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日韓相互で映画リメイクブームの理由

コラム

『SUNNY 強い気持ち・強い愛』より
『SUNNY 強い気持ち・強い愛』より - (C) 2018「SUNNY」製作委員会

 ルーズソックスのコギャルたちが安室奈美恵の「SWEET 19 BLUES」を歌い、久保田利伸の「LA・LA・LA LOVE SONG」で群舞する。1990年代のノスタルジーをたっぷり盛り込みながら40代にさしかかった女性たちの絆を描く『SUNNY 強い気持ち・強い愛』(公開中)。この作品は韓国で2011年に740万人超の動員を記録した大ヒット作をリメイクしたものだ。一方、韓国でも今年に入り、押井守の原作によるアニメ『人狼 JIN-ROH』(1999)を実写化した『人狼(原題の日本語訳)』のほか、『いま、会いにゆきます』(2004)のリメイク版が相次いで上映されている。まさに今、日本と韓国は相互で映画リメイクブームといってもいいほど。背景には、どんな事情があるのだろうか。(文:桑畑優香)

 最近の日本映画の中では、藤原竜也主演の『22年目の告白-私が殺人犯です-』(2017)、多部未華子主演の『あやしい彼女』(2016)などが韓国映画のリメイクだ。それぞれ、実在の連続殺人事件にインスピレーションを得た『殺人の告白』(2012)と、シム・ウンギョンのはじける演技でスマッシュヒットを飛ばした『怪しい彼女』(2014)が原作となっている。一方、韓国では今年、『ゴールデンスランバー』や『リトル・フォレスト』と、日本の同名映画のリメイクラッシュが続いている。

 韓国のハンギョレ新聞などによると、日本から韓国へのリメイク急増の理由の一つが、日本映画の韓国での成功だという。2017年、『君の名は。』が観客動員数370万人と、韓国で公開された日本アニメで最大のヒットを記録。同年公開された『君の膵臓をたべたい』も47万人と好調だった。2013年には公開本数219作品(観客188万人)だった日本映画が、2017年には661作品(873万人)と上昇気流に乗る中、日本生まれのコンテンツにも関心が高まったというわけだ。

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 韓国では古くは『失楽園』(1998)や『フライ・ダディ』(2006)(原作は金城一紀の小説「フライ,ダディ,フライ」)など多数の日本映画がリメイクされてきたが、大ヒットにつながるものは少なかった。ところが2016年、『鍵泥棒のメソッド』(2012)を原案にした『LUCK-KEY/ラッキー』が700万人近い観客を動員する大ヒットに。「リメイクもヒットする」という手応えも追い風となった。
 
 また、作り手の個人的な思い入れが原点になるケースもある。『SUNNY 強い気持ち・強い愛』の大根仁監督は、原作となった『サニー 永遠の仲間たち』が日本で公開された当時3回も観に行ったというほど高評価で、川村元気プロデューサーと「これ、コギャルでリメイクできるんじゃないですか?」と盛り上がったことが、作品誕生のきっかけだと明かしている。

 一方、リメイク急増の背景として韓国コンテンツ振興院日本ビジネスセンターのファン・ソンヘセンター長が挙げるのが、「日韓両国の映画の質が向上するにつれ、リメイク作の表現方法もより斬新で巧みになってきたこと」。リメイクは、「原作のストーリーはぶれずに、どのように現地向けにローカライズして面白く見せるかが大事」だという。

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 つまり、リメイク成功のポイントのもう一つが、作品に宿る普遍の価値観を軸にしながらも、いかに舞台やキャラクターの設定にそれぞれのお国柄を盛り込むかという点だ。例えば、韓国版『サニー 永遠の仲間たち』の舞台は1980年代末の軍事政権時代。日本版ではコギャルたちが真夏のプールで闘う(!?)シーンが、韓国版では政府と市民が対峙する民主化デモだったり、海辺のバーがレトロな音楽喫茶だったりと、現在の40~50代の青春を彩る世相の違いが浮き彫りになっている。また、『人狼』の場合は、日本版が第二次世界大戦後の混迷から抜け出し始めた日本の首都圏を描いているのに対し、韓国版は韓国と北朝鮮が統一を宣布した近未来が舞台となるなど、国際社会での立ち位置までもが投影されている。

22年目の告白
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 さらにリメイク成功の秘訣として、構成に大胆な味付けをするケースも挙げられる。『LUCK-KEY/ラッキー』は、『鍵泥棒のメソッド』で男性二人に焦点を当てていたメインキャラクターを一人に絞り、序盤の設定以降はオリジナル要素も満載の展開に。韓国映画『殺人の告白』をリメイクした『22年目の告白-私が殺人犯です-』は、イケメンの殺人犯が時効後に告白本を発表するという軸はぶらさず。だが、アクションで魅せる韓国版に対してサスペンス仕立ての日本版と、異なるクライマックスで観る人を引きこむといった具合だ。

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 ラブストーリー、家族愛、サスペンス、SF。さまざまなジャンルが増える中、ファンセンター長によると「リメイクに最も向いているのは“事件もの”」だという。加えて、「恋愛には文化的な感情があるけれど、世の中の善悪を問う“事件”には普遍の価値観があります。そういう意味では、『SUNNY 強い気持ち・強い愛』も“女性の人生における事件”を扱っているので、国を超えて観客の心に響くのでは」と分析。

 日本版から楽しむもよし、韓国版から楽しむもよし。まずはそれぞれの作品の魅力に存分に身をゆだねて余韻を味わった後に、もう一つのバージョンを観ながら、意外なキャラクター設定や構成の変化の妙に「なるほど!」とうなずいたり、「そう来たか!」驚いたり。エンタメとして一作品で二度おいしい上に、文化や社会の違いにも思いを巡らせる機会を与えてくれるのがリメイク作品なのだ。(数字は韓国・映画振興委員会調べ)

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