略歴: 映画ライター。視覚に訴えかけるビジュアルの派手な映画がお気に入り。「SCREEN」「SCREEN ONLINE」「Movie Walker」「日経エンタテインメント!」「DVD&動画配信でーた」「キネマ旬報」「SFマガジン」「映画.com」等で執筆。他に「キングスマン:ゴールデン・サークル」ノベライズ、「グレートウォール」ノベライズ、「X-ファイル 2016」ノベライズ、「フランケンウィーニー」ノベライズ、「「ターミネーター:新起動/ジェニシス ビジュアルガイド」翻訳など。ウェブで映画やTVドラマのニュースを追いかけ中
近況: スティーヴン・ザイリアン監督のミニシリーズ「リプリー」@Netflix を視聴中。滑らかなモノクロ映像は、すべてのショットが、ヤリすぎなくらいキメキメの構図で、ひれ伏すばかり。
昼と夜の間の”たそがれ時"の光の中、ガラス窓の表面に何かが滲んだかと思うと、それが窓に映り込む主人公の姿だとわかる。そういう淡い光の中に、リアルとアンリアルの狭間の世界が映し出されていく。
そして原題「All of Us Strangers」通り、人間がみな異人であることが胸に沁み入る。ここは自分の居場所ではないと感じる者はみな異人であり、永遠にここにいるわけではないという意味で人は誰もが異人だ。原作は親子の物語の印象が強いが、本作はそれをすべての人間の物語として描き直す。『荒野にて』『さざなみ』のアンドリュー・ヘイ監督は、これまでもそんな異人が一人で歩く光景を描いてきたのかもしれない。
大正ロマン x スチームパンク x 探偵小説 x 地下迷宮。デザインはどこまでも和製レトロ、色調は褪色したかのような中間色、光はいつも薄暗い。路面電車が走るどこか大正時代を思わせる街で、謎の失踪事件が連続し、消えた情報屋を探す探偵は、地下世界"クラガリ"に足を踏み入れ、そこで福笑いのような模様の仮面を被る"福面党"と、制服の少女が率いる重装備の装甲列車に遭遇するーー。ストーリーはあるが、それよりもこの独特の世界観に浸るのが醍醐味。
少人数による自主制作アニメを撮り続けてきた塚原重義原作・脚本・監督の初長編アニメ。本作のスピンオフ小説をアニメ化した映画『クラメルカガリ』も同時公開。
色彩を愉しむアニメーション映画。ストーリーはあり、リンダとその母親が、ストライキで食肉店が休業中の状況下で、チキン料理を作ろうと試行錯誤する物語だが、それは街や田舎、さまざまな人々を登場させるための設定。人物や風景の表現に"線"は使われるが、輪郭はなく、色彩が自在に変化する。それでいて人物たちの行動も感情も鮮やか。
そういう表現なので、リンダのアパートで暮らす人々の人種の多様性は、名前から推測されるが、形や色彩からは分からない。また、ミュージカル風に挿入歌があり、曲調によって映像のデザインのタッチが変わるのも楽しい。監督コンビは幼い娘のために製作したとのことで、幼児が見ても楽しめそうだ。
同じソフィア・コッポラ監督の『マリー・アントワネット』で急にザ・ストロークスの「What Ever Happened」が流れた瞬間を思い出させる。あの映画でも18世紀のフランス王妃の物語に現代のポップソングが使われたが、本作も同様。プレスリーの妻プリシラの視点から見た物語を描くが、彼女の心情は、プレスリーの音楽ではなく、当時の音楽でもなく、それにピッタリのさまざまな時代のポップソングと共に描かれる。音楽監修は手練のランドール・ポスターだ。
14歳の女の子が、ポップスターの恋人になって体験する、夢のような至福感。しかし、そこに浸り続けることは出来ない。相手は特殊だが、普遍的な物語でもある。
これまでも人間の"身体性"を追求してきたブランドン・クローネンバーグ監督が、それをさらに推し進め、自分のクローンを製造し、自分の代わりに処罰を受けさせる世界を描く。自分を見失っていく主人公をアレキサンダー・スカルスガルドが熱演、彼を翻弄する女性役のミア・ゴスの演技が強烈だ。
しかし、何よりも目を奪うのは、クローン製造が習慣となった人々が悪事を働く時に被る”仮面”の、人間の顔を異様に歪ませたような造形と、まるで人肉と人皮で造られているかのような質感。彼らが、自分の顔の上に、さらに変形した人間の顔のようなものを被りたくなるところに、この映画の真のテーマが潜んでいるのかもしれない。