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間違いなしの神配信映画『ハイ・フライング・バード -目指せバスケの頂点-』Netflix

神配信映画

注目の監督編 連載第2回(全6回)

 ここ最近ネット配信映画に名作が増えてきた。NetflixやAmazonなどのオリジナルを含め、劇場未公開映画でネット視聴できるハズレなしの鉄板映画を紹介する。今回は全6作品、毎日1作品のレビューをお送りする。第2回は2名のライターによるクロスレビュー形式。

アメリカのプロバスケットビジネスをiPhoneを使ってリアルに映す

『ハイ・フライング・バード -目指せバスケの頂点-』
『ハイ・フライング・バード -目指せバスケの頂点-』より

『ハイ・フライング・バード -目指せバスケの頂点-』Netflix

上映時間:90分

監督:スティーヴン・ソダーバーグ

キャスト:アンドレ・ホランドザジー・ビーツビル・デューク

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知られざる地味な裏方の世界に自分自身を重ね合わせた?(村山章)

『ハイ・フライング・バード -目指せバスケの頂点-』
『ハイ・フライング・バード -目指せバスケの頂点-』より

 名匠スティーヴン・ソダーバーグはハリウッドでも随一のコントロールフリークだが、決して“完璧主義者”ではない。ソダーバーグのキャリアは「エッジな視点で既存の映画表現の可能性を広げること」と「クリエイティブな自由を獲得すること」の2本柱で貫かれているのだが、同時にムダを省いた効率化に重きを置く現実主義者でもあるからだ。    そんな映画作家としての属性のすべてが、Netflixオリジナルとして配信された最新作『ハイ・フライング・バード -目指せバスケの頂点-』にギュッと凝縮されている。プロバスケットボール選手のエージェントが、思わぬ機転で仕事上のピンチを切り抜けようとする姿を描いた本作は、いくつものソダーバーグ的なチャレンジ精神が、熟練の技の中に編み込まれているのだ。   『ハイ・フライング・バード -目指せバスケの頂点-』

 まず第一の挑戦は、前作アンセイン ~狂気の真実~』(2018)に続いて、全編iPhoneで撮影したこと。ソダーバーグは監督と撮影監督(カメラオペレーターも)を兼ねるスタイルで知られているが、本作で使用した撮影機材はオプションのレンズを取り付けた市販のiPhone8。iPhoneを選んだ理由を「機動力が必要だったから」と語っているのだが、その姿勢は、フィルム撮影への回帰がトレンドになっている昨今のハリウッドへのアンチテーゼのようにも思える。

 実際、小回りの利くiPhoneだから撮れてしまった長回しショットなどに、熟練のソダーバーグらしからぬ妙なぎこちなさを感じる瞬間もある。しかし一歩翻ってみれば、“らしからぬ”と感じること自体が既成の概念にとらわれている。iPhoneという新たなツールを手に入れた以上、そこには新たな描き方、語り方が生まれるのは必然。ソダーバーグは、いわば新しい絵筆を手に入れた画家のように、映画という表現を再発見しようとしているのである。

『ハイ・フライング・バード -目指せバスケの頂点-』
『ハイ・フライング・バード -目指せバスケの頂点-』より

 面白いのは、この作り手としてのチャレンジが物語とシンクロしていること。アンドレ・ホランドふんする主人公のレイは、長年バスケ業界を渡り歩いてきた敏腕エージェント。しかしプロバスケットボールリーグのNBLがロックアウト(リーグ封鎖)中なせいで、クライアントの若手選手は不満タラタラ。選手側とチーム側の間に挟まれたレイは、スマホやネットを使ったコロンブスの卵的なやり方で、スポーツ業界の慣例を打ち破ろうとするのだ。

 スポーツ業界の華やかさではなく、知られざる地味な裏方の世界を描いた本作に、ソダーバーグは「自由と革新」を求めて孤軍奮闘してきた自分自身を感じたのではないか? iPhoneというガジェットで一矢報いようとするレイの闘いを、そのまま旧態依然としたあらゆるシステムとの闘いに重ね合わせることで、本作は2倍にも3倍にも膨らみを増すのである。

