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羊飼いと風船 (2019):映画短評

羊飼いと風船 (2019)

2021年1月22日公開 102分

羊飼いと風船
(C) 2019 Factory Gate Films. All Rights Reserved.

ライター4人の平均評価: ★★★★★ ★★★★★ 3.5

中山 治美

高尚な香りに惑わされ、敬遠していたら損をする

中山 治美 評価: ★★★★★ ★★★★★

タイトルの”風船”はダブル・ミーニング有だし、チラシなどに使用されている写真もよく見ると……(苦笑)。冒頭から爆笑必至の”明るい家族計画”物語。だがチベットだけに厄介だ。夫の欲望は止まらないが、これ以上の出産は家計を苦しめ、政府による人口抑制制度にも触れる。一方で輪廻転生という信仰の問題も絡んでくる。そんな中で母ドルカルが、一人の女性として自分の生き方について自問するようになる。つまりは世界の潮流であるジェンダー論がテーマ。古い価値観が根強く残るアジアで気鋭監督たちは自国の文化と向き合いながら果敢にそのテーマに斬り込み、我々に大きな課題をぶつけてくるのだ。世界が注目する逸材の策士ぶりを見たり。

この短評にはネタバレを含んでいます
なかざわひでゆき

変わりゆくチベットの今を映し出す素朴な家族の物語

なかざわひでゆき 評価: ★★★★★ ★★★★★

 舞台は雄大な自然に囲まれたチベットの片田舎。昔ながらの伝統と習慣を頑なに守り続ける牧畜民の一家が、徐々にしかし確実に押し寄せる近代化の波によって変化を迫られていく。興味深いのは男性と女性の意識や視点の違い。世の東西を問わず、古い伝統というのは往々にして男性に有利な仕組みで出来ており、その恩恵に与っている男性は己の優位な立場にほとんど無自覚だ。本作では望まぬ妊娠を発端として、男女関係の不平等に気付いてしまった妻が、夫や息子が善意で押し付けてくる前時代的な価値観に反旗を翻す。人間の生と性を大らかなユーモアで包みながら、変わりゆくチベットの今を牧歌的な抒情性で捉えた佳作だ。

この短評にはネタバレを含んでいます
山縣みどり

伝統と近代化の狭間で女は何を思う?

山縣みどり 評価: ★★★★★ ★★★★★

昔ながらの生活様式を続けるチベットの羊飼い一家に近代化の波が押し寄せる、と書くと自然と共存するエコな生活をハイテクが脅かすイメージが浮かぶかも。ただ、伝統的な生活の現実はもっと厳しい。特に女性にとっては! 家事や育児、羊の世話で1日働き詰めの主婦ドルカルが望まぬ妊娠をしてから感じ始める心の揺れは、女性なら身につまされるはず。輪廻転生を信じる家族との軋轢は悲しいが、身を斬る思いの決断にチベット女性の覚醒が見える。伝統や宗教に縛られる女性は弱者であり、犠牲を払わされることも少なくない。が、伝統を維持してきた女性が変化のきっかけを作ることもあると思わせる作品だった。

この短評にはネタバレを含んでいます
平沢 薫

青く透き通った光に満ちた光景が物凄い

平沢 薫 評価: ★★★★★ ★★★★★

 ときどき現れる、青く透き通った光に満ちた光景が物凄い。その光景は、幼い子供が見る夢の中や、その母親がいる夢なのか現実なのか分からないところにふと出現し、見る者をまるごと包み込む。
 チベットで羊を飼う一家は、広大な緑の野原と青い空に取り巻かれているが、その生活はけしてのどかなだけではない。馬がオートバイになり、羊の売り買いを巡る交渉が伝統とは異なる形に変化していく。妊娠を巡っても、祖先の"生まれ変わり"を信じる人々だけでなく、まず出産による生活苦を思う人々もいる。そのように変わっていく世界の中で、人々はふと、青く透き通った光に満ちた光景を見る。そういう世界が描かれている。

この短評にはネタバレを含んでいます
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