等身大の彼氏好演の渡辺大知「僕は演技力を持っていない」
ロック・バンド、黒猫チェルシーのボーカルも務めるミュージシャン、俳優の渡辺大知。現在、テレビ東京で放送中の木ドラ25「恋のツキ」で、徳永えりとともに同棲3年目のカップルを演じる彼が、恋人に浮気される等身大の彼氏になり切った本作での撮影から、迷いながらも俳優とミュージシャンを両立させてきた日々までを振り返る。
新田章の漫画に基づく「恋のツキ」で渡辺が演じるのは、恋人のワコ（徳永）と交際して4年目、同棲して3年目を迎え、マンネリ気味の31歳の青井ふうた。結婚も考えてはいるものの、ワコの両親との挨拶には消極的な言動を見せ、一言で表すなら「油断している」男だ。渡辺と言えば、「毒島ゆり子のせきらら日記」（2016・TBS系）で前田敦子演じる浮気なヒロインと同棲中の彼氏に、映画『勝手にふるえてろ』（2017）でも松岡茉優演じるヒロインが心の中で「二」と称する2番目の彼氏候補と、いわゆる3枚目を演じた。
「また、だらしのない役がきたなと（笑）。ふうくんというキャラクターは実は、外では社交性があって初対面の人や職場の人に好印象を持たれるタイプだと思うんです。だからこそ、気を許せる人には悪いところを全部出してしまう。嫌われるはずがないと思い込んでいるんですよね。そういう感覚って、誰しも持っていて、ふうくんはその代表者として描かれているように思うので、人間臭さ、生活感を意識しながら演じているところはあります」。
渡辺のナチュラルな演技力も相まって、ふうくんはいかにもいそうなタイプに見えるが、「僕は演技力は持ち合わせていない」と言い切る渡辺。今回は男女4人の監督と話し合いながらディテールを表現していったという。「例えば、ふうくんがワコを『コーヒー買ってないの？』と責めるシーンでは、僕は同棲したことないのですが『そんな言い方せんでも……』と思ってしまったんです。でも、監督の森（義仁）さんは『俺は同棲していたとき、そういう感じで言ってたから大丈夫！』と（笑）。後々、なんであのときああいうふうに言ってしまったんだろうと後悔すると思うから、むしろ強く出してほしいという意図があったようで」。
ワコ役の徳永とは、ともにNetflixのドラマ「火花」（2016）に出演していたが、顔を合わせるのはこれが初。劇中、ドキリとさせるようなラブシーンもあるが、「徳永さんがどっしりされていたので僕はそこに飛び込むような気持ちで臨んだ」という。劇中、ワコのことを見られていない雰囲気を意識するため、撮影の合間でも目を合わせて話せていないそうで、「だから本当に話したいことは撮影が全て終わってから話そうと思っています」と笑う。
今後、『寝ても覚めても』『ここは退屈迎えに来て』『ギャングース』『体操しようよ』と4本の映画を控え、『ギャングース』では高杉真宙、加藤諒とともに主演を務める。俳優デビュー作となった『色即ぜねれいしょん』（2009）では主題歌を唄い、その後も黒猫チェルシーとしてテレビドラマや映画の劇中歌や主題歌を担当。2015年には監督デビュー作『モーターズ』で音楽も兼任し、同年放送の朝ドラ「まれ」では黒猫チェルシーが劇中バンドlittle voice（リトルヴォイス）にふんし、CDデビューも果たした。そうして、出演作にミュージシャン、俳優として名を刻んでいるところも渡辺の個性であり、強みでもある。
「俳優としてのお仕事をたくさんいただけているのが本当にありがたくて。刺激的で楽しくて、そこに甘えてしまっているところもあるんですけど、実は今曲を作っていまして。いつ発表できるのかはわからないんですけど、いつかソロでも音源を出せたらいいなと思っていて。今こうしてドラマや映画の現場に入らせていただいて、いろいろな刺激を受けているので、そういった経験を曲作りに還元できたらと」
黒猫チェルシーは今年9月で活動休止となるが、ミュージシャンとしての情熱は決して失われていないようだ。約10年にわたってミュージシャンと俳優と両立させてきた渡辺に現在の心境を問うと、「自分にとってはどの経験も大切だったのかなと」と振り返る。
「悩んだ時期もありましたけど今は、自分にしかできない活動の仕方が見えてきた感覚があるので。好きなことを仕事にできる、食っていけるということを証明できたらいいなと思っています」。そう語る謙虚な渡辺には、スクリーンやステージで華々しいスポットライトを浴びる姿からは想像できない、努力家としての一面が垣間見られた。（取材・文：編集部 石井百合子）
「恋のツキ」はテレビ東京にて毎週木曜深夜1時～1時30分、BSジャパンにて毎週火曜深夜0時～0時30分放送中
Netflixにて11月30日より全世界全話一挙配信予定