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変革を起こしながら、時代の変革を描く(小野寺系)

『ハイ・フライング・バード -目指せバスケの頂点-』
『ハイ・フライング・バード -目指せバスケの頂点-』より

※以下はネタバレを含みます。『ハイ・フライング・バード -目指せバスケの頂点-』鑑賞後にお読みいただくことをおすすめします。

 スポーツにおいて試合の流れを変える重要な選手のことを「ゲームチェンジャー」と呼ぶ。転じてビジネスにおいては、新しい価値を生み出し、それまでの市場の状況に大きな変化を与える存在のことをいう。スティーヴン・ソダーバーグ監督による、『ハイ・フライング・バード』は、その言葉が象徴するように、スポーツ界のビジネスを一気に変化させてしまう可能性を描いた作品だ。

 アメリカのプロバスケットボールリーグ(NBA)が、“ロックアウト”に突入中の状況から物語が始まる。ロックアウトとは、選手会との交渉が折り合わない場合における、オーナーの側が行うストライキのようなもので、その期間中には施設が全面封鎖され、選手たちはオーナー側から収入を得ることができない。

『ハイ・フライング・バード -目指せバスケの頂点-』
『ハイ・フライング・バード -目指せバスケの頂点-』より

 2011年を含めたシーズンなど、実際にNBAではロックアウトが行われているが、これによって最も打撃を受けるのは選手たちだ。『ムーンライト』(2016)に出演しているアンドレ・ホランドが演じる代理人レイの担当選手エリックも、これによって金銭的な危機に陥る。

 そんなとき、Twitterで険悪な関係となったエリックともう一人のプロ選手が決着をつけるため、非公式にバスケットボールの勝負を行い、その模様の一部がYouTubeに流出するという事件が起こる。これはNBAの契約においてグレーゾーンにあたる行為だ。

『ハイ・フライング・バード -目指せバスケの頂点-』
『ハイ・フライング・バード -目指せバスケの頂点-』より

 しかし、このバトルはネット上で大反響を呼ぶ。いまは従来の放送局を通さずとも、ネットでコンテンツを公開することが可能だ。さらに、Netflixなど新興の配信業者と契約を結べば、さらなるビジネスが生まれる可能性がある。そして、それは既存のシステムの根幹を揺さぶり始める

 本作の主要な登場人物はアフリカ系アメリカ人である。彼らのなかには、アフリカ系のプレイヤーたちによって占められるプロバスケットボールのビジネスが、白人のオーナーたちによって牛耳られている現状に不満を感じている者も少なくない。しかしそのような人自身、この不公平な状況に慣れきってしまっているところがある。『ムーンライト』の原作者であるタレル・アルヴィン・マクレイニーによる本作の脚本には、そんな人種問題への意識が強く反映し、人々の目を開かせる力を持っている。

『ハイ・フライング・バード -目指せバスケの頂点-』
『ハイ・フライング・バード -目指せバスケの頂点-』より

 だが、動画サイトやスマートフォンの普及など新しい技術が、旧弊な搾取のシステムや人種問題、格差問題に大きな変革をもたらすかもしれない。本作が描いた可能性は、映画やビデオの制作・配給の市場を大きく変えつつある、Netflixをはじめとする配信ビジネスの躍進とも重ねられている

 スティーヴン・ソダーバーグ監督は、本作をiPhoneによって撮影したという。外付けレンズや三脚など最低限の機材を使用して、200万ドルの低予算、2週間の撮影期間 という、ハリウッドのメジャースタジオの制作条件とは比較にならないスリム化を果たしながら、ほぼ遜色ないクォリティーの映像を実現している。これもまた、技術の進化による変革である。変革を起こしながら、時代の変革を描く。『ハイ・フライング・バード』は、その意味で配信時代の到来にふさわしい作品といえるだろう。

Netflixオリジナル映画『ハイ・フライング・バード -目指せバスケの頂点-』独占配信中

#間違いなしの神配信映画

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