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ホモ・サピエンスの涙 (2019):映画短評

ホモ・サピエンスの涙 (2019)

2020年11月20日公開 76分

ホモ・サピエンスの涙
(C) Studio 24

ライター7人の平均評価: ★★★★★ ★★★★★ 3.9

なかざわひでゆき

オムニバス映画とは異なる新たなストーリーテリングの概念

なかざわひでゆき 評価: ★★★★★ ★★★★★

 信仰心を失ってしまった牧師、亡き息子の墓参りをする老いた両親、知り合いに無視されて納得がいかない男、履いていた靴が合わなくて困っている母親、戦場で命乞いをする兵士、音楽に合わせて踊り出す若い娘たち…。全く関連性のない33種類のワンシーンを羅列しながら、喜びも悲しみもひっくるめた人生そのものを浮き彫りにしていく。どこかシュールな演出とスタイリッシュな映像に、ほのかな哀切の漂うところがロイ・アンダーソン監督らしさか。いわゆるオムニバス映画とは異なる新たなストーリーテリングの概念も面白い。

この短評にはネタバレを含んでいます
斉藤 博昭

美術館や画集で絵画を見ていたら、想像で動き出すような感覚も

斉藤 博昭 評価: ★★★★★ ★★★★★

セットや背景、小道具のアナログへのこだわりが監督の作家性だが、もはやそれを「楽しむ」レベルを超えてしまっている。有名な絵画を模倣したシーンも、そこに「意味」を見出すのではなく、人物の配置など視覚的な美しさを追求しているようで、『TENETテネット』のごとく「考えるな。感じろ」と向き合ってほしい作品。
唯一無二の絵作りと流れる時間には正直、戸惑う部分もあるし、どうでもいいほど共感できないエピソードも出てくる。今作の人と人の関わり方が「コロナ禍を予感したよう」なんて見方もできるけど、迫害や戦争、殺人という重い瞬間を日常の点景に入れ込んだ「無造作感」にこそ、人生や世界の真理を感じてしまうのであった。

この短評にはネタバレを含んでいます
相馬 学

"神"の視点を持つ鬼才の、新たな境地

相馬 学 評価: ★★★★★ ★★★★★

 ドラマがないといえばそうだし、あるといわれてもそのとおり。いずれにしても、日常のスケッチの細切れを羅列するアンダーソン節が深化した、と言っても過言ではない。

 連ねられた悲喜劇はどれも衝撃性とは程遠く、オチがあるわけでもない。が、ナレーションにより、ひとつひとつが連がりを持つ。この声は人間の所業を俯瞰する神のものか!? ともかく本作の神はアンダーソンに他ならない。

 そして“神”の描く映像の美しいこと。新即物主義というアートの表現形態を初めて知ったが、これを映像に投入した本作の肌触りは『さよなら、人類』以上に詩的で、それゆえにシミる。ドラマか否かは、その時点でどうでもよくなる。

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くれい響

ある程度の距離感から眺めたい「33のシーン」

くれい響 評価: ★★★★★ ★★★★★

ストーリー性があるようでないような、それらが繋がっているようでないような、まるで絵画のような「33のシーン」。そんなどこを切り取っても紛れもないロイ・アンダーソン映画なのだが、顔面蒼白のヒトラーや神の存在を信じられなくなった牧師に代表される面白エピソード率や設定のインパクトなど、総合的には前作『さよなら、人類』を超えられず。すべてにオチが欲しいとは言わないが、あまりに投げっぱなしも如何なものか? “人間の脆さ”を紹介していく「千夜一夜物語」のシェヘラザードを意識した語り部同様、ある程度の距離感から眺めるのが、ベストな鑑賞法といえるかもしれない。

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猿渡 由紀

シュールリアルで奇妙な「日常」

猿渡 由紀 評価: ★★★★★ ★★★★★

カンヌやヴェネツィアの常連ロイ・アンダーソンは、一見日常のなんでもないことを、どこか不思議で奇妙なものに見せてしまう鬼才。セットの構図、俳優の演技、セリフの間の取り方など、どれも計算されていて、普通の情景なのに別次元のようなのである。それらの短い情景がとくに脈略もなく続く今作には、いわゆるストーリーというものもなく、観客は、そのシュールリアルな世界にひたすら没頭する感じ。「愛おしき隣人」「さよなら、人類」など過去作で見せた、ややブラックで、少しとぼけたユーモアは今回も健在。見る人を選ぶかもしれないが、独創性満点ということには誰も異論がないだろう。

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森 直人

完璧な76分の「大作」!

森 直人 評価: ★★★★★ ★★★★★

『さよなら、人類』でロイ・アンダーソンの「リビング・トリロジー」は完結したはずだが、その嬉しすぎる延長。シャガールの『街の上で』(今泉力哉の同名映画タイトルの元ネタでもある)を戦禍のケルンの上空に再現した美麗な画から始まり、超“ごっつええ感じ”のミニコントが連発。『去年マリエンバートで』のショートVer.を33篇詰め込んだ位の充実と労力があるのでは?とすら思う。

例によって本作は、ほぼ全て監督の自社スタジオ(箱庭)の中で創造されたもの。同じくジャック・タチの発展的後継でも、パレスチナ問題を巡る実景を背景にしたエリア・スレイマン(『天国にちがいない』が来年1月公開予定)と比較してみるのも一興。

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平沢 薫

ひとつひとつのシーンが緻密な絵画の趣

平沢 薫 評価: ★★★★★ ★★★★★

 まるで絵画のようだ。この印象には2つの理由がある。まず、想像力を刺激する方法。本作は短い33のシーンで構成されており、一つ一つがとても短く、その背後にある物語を強く想像させる。そこが、時間の中の一瞬だけを抽出する絵画の手法に似ているのだ。 
 もうひとつの理由は、映像が、絵画同様、端から端まで緻密に作り込まれているから。これはただの印象ではなく、実際に本作の映像はみなロケ撮影ではなく、セットで撮影されたもの。なので、構図、色彩、光線だけでなく、細部の小物から遠景まで、すべてがある意図のもとに作られたものなのだ。映画を見ながら、ある個人の私的美術館の中を歩き回っているような気分が味わえる。

この短評にはネタバレを含んでいます
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