森 直人

森 直人

略歴: 映画評論家。1971年和歌山生まれ。著書に『シネマ・ガレージ~廃墟のなかの子供たち~』(フィルムアート社)、編著に『21世紀/シネマX』『シネ・アーティスト伝説』『日本発 映画ゼロ世代』(フィルムアート社)『ゼロ年代+の映画』(河出書房新社)ほか。「週刊文春」「朝日新聞」「キネマ旬報」「Numero TOKYO 」などでも定期的に執筆中。※illustrated by トチハラユミ画伯。

近況: YouTubeチャンネル『活弁シネマ倶楽部』でMC担当中。4月3日より、荒木伸二監督(『ペナルティループ』)の回を配信中。ほか、井上淳一監督(『青春ジャック 止められるか、俺たちを2』)、三宅唱監督(『夜明けのすべて』)、山本英監督(『熱のあとに』)、リム・カーワイ監督&尚玄さん(『すべて、至るところにある』)、木村聡志監督&中島歩さん(『違う惑星の変な恋人』)の回等々を配信中。アーカイブ動画は全ていつでも観れます。

サイト: https://morinao.blog.so-net.ne.jp/

森 直人 さんの映画短評

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  • ゴッドランド/GODLAND
    「こことよそ」をめぐる余りに根深い歴史と地政学
    ★★★★★

    『理想郷』ではスペインvsフランスでエグい諍いが繰り広げられたが、本作は北欧篇アイスランドvsデンマーク。キリスト教ルーテル派の青年牧師が、ヴァイキングの末裔とおぼしき現地ガイドと衝突を繰り返す。画面構成は劇中に登場するコロジオン湿板写真(ダゲレオタイプの次の形式)が意識され、日本だと幕末から明治初頭辺りの時代に当たるが、現代のバックラッシュの様相を二重写しにしているのは明らかだ。

    監督は84年生の気鋭フリーヌル・パルマソン。彼は両国の中間者でもある。荒々しい自然の風景も圧巻。英国のデザイナー・思想家・詩人、ウィリアム・モリスの1871年の旅の記録書『アイスランドへの旅』も参照したい。

  • 12日の殺人
    「何」が彼女を殺したのか?
    ★★★★

    『落下の解剖学』の前年(2023年)にセザール賞を席巻したミステリーの名手、ドミニク・モル監督の秀逸なスリラー映画。『殺人の追憶』や『ゾディアック』の系譜に並ぶ未解決事件ものであり、謎解きではなく、まさにサスペンスの語義である「宙吊り」(未決定の状態)の純度や強度を追求した語りが興味深い。そこにフェミサイドの主題を盛り込み、現代社会のザラついた感触を伝える逸品になっている。

    事件被害者、21歳の女性クララをめぐる複雑な人間模様が明らかになっていく展開の中で男性優位の問題がせり上がる。実録タッチを補強するリアルな描写力が流石だ。音楽のオリヴィエ・マリゲリによる「1983年の曲」など芸が細かい!

  • デューン 砂の惑星PART2
    格の違う映像表現
    ★★★★★

    もし当初のスケジュール通りに本作が公開されていたら、今年のアカデミー賞の結果は相当荒れたかも。F・ハーバートの原作から意図されていた『アラビアのロレンス』のDNAを独自培養し、IMAXの「砂」の芸術が全面展開。サンドワームの砂上スキーひとつ取っても恍惚&悶絶。映画史上、最高に洗練されたヴィジュアルワークの凄みに震えた。

    ヴィルヌーブ監督の世界観の作り込みは圧巻。役者の目玉はフェイド=ラウサ役のA・バトラー。リンチ版でスティングが演じ、ホドロフスキーはミック・ジャガーを想定していた悪の貴公子がこんな強烈キャラに結実するとは。『砂漠の救世主』の物語に踏み出すPART3は如何なる境地に達するやら!

  • ネクスト・ゴール・ウィンズ
    ワイティティ流の美味しく食べやすいソウルフード
    ★★★★★

    なんて気持ちの良い映画! まずはハリウッドセレブ化したワイティティが本来の世界に帰ってきたことを喜びたい。舞台は米領サモア。ロケ地はオアフ島だが、母国ニュージーランドでの初期作『ボーイ』等に近いローカル色を漂わせるポリネシアへのバック・トゥ・ルーツ映画。作家としての成熟もあり、フィルモグラフィ全体でも出色の一本となった。

    題材は『ネクスト・ゴール! 世界最弱のサッカー代表チーム~』と同じ実話だが、『がんばれ!ベアーズ』型の黄金の説話構造と合体。さらにサモア流の大らかな人生哲学をたっぷり乗っけた、人懐っこい絶品の仕上がり。タビタさんの台詞「なら負けましょう。皆と一緒に」にはほっこり。

  • アイアンクロー
    男たちによる、男性性の「呪い」とそこからの解放
    ★★★★★

    凄まじい傑作。昭和世代には懐かしいプロレスラー、フリッツ・フォン・エリックの一家の実話が男性性の抑圧に殺されていく男達の悲しき神話として差し出される。フィルム撮影で80年代を見事に再構築しながら、旧約聖書を彷彿させる父親と兄弟(カインとアベル)の物語は、ギリシャ悲劇やシェイクスピアにも通じる風格を湛える。

    監督のショーン・ダーキンはカルトコミューンの問題を扱った『マーサ、あるいはマーシー・メイ』でも極端な男性優位の呪縛を主題としたが、今作での「男の世界」の崩壊は、フェミニズムと同じ意味の裏面であり時代的な迫力を帯びる。それを批判や風刺より、哀惜を持って描いている距離感が絶妙だ。役者陣も最高!

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