罪もの、SF映画でもある。現実と潜在意識の層を行き来する話は、斬新かつ複雑で、観客に考えることを要求する。

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 現代はもっとそうだが、当時もすでに、大手スタジオはそういったリスクの大きい映画に投資をするのを断じて避ける傾向にあった。こういった“変わった”映画をやりたいのなら、規模を思い切り小さくし、キャストのギャラも出来高制にしてやる以外にない。しかしワーナー・ブラザースは、この映画に1億6,000万ドル(約176億円)を出してあげたのである。(数字は Box Office Mojo 調べ、1ドル110円計算)

 もちろん、ワーナーはその一つ前のノーランの映画『ダークナイト』にそれより多い1億8,500万ドル(約203億5,000万円)を出した。しかし『ダークナイト』は世界的に知られるバットマンの映画で、しかもヒット作の続編だ。大きく投資し、大きい見返りを期待できる典型的なジャンルであり、状況がまるで違う。実際、シリーズ物ではないノーランの『インソムニア』『プレステージ』には、それぞれ4,000万ドル(約44億円)程度しか投資していない。なのに、ワーナーは「この話をビッグなスケールで語りたい」というノーランの望みを叶えてあげたのだ。しかも彼らは、「もっと万人受けするようにしろ」などというような口出しを一切していない。

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 しかし、もっと画期的だったのは、結果が大ヒットだったことだ。10億ドル(約1,100億円)超えの『ダークナイト』には劣るものの、『インセプション』の世界興行収入は8億3,000万ドル(約913億円)で、『バットマン ビギンズ』の倍以上。さらに興味深いことに、アメリカの大手批評サイト「ロッテントマト」によると、褒めている批評家が87%なのに対し、観客は91%だったのだ。つまり、「万人受け」したということ。観客はスタジオが思っている以上に頭が良く、オリジナルな作品を求めているということを、本作は証明したのである。

 これですっかり自信をつけたワーナーは、この後も、やはり複雑な『インターステラー』にほぼ同額の1億6,500万ドル(約181億5,000万円)を投資、再び利益を上げた。時間を行き来する話らしい次回作『TENET テネット』には、さらに太っ腹な2億ドル(約220億円)を与えている。だからといって他のスタジオも別の監督たちにこうした映画を作らせてあげるようになったわけではなく、これはノーランだけの特権だ。ノーランは、現代ハリウッドにおいて非常にユニークな“オリジナルで知的な娯楽大作の巨匠”となったのである。

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 ノーランは公開当時、筆者とのインタビューで、このストーリーを作り上げるには「とても長い時間がかかった」と語っている。最初にワーナーに売り込んだのは、なんと『インソムニア』(2002)の直後だったとのこと。だが「まだ完全に準備ができていない」と思ったことから、その時は自ら引っ込めたのだそうだ。

 「いつから考え始めたのか正確には覚えていないが、別の現実、夢、というコンセプトについての映画を作りたいと思っていたんだよね。それを違うアングルからずっと考えていたんだよ」とノーラン。インスピレーションとなったのは、アルゼンチンの作家ホルヘ・ルイス・ボルヘスの小説や、『マトリックス』。犯罪映画の要素を持ち込むアイデアが浮かんだことが、とっかかりになった。「それでも、脚本にするのは難しかったね。観客は、この世界特有のルールに従って話についていかないといけないから」

インセプション
中央がサイトー役の渡辺謙 - Warner Bros. Pictures / Photofest / ゲッティ イメージズ

 ディカプリオとはその前から「いつか一緒に仕事をしよう」と言っていたという。しかし、コブの役は彼をイメージして書いたものではない。「キャラクターに制限を与えてしまうから、それはなるべくやらない」のだそうだ。だが、サイトーの役は、最初から渡辺謙のために書いた。「『バットマン ビギンズ』で仕事をして、とても楽しかった。あの映画で彼の役は小さかったから、もっと大きい役を書こうと思ったのさ」

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 本作は、東京でもロケをした。ノーラン作品の中で、東京で撮影されたのは、今のところこれが唯一だ。日本のファンとしては、そこもうれしいポイントの一つだろう。他にもロンドン、パリ、ロサンゼルス、カルガリー、モロッコなど、世界のさまざまな場所でロケをしている。コロナでどこにも行けず、映画の新作も不足する今、『インセプション』をあらためて見直して、世界旅行の魅力と映画のパワーの両方を体験してみるのはいかがだろうか。

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