ソローキンの見た桜 (2019):映画短評
ソローキンの見た桜 (2019)ライター2人の平均評価: 3
知られざる歴史にスポットを当てた点は評価できる
日露戦争時代、愛媛県の松山にロシア兵の捕虜収容所があったという史実をもとに、ロシア人将校ソローキンと日本人看護婦の禁じられた愛の物語を描く。そもそもが日ロ友好をテーマにした作品であるし、当時の日本軍は太平洋戦争時と違って戦時国際法を遵守し、外国人捕虜(少なくとも白人に対しては)を厚遇していたため、『戦メリ』や『戦場にかける橋』のような悲壮感は殆どない。その長閑さゆえもあってか、「ロミオとジュリエット」的な禁断の愛もいまひとつ盛り上がりに欠けることは否めないだろう。なによりも惜しいのは、仕上がりが見るからに低予算であること。もっと製作費をかけて取り組むべき題材だったように思う。
"桜"のさまざまな姿がスクリーンに現れる
日露戦争時代、愛媛県松山市に設営された日本初のロシア兵捕虜収容所を描く本作は、タイトルに冒頭と最後の満開の桜の光景が相まって、"桜"をモチーフに、突然この国に来た異国人の目から見た、日本というものの捉えどころのなさを描く物語にも見える。日本人女性に恋するロシア将校は「桜は日本なのですね」とも言う。収容所所長役はソクーロフ監督の「太陽」で昭和天皇を演じたイッセー尾形。桜の美しさは、花ひとつを間近で見ても捉えられず、見渡す限りの満開の花を少し離れたところから見て初めて伝わってくる。桜は何度か画面に現れるが、映画の最後、人物の背後で焦点が合わずに白くぼやけている姿がもっとも美しく感じられる。