森 直人

森 直人

略歴: 映画評論家。1971年和歌山生まれ。著書に『シネマ・ガレージ~廃墟のなかの子供たち~』(フィルムアート社)、編著に『21世紀/シネマX』『シネ・アーティスト伝説』『日本発 映画ゼロ世代』(フィルムアート社)『ゼロ年代+の映画』(河出書房新社)ほか。「週刊文春」「朝日新聞」「キネマ旬報」「Numero TOKYO 」などでも定期的に執筆中。※illustrated by トチハラユミ画伯。

近況: YouTubeチャンネル『活弁シネマ倶楽部』でMC担当中。4月3日より、荒木伸二監督(『ペナルティループ』)の回を配信中。ほか、井上淳一監督(『青春ジャック 止められるか、俺たちを2』)、三宅唱監督(『夜明けのすべて』)、山本英監督(『熱のあとに』)、リム・カーワイ監督&尚玄さん(『すべて、至るところにある』)、木村聡志監督&中島歩さん(『違う惑星の変な恋人』)の回等々を配信中。アーカイブ動画は全ていつでも観れます。

サイト: https://morinao.blog.so-net.ne.jp/

森 直人 さんの映画短評

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  • シド・バレット 独りぼっちの狂気
    天才の秘密、刹那と永遠の謎
    ★★★★

    シド存命時に撮られたBBCの『ピンク・フロイド&シド・バレット・ストーリー』(01年)を受け継いだ企画だろうか(そちらにもブラーのG・コクソンが登場)。監督はなんとレコジャケ界の伝説的デザイン集団ヒプノシスのS・トーガソンで、2013年に彼が逝去した後に完成。サイケデリア時代のカリスマ美青年の素顔と「その後」がこれまで以上に深掘りされる。

    ポップ音楽における「向こう側」を美辞麗句で飾るのは21世紀では不適切かもしれない。しかしシドの友人たちがこの「狂ったダイアモンド」を、かつて夜空に一瞬だけ輝いた美しい星を見た時の想い出のように語るのが印象的だ。その甘い郷愁と切なさに胸が締めつけられる。

  • システム・クラッシャー
    「私」は誰も奪えない
    ★★★★★

    2019年の傑作。この凄まじい映画を5年もスルーしていたなんて血の気が引くほどだ。H・ツェンゲルが爆演する父親からのDVでトラウマを負った9歳の少女ベニー。瞬時に怒りが発火する彼女を社会/世界はいかに受容するのか。この生々しく困難な問題提起作をフィクションの劇映画として作り上げた事に驚くばかり。

    本作が初長編のN・フィングシャイト監督は大人側の恐怖や弱さも包み隠さず描き、主題を負の連鎖の根本にスライドさせず、ベニーが居る現場にあくまでタフに踏ん張る。そこからぎりぎりの尊厳がせり上がる。ニーナ・シモンの超名曲「Ain’t Got No, I Got Life」が最高純度の鋭利さでぶっ刺さった。

  • ブルックリンでオペラを
    背景には俳優・脚本家たちの映画業界への危機感が見えるかも
    ★★★★

    プロデュースも兼ねるA・ハサウェイが演技巧者たちを揃え、いま中々成立し難い“良い芝居と面白い物語を備えたミドルサイズの佳品”を製作したことに好感。作風はW・アレン・スタイルの都市生活者の人間模様をベースにした、より原液に近いスクリューボール・コメディの派生形。等身大というより変な大人たちが突飛な展開を繰り広げる――その珍騒動を現在の政治的縮図に仕立てるレベッカ・ミラー監督の意図は明快かつ貴重なものだ。

    P・ディンクレイジ×音楽のB・デスナーは『シラノ』からの繋がりか。B・スプリングスティーンの新曲はミラーの前作『マギーズ・プラン』に加え、M・トメイとの『レスラー』にも補助線を引ける。

  • ミッシング
    王道にぶっ刺さる強度と風格
    ★★★★★

    全身全霊の石原さとみが獰猛な「攻め」の芝居で真ん中に立ち、中村倫也、青木崇高、森優作など様々な形の「受け」が繊細に光る。役者陣の素晴らしさが何より際立つ吉田恵輔監督の新作は、『空白』を引き継ぐパノラマ的な群像劇でありつつ、要所の抑制が抜群に効いたヒューマンドラマの名作に仕上がった。

    我が子が失踪した母親の話という点ではイーストウッドの『チェンジリング』を連想しつつ、より真正面勝負。「宙吊りの地獄」を真摯に生き続け、さらにメディア風刺を本格的に絡める(それはどこか『空白』と同年公開の『由宇子の天秤』へのアンサーにも思える)。吉田イズムのコアと新規の要素が融合された達成度の高さに今回も感嘆!

  • No.10
    本当は何も知らずに観たほうがいい
    ★★★★★

    「開けてびっくり」度では近年最大の超怪作。なるだけ黙って、しかし喉から血が出るほどデカい声でお薦めしたい一本だ。オランダの演劇界から登場した異能監督、『ドレス』や『ボーグマン』で知られるアレックス・ファン・ヴァーメルダムのNo.10(第10作目)。このタイトルからも「無題」の名に相当するカテゴライズ不能の危険領域を果敢に目指したことが伝わるだろう。

    物語の出だしだけ書くと、舞台俳優の男性ギュンターを主人公とする劇団内でのパワーゲームが開始される。俳優でもあるヴァーメルダムの『8 1/2』的な自意識の反映か?と思いきや――既存の説話構造からどこまで遠いところに飛翔するのか、ぜひ目撃して欲しい!

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