森 直人

森 直人

略歴: 映画評論家。1971年和歌山生まれ。著書に『シネマ・ガレージ~廃墟のなかの子供たち~』(フィルムアート社)、編著に『21世紀/シネマX』『シネ・アーティスト伝説』『日本発 映画ゼロ世代』(フィルムアート社)『ゼロ年代+の映画』(河出書房新社)ほか。「週刊文春」「朝日新聞」「キネマ旬報」「Numero TOKYO 」などでも定期的に執筆中。※illustrated by トチハラユミ画伯。

近況: YouTubeチャンネル『活弁シネマ倶楽部』でMC担当中。4月3日より、荒木伸二監督(『ペナルティループ』)の回を配信中。ほか、井上淳一監督(『青春ジャック 止められるか、俺たちを2』)、三宅唱監督(『夜明けのすべて』)、山本英監督(『熱のあとに』)、リム・カーワイ監督&尚玄さん(『すべて、至るところにある』)、木村聡志監督&中島歩さん(『違う惑星の変な恋人』)の回等々を配信中。アーカイブ動画は全ていつでも観れます。

サイト: https://morinao.blog.so-net.ne.jp/

森 直人 さんの映画短評

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  • ネクスト・ゴール・ウィンズ
    ワイティティ流の美味しく食べやすいソウルフード
    ★★★★★

    なんて気持ちの良い映画! まずはハリウッドセレブ化したワイティティが本来の世界に帰ってきたことを喜びたい。舞台は米領サモア。ロケ地はオアフ島だが、母国ニュージーランドでの初期作『ボーイ』等に近いローカル色を漂わせるポリネシアへのバック・トゥ・ルーツ映画。作家としての成熟もあり、フィルモグラフィ全体でも出色の一本となった。

    題材は『ネクスト・ゴール! 世界最弱のサッカー代表チーム~』と同じ実話だが、『がんばれ!ベアーズ』型の黄金の説話構造と合体。さらにサモア流の大らかな人生哲学をたっぷり乗っけた、人懐っこい絶品の仕上がり。タビタさんの台詞「なら負けましょう。皆と一緒に」にはほっこり。

  • アイアンクロー
    男たちによる、男性性の「呪い」とそこからの解放
    ★★★★★

    凄まじい傑作。昭和世代には懐かしいプロレスラー、フリッツ・フォン・エリックの一家の実話が男性性の抑圧に殺されていく男達の悲しき神話として差し出される。フィルム撮影で80年代を見事に再構築しながら、旧約聖書を彷彿させる父親と兄弟(カインとアベル)の物語は、ギリシャ悲劇やシェイクスピアにも通じる風格を湛える。

    監督のショーン・ダーキンはカルトコミューンの問題を扱った『マーサ、あるいはマーシー・メイ』でも極端な男性優位の呪縛を主題としたが、今作での「男の世界」の崩壊は、フェミニズムと同じ意味の裏面であり時代的な迫力を帯びる。それを批判や風刺より、哀惜を持って描いている距離感が絶妙だ。役者陣も最高!

  • 燃えるドレスを紡いで
    表現が社会を変える可能性について
    ★★★★★

    「皆さん、もう服は作らないで欲しいと言っている。服はもう世界中に充分にあって、なぜこれ以上作る必要があるんですかと」――ケニアで欧米やアジアの先進国から廃棄された衣服の墓場を目にしたデザイナー、中里唯馬はチームのメンバーに語る。我々現代人の根本的な矛盾に突き当たった彼は、ミツンバと呼ばれる安価な古着の塊から新しいコレクションを生成し始める。

    地球の生態系には存在しなかった「ゴミ」という異物をどう扱うか。資源循環を前提に製品自体を設計すること。流行=消費の震源地であるパリコレは「思想」の発表場となる。『太陽の塔』に続き、システムと人間性を批評的に問い直す関根光才監督の必見のドキュメンタリーだ。

  • 水平線
    海から照射される市井の生のざわめき
    ★★★★

    俳優から企画・製作等を手掛けるSTUDIO NAYURA代表へと旋回した小林且弥の充実の監督デビュー作。舞台は福島の港町。ピエール瀧扮する主人公は海に遺灰を撒く散骨業を営む男(コストの低い埋葬法でもある)。そんな彼のもとに殺人事件の犯人の遺骨が持ち込まれ、「人殺しの骨」を海に撒くことの是非が問われていく。

    3.11後の海というモチーフは『さよなら ほやマン』(監督:庄司輝秋)等とも共通するが、本作は「死」にまつわる思想対決を主軸に多様な人間群像が展開する(脚本・齋藤孝)。身近な人の喪失後をどう生きるか、という状況設定の中で、観念的な葛藤と生活の現実を同時に注視する。渡邉寿岳の撮影に惚れぼれ。

  • ビニールハウス
    韓国映画の特濃系譜をアップデートする最新の才能
    ★★★★

    「半地下はまだマシ」というポン・ジュノに当てた秀逸なコピーに拍手を贈りつつ、中身はイ・チャンドンの後継か。厳しい格差や分断の社会的現実が作劇や世界像に濃縮されているのは間違いないのだが、むしろあらゆる不幸を引き寄せる主人公女性の宿業めいたものが核にある。いわゆる熱演とは全く異質の静かなる凄みを湛える主演のキム・ソヒョンは圧巻で、『よこがお』や『波紋』の筒井真理子とも重なる。

    監督はこれが初長編となるイ・ソルヒ(94年生)。強烈な負の吸引力にはキム・ギヨン的な情念が渦巻いており、『同じ下着を着るふたりの女』のキム・セインらと共に、まさしく韓国映画ならではの新鋭作家の登場と言えるだろう。

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