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『仮面病棟』坂口健太郎 単独インタビュー

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『仮面病棟』坂口健太郎 単独インタビュー

先がわからない人生の方が面白い

取材・文:磯部正和 写真:高野広美

現役医師で作家の知念実希人によるミステリー小説を映画化した『仮面病棟』。ピエロの仮面をつけた凶悪犯によって占拠された謎だらけの病院から、知恵と勇気を振り絞って脱出を試みるさまが描かれる本作で、事件に巻き込まれる当直医・速水を演じたのが坂口健太郎だ。劇中では、次々に襲い掛かる困難に対して、知的でありながらも人間臭く難局を切り抜けようとする人物を好演している。リアリティーあるキャラクターを構築していくためにどんなアプローチをしたのだろうか。坂口が役づくりや、撮影現場での取り組み方を語った。

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ヒーローになりすぎてはダメ

坂口健太郎

Q:台本を読んだときの率直な感想を聞かせてください。

文字で読んでいるだけでも、スピード感や臨場感がありました。だからこそ、映像化するとき、どこまでハラハラドキドキ感を出すことができるのかなという思いもあり「これは意外と難しいな」というのが第一印象でした。

Q:映像化するうえで、どんなチャレンジをしようと臨んだのですか?

僕が演じた速水という人物は、起こったことに対していかに素直に反応できるかが勝負なのかなと思っていました。その意味では、(ピエロに腹を撃たれ、速水と一緒に監禁された女性・瞳役の永野)芽郁ちゃんや(田所院長役の)高嶋(政伸)さんたちと対峙したときに生まれた感情をストレートに出していくことを心がけていました。

Q:速水は病院から脱出するためのキーマンではありますが、ヒーロー然とした人物ではないところもさじ加減が難しいのではと思いました。

最初に難しいなと感じたのは、速水は巻き込まれるかたちで登場するのですが、瞳に対して「助けたい」という気持ちがなぜあそこまで強く湧いてきたのかということ。彼のヒロイズムがどこからきたのかをキャッチしそこなうと変なキャラクターになってしまう。いわゆるヒーローものになってはダメだという意識は強かったです。台本の段階から木村ひさし監督とは、いろいろと話をさせてもらいました。

芝居について思ったことはしっかり伝える

坂口健太郎

Q:木村監督といえば、撮影現場では臨機応変にシーンやセリフを足す方だとお聞きしています。

今回は、台本とにらめっこする時間が結構あったので、クランクイン前からいろいろとお話をさせていただきました。結局は「現場に入ってからだね」ということに落ち着いたのですが、監督とご飯に行ったとき「今回は1から10まであるなかで、結論しか決めていない。あとは自由に動いてもらっている」と話していたのですが、そのように僕らにも自由度を持たせてくれました。それってすごく難しいことなのですが、一緒にものを作っている感覚になれるので楽しいです。

Q:ご自身が一番こだわったところは?

詳細はネタバレになるので言えませんが、僕は医者という立場で監禁されているのですが、その倫理観にとらわれてしまうと人物が薄っぺらになっちゃうなと思ったので「医者としての速水というよりは、人間・速水という方向性でいきたいです」とは伝えました。

Q:台本を読んで感じたことを監督やスタッフに提案していくようなスタイルは以前から?

デビュー当時はなかなかできませんでした。事前に話をしてコミュニケーションをしっかりとろうと心がけるようになったのは最近ですね。

Q:それは経験を積んだから思えたことですか? それともきっかけがあって意識が変わったのですか?

もともと自分の性格として、集団のなかでは、バランスをとろうと考えてしまう癖があるので、あまり意見を言うことはありませんでした。でもたまに自分が演じていても、少し違和感があるなと感じることもあり……。番手がどうこうというのは関係ないのですが、自分の演じる役が物語の方向性を決めるような立ち位置のときは、感じたことをしっかり話すことも大切だと思ったんです。自分の意見を伝えて、相手の意見もしっかり聞くことを意識しています。

