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映画『クレヨンしんちゃん』大人に刺さるワケとは?

『しん次元!クレヨンしんちゃんTHE MOVIE 超能力大決戦 ~とべとべ手巻き寿司~』より
『しん次元!クレヨンしんちゃんTHE MOVIE 超能力大決戦 ~とべとべ手巻き寿司~』より - (C) 臼井儀人/しん次元クレヨンしんちゃん製作委員会

 “嵐を呼ぶ5歳児”こと野原しんのすけの自由奔放すぎる活躍を描き、子どもたちから熱狂的な支持を集めている国民的アニメ「クレヨンしんちゃん」。1993年の第1作『映画クレヨンしんちゃん アクション仮面VSハイグレ魔王』以来、これまで30年にわたって31作の映画版が公開されてきた。映画『クレヨンしんちゃん』は子どもに絶大な人気を誇るのと同時に、「大人に刺さる」と言われている。その理由を考えてみたい。(文:大山くまお)

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大人に刺さった作品

 これまでにも映画『クレヨンしんちゃん』は「大人に刺さる」作品を数多く送り出してきた。なかでも評価が高いのは、原恵一監督の『嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲』(2001)と『嵐を呼ぶ アッパレ!戦国大合戦』(2002)、そして高橋渉監督、中島かずき脚本の『ガチンコ!逆襲のロボとーちゃん』(2014)だ。

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 『オトナ帝国の逆襲』は心地よいノスタルジーから抜け出せなくなった大人たちを子どもたちが救うという物語、『戦国大合戦』は戦国時代を舞台に身分違いの恋と身近な人間のリアルな死を描いた作品だった。『逆襲のロボとーちゃん』はロボットが父親になるという荒唐無稽な設定でありながら、父と子の絆を正面から描いて多くの観客に感動を与えた。

 ほかにもダークファンタジーの『ヘンダーランドの大冒険』(1996)、アクション巨編『電撃!ブタのヒヅメ大作戦』(1998)、ビターなエンディングが印象的な『嵐を呼ぶ!夕陽のカスカベボーイズ』(2004)など、大人に刺さった作品は枚挙に暇がない。初期は大人にしかわからない映画のパロディーも多かった。

とても自由度が高い映画『クレヨンしんちゃん』

 こうやって数本並べるだけでも、映画『クレヨンしんちゃん』はとても自由度が高いシリーズであることがわかるだろう。しんのすけをはじめとする野原一家と、しんのすけの友達である「カスカベ防衛隊」を中心にしていれば、外国にも、ファンタジーの世界にも、戦国時代にも、宇宙にも、異次元にも、映画の世界にも、自由に舞台を設定することができる。これは映画『クレヨンしんちゃん』の大きな特徴だ。

 自由度の高さはユニークな登場人物やストーリーに反映される。『謎メキ!花の天カス学園』(2021)では、幼稚園児が主人公なのに「学園ミステリーもの」をやってのけた。制作陣は思い思いに発想を飛躍させて、観客の意表を突くような物語を展開させていくことができるのだ。

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「今」を生きているしんのすけたち

 映画『クレヨンしんちゃん』のもう一つの特徴は、しんのすけたちが常に「今」を生きていることだ。原作の連載がスタートしたのは1990年だが、しんのすけたちはその当時の世界ではなく、いつも現在進行形の「今」の世界を生きている。だから、物語の自由度の高さとあいまって、リアルなテーマを盛り込むことが可能になる。

 『オタケベ!カスカベ野生王国』(2009)では環境問題、『爆睡!ユメミーワールド大突撃』(2016)ではトラウマの克服、『爆盛!カンフーボーイズ~拉麺大乱~』(2018)では正義の暴走が描かれた。『ガチンコ!逆襲のロボとーちゃん』では強権的な家父長制の復興を掲げる組織が登場し、『オラの引越し物語 ~サボテン大襲撃~』(2015)では宇宙からやってきたサボテンの怪物が原発のメタファーとして描かれている。

 子どもを操ろうとしたり、虐待したりする“毒親”は『嵐を呼ぶ 黄金のスパイ大作戦』(2011)や『襲来!! 宇宙人シリリ』(2017)などに繰り返し登場した。『激突!ラクガキングダムとほぼ四人の勇者』(2020)には理不尽に集団でバッシングする人々、『謎メキ!花の天カス学園』には努力を嘲笑する人々が登場している。

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 しんのすけたちはさまざまなテーマと向き合うことになり、リアルな問題を理解している大人たちは心が揺さぶられるのだ。

「家族」「友情」「仲間」という普遍的なテーマ

 そして何より、映画『クレヨンしんちゃん』の根底にはいつも「家族愛」「友情」「仲間」という普遍的なテーマがある。野原一家はいつも「家族愛」を大切にしているし、カスカベ防衛隊にはかけがえのない「友情」がある。そして、しんのすけは非日常の世界からやってきた人たちといつの間にか「仲間」になっていることが多い。孤独や闇を抱えている人たちも、天衣無縫なしんのすけと仲間になると、途端に生き生きしはじめる。

 しんのすけには「敵を倒そう」とか「平和を守ろう」という気持ちがほとんどなく、いつもおバカなことを言いながら好き勝手に暴れているだけだが、子どもたちはそれが痛快で仕方がない。一方、人生経験を積んできた大人たちには「家族愛」や「友情」、「仲間」のようなテーマが深く心に突き刺さる。だから、映画『クレヨンしんちゃん』は子どもだけでなく大人も楽しめるのだ。

最新作は大根仁監督

 8月4日に公開されたシリーズ第31作目『しん次元!クレヨンしんちゃんTHE MOVIE 超能力大決戦 ~とべとべ手巻き寿司~』は、映画『クレヨンしんちゃん』初の3DCG作品である。『モテキ』(2011)や「エルピス -希望、あるいは災い-」(2022)など、これまで一貫して大人向けの実写作品を作り続けてきた大根仁を監督・脚本に起用したことでも話題を呼んだ。

 孤独な男性が超能力を得て、これまで自分を爪弾きにしてきた社会に復しゅうをしようとするストーリーは、どこかハリウッド映画『ジョーカー』(2019)を思い起こさせる。また、暗い未来しか見えない日本で、次世代を担う若者たちがどのように生きていくかを問うようなメッセージも込められている。

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 突然、超能力が出てくる自由度の高い設定(これは原作に準拠したもの)、今の社会を反映したテーマ、そしてクライマックスに登場する「仲間」というキーワードーー。本作は、これまでの映画『クレヨンしんちゃん』のセオリーを踏まえた上で、数々の話題作を送り出してきた大根監督らしい一歩踏み込んだ感のある作品になった感がある。

 子どもが笑い、大人に刺さる、映画『クレヨンしんちゃん』の最新作にふさわしい仕上がりだと言えるだろう。子どもも大人も劇場で大いに楽しんでほしい。

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