レクター博士から30年。名優の進化は、ついに神レベルに到達

認知症にフォーカスした映画はいくつもあったが、今作は当事者の「視点」で混乱する現実をそのまま観客に突きつけてくる。目の前にいる相手は誰? 自分の意思で動いたはずが、決定的な間違いを犯していたのか…など、リアルな切迫感と恐ろしさは上質なスリラーのようだ。主人公の混乱を、伏線でまとめ上げる脚本も見事。
自分の言動は正しいと自信をもちながら、混濁と闘い、時に笑いを誘う行動もとるという、世紀の難役で、アンソニー・ホプキンスの変幻自在の表現は、もはや「神の域」。演技の良し/悪しの基準は観る人の「感覚」に委ねられるものだが、もしフィギュアスケートのように技術点があるなら、映画史上でも最高ポイントと断言。