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エセルとアーネスト ふたりの物語 (2016):映画短評

エセルとアーネスト ふたりの物語 (2016)

2019年9月28日公開 94分

エセルとアーネスト ふたりの物語
(C) Ethel & Ernest Productions Limited, Melusine Productions S.A.,The British Film Institute and Ffilm Cymru Wales CBC 2016

ライター4人の平均評価: ★★★★★ ★★★★★ 4.3

なかざわひでゆき

名もなき夫婦の半生を通じて綴られる20世紀の記憶

なかざわひでゆき 評価: ★★★★★ ★★★★★

 『スノーマン』や『風が吹くとき』などで有名なイギリスの絵本作家レイモンド・ブリッグズが、自らの両親の半生を綴った同名絵本を映像化したアニメーション。まだロンドンの町中に馬車が走る’28年に始まり、ナチスの台頭や第二次大戦の勃発といった暗い時代、戦後の復興やスウィンギン・ロンドン、宇宙開発の時代と、夫婦の出会いから天国への旅立ちまでの物語を通じて、移り変わるイギリス社会の姿を丹念に描いていく。それはそのまま、20世紀イギリス庶民の生活の記録だ。長所も短所もある、ごくごく平凡な夫婦のささやかな日常の温かさと愛おしさ。そこには観客の誰もが、自らの両親の記憶と重ね合わせてしまうような普遍性がある。

この短評にはネタバレを含んでいます
山縣みどり

両親への愛と思いやりが詰まった家族の物語

山縣みどり 評価: ★★★★★ ★★★★★

『スノーマン』で有名なイラストレーター、レイモンド・ブリッグスの両親の物語は愛とユーモアがあふれる快作だ。20年代後半のイギリスで出会い、恋に落ちたエセルとアーネストは当時の庶民の代表とも言える平凡な夫婦で、だからこそ彼らが体験する出来事や事件に誰もが共感できるはず。特に第二次大戦を体験した世代には空襲のことやその後の食品事情など、ある意味、ノスタルジックな気持ちがこみ上げるかも。ブリッグスの画風を再現したアニメ映像はほのぼのと心地よく、徐々に成長する庭の木など細部への気配りに脱帽。J・ブロードベントとB・ブレッシンが声に夫婦の人間性や個性をしっかりとにじませていて、もう参ったというほかない。

この短評にはネタバレを含んでいます
平沢 薫

少し昔の英国の普通で貴重な日々を丁寧に描く

平沢 薫 評価: ★★★★★ ★★★★★

 原作絵本そのままの柔らかい線と抑えた色調で、手書きアニメで描かれた穏やかで静かな世界にたっぷり浸ることができる。この世界が柔らかなのは、大きな出来事が起こらないからではない。1928年から1971年の英国では戦争が起こり、若者文化は激変するが、それらが、お湯を沸かしてお茶を入れる、手回しの脱水機で洗濯物を絞るといった毎日の営みと同じ線、同じ色調で、どちらも同等の価値を持つ大切なものとして描かれるからだ。
 その日常生活の細部の再現ぶりも見もの。家の間取りや寸法、壁紙の模様、台所の食器、壁のレンガまで当時の資料を元に正確に描かれたとのことで、英国一般家庭の文化風俗の変化を見るのも楽しい。

この短評にはネタバレを含んでいます
中山 治美

英国版『この世界の片隅に』

中山 治美 評価: ★★★★★ ★★★★★

レイモンド・ブリッグズが両親の人生描いた漫画が原作。自身が生まれる前の話がほとんどで想像の世界のはずだ。なのにイキイキとした会話と細やかな生活描写で、当時の社会までも鮮やかに甦らせた。とりわけ防空壕やシェルター造りといった戦時中の庶民の備えと暮らしは、過去の英国映画でもお目にかかったことがないレアシーン。ドイツ同様に当初はヒトラーの台頭をそれほど脅威に感じていなかった発言や英国人らしい政治家への辛辣なコメント含め、アニメの枠を超えて20世紀の貴重な映像記録といっても過言ではない。そして小津安二郎、高畑勲をはじめ優秀なクリエーターは日々の営みを疎かにしないのだということを改めて実感。

この短評にはネタバレを含んでいます
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