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レ・ミゼラブル (2019):映画短評

レ・ミゼラブル (2019)

2020年2月28日公開 104分

レ・ミゼラブル
(C) SRAB FILMS LYLY FILMS RECTANGLE PRODUCTIONS

ライター6人の平均評価: ★★★★★ ★★★★★ 4.2

村松 健太郎

200年後にも連鎖する闇

村松 健太郎 評価: ★★★★★ ★★★★★

本歌取りの元になった、壮大なスケール感をバック19世紀初頭のフランス社会の動乱を描いたに本家に対して、こちらは対照的なミニマムな社会の片隅の物語。
しかし、とある犯罪行為からフランス社会の現状を描き出す描いているという本質の部分は変わらず、あまりにもブルータルなラストを見せられた時の感情は、本家に匹敵する圧倒的な有無を言わせぬ衝撃。
些細な火種で爆発しそうな不安感に溢れた状況が世界各地に存在する中で、他人事として見てはいけない作品。本当に『パラサイト』さえなければ…。

この短評にはネタバレを含んでいます
なかざわひでゆき

移民社会の対立と分断を通して大人の責任を問う

なかざわひでゆき 評価: ★★★★★ ★★★★★

 アフリカ系やアラブ系など移民の貧困層が多く暮らすパリ郊外の巨大団地で、警察による少年への暴行事件が発生し、やがて一触即発の緊迫した事態を招いていく。こうした治安の悪い郊外の実情を告発するフランス映画は近年特に増えているが、本作のユニークな点は、平和な田舎から赴任してきた警官という第三者の目から描くことで、住民同士や警察の対立や分断を浮き彫りにしていること。そして、子供たちによる逆襲である。大人はお互いに憎しみや対立を煽るが、しかしそのしわ寄せを一番受けるのは子供たち。そんな彼らが「もう黙ってられっか!」と怒りの拳をあげたとき、子供たちに豊かな未来を残すべき大人の責任が問われる。

この短評にはネタバレを含んでいます
斉藤 博昭

社会派映画としてだけでなく、アクション映画の高揚感も

斉藤 博昭 評価: ★★★★★ ★★★★★

対立する双方に感情移入させたり、憤ったりさせたりして、社会が抱える深い闇をえぐり出す。今作がその目的を鮮やかにクリアしたのは、登場人物への徹底したクールな眼差しが貫かれているから。複雑な事情を抱える警官はともかく、悪さをする少年たちに同情の余地はないのだが、警官の不正を世にさらけ出そうとする彼らの姿に、正義と悪が反転する高揚感を味わえる。ドローン、動画流出、インスタを使った捜査など、いかにも今っぽい要素も作品への訴求力を高めるうえで効果的。重要なシーンでアクション映画的に興奮させるのは、室内および路上での的確なカメラワークのおかげで、一発勝負の迫力か、計算された演出か、その境界を感じさせない。

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くれい響

“花の都”とは真逆の現実

くれい響 評価: ★★★★★ ★★★★★

先輩警官に試される新入りの日常を描いた導入部こそ、モンフェルメイユ版『カラーズ 天使の消えた街』~『トレーニング・デイ』。しかも、犯罪多発地域を生き抜く少年たちの描写には『憎しみ』~『シティ・オブ・ゴッド』的な展開も期待させる。とはいえ、神の視点のようなドローンを使ったショットを除けば、ラジ・リ監督の演出は、どこか凡庸で、前出の作品のようなエンタメ性にも欠ける。本来、フランスが中央集権の官僚国家で、警察国家であることや、国民が頻繁に“黄色いベスト運動“などの抗議活動を行っていることを知るなら、衝撃度は低め。アクション寄りを求めるなら、ハードルは上げない方がいいだろう。

この短評にはネタバレを含んでいます
森 直人

無情のパリ郊外の“ドゥ・ザ・ライト・シング”

森 直人 評価: ★★★★★ ★★★★★

このタイトルはよくつけたもの。本当にヴィクトル・ユーゴー meets スパイク・リー的な雄篇だ。『ああ無情』の旧邦題で知られる1862年の同名小説は貧困・暴動・革命の時代が背景。そこから現代にワープすると、やはり混沌とした犯罪多発エリアが広がっていた。

振り返れば1995年、ユダヤ系・アフリカ系・アラブ系の若者を主人公とした『憎しみ』がバンリューの公営住宅地域のリアルを描き「おフランス」のロマンと仮面を引っぺがした。新鋭監督ラジ・リは2005年の暴動の記憶をベースに、前の“レミゼ”超えのボリュームで警報の音を鳴らす。猛烈なストリートの詩。カンヌで『パラサイト』のライバルの一つだったのも納得!

この短評にはネタバレを含んでいます
猿渡 由紀

観客に想像と論議の余地を残すラストも効果的

猿渡 由紀 評価: ★★★★★ ★★★★★

ヴィクトル・ユーゴーの小説と同じモンフェルメイユの今を正直かつ辛辣に映し出す社会派の秀作。世間から無視されたマイノリティの人々に対する警察の扱いや、警察官内の倫理観の衝突は、「ドゥ・ザ・ライト・シング」「トレイニングディ」「デトロイト」など、いくつかの優れたアメリカ映画を思い起こさせる。しかし、今作がさらに心に刺さるのは、子供たちが多く登場することだ。貧しいながらも楽しそうに遊ぶ彼らの中では、日々、警察の恐怖にさらされるうちに、怒りがどんどん溜まっていく。それが、衝撃のクライマックスへとつながるのである。ラストには賛否両論あるだろうが、観客に想像と論議の余地を残す意味で効果的だと思う。

この短評にはネタバレを含んでいます
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