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なぜアカデミー賞最有力候補が『スリー・ビルボード』なのか?

コラム

予期せぬ出来事が起こるクライムサスペンス『スリー・ビルボード』
予期せぬ出来事が起こるクライムサスペンス『スリー・ビルボード』 - (C) 2017 Twentieth Century Fox

 オスカーノミネーション発表が、現地時間23日に迫った。作品部門の候補は最大10作品で、年によって本数が変わるが、現段階で候補入りほぼ確実と言われているのは、『スリー・ビルボード』『レディ・バード』『シェイプ・オブ・ウォーター』『ダンケルク』『君の名前で僕を呼んで』『ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書』などだ。その中でも、最も有力視されているのが、『スリー・ビルボード』である。(文・猿渡由紀)

オスカー有力!『スリー・ビルボード』予告編

 『スリー・ビルボード』は、現代に生きる最高の劇作家のひとりとされるマーティン・マクドナーの、長編映画監督作3本目にあたる作品。物語の舞台は、アメリカ・ミズーリ州の、架空の小さな町エビング。主人公ミルドレッド(フランシス・マクドーマンド)は、19歳の娘がレイプされて殺された悲しみから抜け出せないでいるが、ある時、その悲しみは、犯人を検挙できない警察への怒りへと変わる。

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 町全体を敵に回すことも恐れず、中傷広告を出して警察にケンカを売るミルドレッドと、名指しされた署長(ウディ・ハレルソン)、そして、尊敬する上司が名指しされたことに激怒する出来の悪い部下ディクソン巡査(サム・ロックウェル)。この3人に加え、ミルドレッドの元夫や、ミルドレッドに想いを寄せる男性、広告を扱った会社の担当者などが、ユーモアと悲しさにあふれるドラマを展開する 。その根底にあるのは、「許す」というテーマだ。

 今作がまず評価を得たのは、ベネチア国際映画祭。ここで脚本賞を獲得すると、そのすぐ後には、トロント映画祭で観客賞に輝いた。トロントの観客賞からオスカー作品賞受賞につながった映画には、これまでに『アメリカン・ビューティー』(2000)『スラムドッグ$ミリオネア』(2009)『英国王のスピーチ』(2011)『それでも夜は明ける』(2014)など、多数の例がある。昨年の観客賞受賞作『ラ・ラ・ランド』も、ぎりぎりまでオスカー最有力と思われていた。

 9月の半ばにして一気に先頭に躍り出た今作は、賞レースが本格化した今月、ゴールデン・グローブでドラマ部門の作品賞を受賞し、再び勢いづいている。オスカー予測上重要な全米映画俳優組合(SAG)賞でも、最多にあたる4つのノミネーションを獲得し、さらにライバルに差をつけた。

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 とは言え、昨年の『ラ・ラ・ランド』と違い、今年は特定の作品がダントツにリードしている状態ではない。オスカー作品賞につながることの多い全米プロデューサー組合(PGA)賞 は『シェイプ・オブ・ウォーター』だったし、『レディ・バード』『君の名前で僕を呼んで』も、いくつかの批評家賞をさらった。スケールが大きく、実話ものである『ダンケルク』を大穴と見る向きもある。しかし、 高校生の成長物語である『レディ・バード』は、よく出来てはいるが小粒だし、前にもあったと思えるタイプの映画で、オスカーにふさわしいかどうかにおいては疑問がある。一方で、最もふさわしいように見える『ダンケルク』は、これまでに何も取っていない上、SAGのノミネーションを完全にはずした。SAGのキャスト部門にノミネートされなかった作品がオスカー作品賞を取った例は、『ブレイブハート』にさかのぼるまで、一度もないのだ(『シェイプ・オブ・ウォーター』も、SAGキャスト部門の候補入りを逃している)。

 『スリー・ビルボード』の強みは、さすがマクドナー監督と言えるすばらしいセリフ(マクドナー監督は、即興をいっさい許さないらしい)、予測のつかないオリジナリティーあふれるストーリー、そして欠点だらけだが共感できるキャラクターだ。それらのキャラクター、とくにディクソンに、しっかりした変化が用意されているのもいい。しかしオリジナリティーという意味では、ギレルモ・デル・トロ監督の『シェイプ・オブ・ウォーター』も、ピカ一である。恋愛物語でありつつ、差別など深い問題にも触れ、ドナルド・トランプ米大統領の人種偏見的な言動に通じるものを感じさせる上、プロダクションデザインの美しさでも魅了する今作が受賞する可能性も十分だ。

 昨年は、ノミネーション発表から実際の投票までの間にトランプが就任し、世間のムードが大きく変わったことが、『ムーンライト』の逆転劇に貢献した。オスカー授章式まで、あと6週間。どの作品にも、まだまだチャンスはあるのだ。

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