独り相撲ならぬ全員相撲がいい

坂口健太郎

Q:本作では主演として座長を務めましたね。

宣伝などでは先頭に立って盛り上げようという気持ちもありますが、僕は、“全員相撲”的な雰囲気が好きなので、あまり先頭に立って引っ張っていこうというタイプではありません(笑)。みんなで作ることが好きなので、現場では各部署の1人として、みんな対等だと思っています。

Q:『今夜、ロマンス劇場で』の撮影のときもスタッフさんたちとよくご飯を食べに行ったりしていたと話していました。本作も、帰京日をずらして、打ち上げをしたとイベントで話していましたね。

基本的にみんなでご飯を食べるのが好きなんです(笑)。でもそういうことは意外と自分自身のためにもなるんです。同じ本を共有している方たちとコミュニケーションをとると、本の解釈の違いに気づくことがある。自分で気づかなかったことを知ることで、役にもいかせるんです。

Q:永野芽郁さんは、ハードな撮影だったけれど常に坂口さんは穏やかでいてくれて助かったと話していました。

確かに撮影はハードでしたが、どこかで僕がピリピリしたら終わりだなと思っているところはありました。でも今回の現場は、そんなことを忘れるぐらい雰囲気が良かったので、あまり意識しませんでした。

Q:いつ見ても柔和な印象ですよね。

怒るエネルギーって結構きついですよね(笑)。心のなかで嫌な感情が湧いてきても、それを表に出すと疲れちゃうんです。そもそも僕は性格的にあまり怒りが溜まっていかないタイプ。なれ合いは良いとは思いませんが、僕は俳優という仕事を好きでやっているので、基本はつらいことがあっても楽しみたいという思いが強いんです。

役によって自分のイメージを裏切れるのが俳優の醍醐味

坂口健太郎

Q:昨年やられていた舞台「お気に召すまま」、そして本作でも非常に男臭いというか武骨な印象を持ちました。近年イメージが大きく変わったなと感じています。

いま28歳なのですが、確かにここ2年ぐらい、いただく役柄が変わってきたなという実感はあります。ただ自分がこう見られたいという意識ではなく、役によって見え方が変わってきているんだろうなという認識ですね。舞台で演じた役も、演出家からは「精神的にも肉体的にも強い男の象徴でいてほしい」と言われたので、メチャクチャ鍛えたんです。それを見た方が「ワイルド」と思ってくださると、また一つ新しいイメージができるのかなと思うんです。

Q:本作でも、いままでの坂口さんとは違う魅力を感じました。

先ほど「武骨な」と仰ってくださいましたが、舞台もこの映画も、いままでの僕のイメージとはかなり遠いキャラクターですよね。これまではどちらかというと華奢でさわやかな感じの役が多かったので。役によって自分のイメージを裏切ることができるというのはすごく面白いですし、俳優業の楽しさでもあります。

Q:お芝居を始めて約5年が経ちます。主演を務めることも多いですが、いまのような状況は想像していましたか?

僕はタイミング論みたいな考え方が好きなのですが、俳優を始めるときにも「こういう俳優になりたい」とか「目標の立ち位置」みたいなものはまったくなかったんです。しっかり目標を立てて進むことの大切さもわかるのですが、ゴールに向けて一直線で進むよりも、そのときのタイミングで寄り道したり、回り道したりしてたどり着いた方が深いのかなと思っています。

Q:これからもそのスタンスは変わらず?

行き当たりばったりという言葉にしてしまうと乱暴ですが、やはり目の前のことに誠実に向き合って進んだ結果、どこにたどり着くのか……。もしかしたら思わぬ出会いがあって、5年後はおでん屋さんをやっているかもしれない。そういう人生の方が面白いと思っちゃうんです(笑)。


坂口健太郎

自身でも言及しているように、これまでの坂口はスマートでさわやかな笑顔が似合う好青年を演じることが多かったが、舞台「お気に召すまま」や本作では、男臭く武骨な男を好演するなど、新たな魅力を提示している。「先のことはあまり考えず、こう見られたいという思いもない」と言うが、周囲が坂口に「いろいろな役をやらせてみたい」と思うのは、それだけ掘り下げてみたいと思える存在だからだろう。そんなことを感じさせるぐらい、本作の坂口の芝居や佇まいには惹かれるものがある。

映画『仮面病棟』は3月6日より全国公開

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