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天国につながる電話で少女は何を語ったのか 生と死を描く『風の電話』

映画『風の電話』より
映画『風の電話』より - (C) 2020映画「風の電話」製作委員会

 東日本大震災で家族を失った少女の旅路を描く映画『風の電話』(上映中)。フランスの名優ジャン=ピエール・レオを主演に迎えた『ライオンは今夜死ぬ』(2018)も記憶に新しい諏訪敦彦監督が約18年ぶりに日本でメガホンをとり、先ごろ第70回ベルリン国際映画祭国際審査員特別賞に輝いた本作を、キャスト、監督の言葉をたどりながら振り返ってみた。

『風の電話』予告編

 本作のモチーフとなったのは、2011年に岩手県大槌町在住のガーデンデザイナー・佐々木格さんが、死別した従兄弟ともう一度話したいという思いから自宅の庭に設置した、線のつながらない電話ボックス。「天国に繋がる電話」として東日本大震災以降、3万人を超える人々が訪れている。映画では、震災で家族を失った17歳の高校生ハル(モトーラ世理奈)が、唯一の支えだったおばを失うかもしれない恐怖に見舞われ、故郷の岩手へと彷徨う姿を捉える。

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 ハルが道中で出会う人々にふんするのは、福島県出身の西田敏行のほか、諏訪監督と組んできた西島秀俊三浦友和ら実力派。劇中、多くが町を去っていった中で今もなお福島で暮らす初老の今田にふんする西田は、「自分たちの故郷が、大地震による津波、そして原発事故によって、どれだけしんどい思いをしたかという心情の中、過酷な状況に追い込まれれば追い込まれるほど、故郷を愛しているという実感が強くなってきました。『俺はやっぱり福島県の人間なんだな』と」と故郷への思いを吐露。

風の電話
福島県出身の西田敏行も出演。演じる今田が故郷にとどまり続ける理由を語るシーンが圧巻

 また、ハルに「お前が死んだら誰がお前の家族を思い出すんだ」と問う福島の元原発作業員・森尾にふんする西島は、出演にあたり「割り切れなさ」があったという。「実際の場所や、実際に様々な体験をされている人たちを前にして、自分は役でいなければいけない。芝居ですから嘘なわけです。そんなことをしていいんだろうかという思いになりました。平然とやらなきゃいけないんですけど、どうしても割り切れなくて、色んな方たちにお話を聞き、あとは狗飼(恭子)さんの脚本の言葉を支えにやっていきました」

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 そんな実力派たちとわたり合ったのが、オーディションで主役に抜擢されたモトーラ世理奈。2018年に『少女邂逅』で映画デビューして以来、ヒロインを務めたドラマ・映画『ブラック校則』(2019)などで徐々に女優として知名度を上げつつある彼女だが、注目すべきは諏訪監督の現場で基本となっている「即興芝居」をこなしたこと。本作には台本がありながら、毎朝その日の差し込み台本が追加され、諏訪監督は俳優の心から湧き上がってくる感情や言葉を重んじた。三浦演じる公平が察知する、今にも「死にそうな」ハルの心の叫びが迫ってくるのは、作られた芝居ではないことが肝になっている。

風の電話
憔悴しきったハルに「食べなさい」と言い続け励ます公平を演じるのは、『M/OTHER』以来、約20年ぶりの諏訪作品出演となる三浦友和

 1,300キロを超える旅の果てにたどりついた故郷・大槌町に立つハルが伝えるのは、大切な存在や場所が失われてしまったことの決して癒えることにない痛みだ。ハルにとって「風の電話」はどんな意味をもたらしたのか。残された者はどう生きていけばいいのか。

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 諏訪監督はこのシーンについて「8年間そこに立ち尽くし、訪れる人々の溢れる想い、悔やみきれない後悔、言葉にならない言葉……それらが地層のように折り重なった大地の上で、今、ハルの祈りのような声を聞きながら、『風の電話』はハルをどこかに運んでいく、話すことで閉ざされていた彼女の中に温かいものがこみ上げていく。それは映画を超えた本当の出来事のように思えた」と語っている。※監督、キャストのコメントは劇場パンフレット、公式サイトより抜粋(編集部・石井百合子)

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