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第1回-福島・相馬、映画を作る子供たちに放射能汚染が残した爪痕とは

映画で何ができるのか

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娯楽だけではない映画の秘めたる力

世界的指揮者ダニエル・マツカワ(写真右端)の密着取材を行うこども映画教室のメ
ンバー(福島・原釜尾浜海浜公園にて)
世界的指揮者ダニエル・マツカワ(写真右端)の密着取材を行うこども映画教室のメ ンバー(福島・原釜尾浜海浜公園にて)

 今や映画は、デジタルカメラやスマホを活用し、誰もが映画を作れる時代へと突入しました。それに伴うかのように、単なる娯楽だけではない映画の活用法が試みられています。東日本大震災の際にはドキュメンタリストのみならず、一般市民が目の前の惨事を広く伝えるべく映画にし、それが貴重な記録映像となりました。また教育現場では、情操教育や協調性を育む目的で映画製作を取り入れる学校も増えています。映画で何ができるのか。この連載では単なる娯楽としてではない、映画の秘めたる力を探っていきたいと思います。記念すべき第1回は、7月13日・20日に開催された「こども映画教室@相馬2014」(福島こどものみらい映画祭主催)です。【取材・文:中山 治美】

福島・相馬で「こども映画教室」

 今夏、全国各地で子供のための映画ワークショップが盛んに行われている。講師を務めるのは、是枝裕和監督や諏訪敦彦監督ら映像の仕事に携わるプロたち。だが基本は、脚本作りから上映まで子供たちの自主性に委ねられている。同じチームになった初対面の子供たちが、わずか2、3日で「映画を作る」という1つの目的に向かって創造の翼を広げていく過程は“驚き”の宝庫だ。大人の方がむしろ、子供たちならではの発想と視点に刺激を受けることの方が多いという声を聞く。

こども映画教室
こども映画教室@相馬のスタッフ&メンバーたち(福島県相馬市にて)

 その活動の先駆け的存在と言えるのが、2004年から「金沢こども映画教室」(金沢コミュニティシネマなど主催)を開催している「こども映画教室」代表の土肥悦子。活動の輪は全国へ広まりをみせ、今回は監修という形で初めて福島・相馬へと赴いた。土肥が言う。「これまでは有料での自主参加で行ってきたが、今回は無料イベントで学校から誘われての参加者もあり、初日はモチベーションの違いに戸惑った。それが2日目になると自分たちで映画を完成させることに没頭し、子供たちの姿勢がガラリと変わり、非常に興味深い結果となりました」。

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“復興支援”という大人の大義名分

 通常のこども映画教室は、講師が提案したテーマに沿い、フィクションでもドキュメンタリーでも自由な発想で製作する。しかし今回は、さまざまな環境にいる子供たちをオーケストラ参加できるように支援を行っている一般社団法人エル・システマジャパンの協力で、「相馬子どもオーケストラ」のメンバーを、ドキュメンタリーで撮ることが決まっていた。テーマは「音楽の力」。そこには“復興支援”という大人の大義名分が存在することは否めない。参加した地元の小学校3~6年までの子供たち計19人も、与えられたテーマをなかなか理解できなかったようだ。いきなりオーケストラの練習会場に放り込まれても、何の為に、オーケストラの誰にカメラを向けたらいいのか分からない様子がありありとみて取れた。次第には集中力が途切れ、遊びはじめる子供もいた。「子供のやる気をどういう方向へ持っていくべきか」。初日終了時のスタッフミーティングでも、そんな反省点が話し合われた。

津波被害の残る原釜尾浜海浜公園にて

こども映画教室
子供たちのやる気スイッチはいきなり入るーこども映画教室

 だが1週間の時間を空けて開催された2日目。子供たちの「やる気スイッチ」が入った瞬間を、筆者は目の前で見た。この日は相馬子どもオーケストラに世界的指揮者のダニエル・マツカワが訪れ、こども映画教室の4班のうちの1班が密着取材を試みることになった。その過程でマツカワと共に、津波被害の残る原釜尾浜海浜公園を訪れた。海が目に飛び込んできた瞬間、あんな(小4)が叫んだ。「ここ知ってる!お爺ちゃんとよく来た!」。するとあんなは、それまで照れ臭くてなかなか話しかけられなかったマツカワに饒舌に、この地域の説明を語り始めた。撮影担当のたいき(小6)とひでき(小6)も、「あの海岸の先の津波被害がひどいから撮りたい」とカメラを持って走っていく。みく(小6)は「貝殻を使って、映画タイトルを作りたい」と貝殻や小さな花を見つけて拾い始めた。彼らにとっては海水浴を楽しんだ思い出の場所。震災以来、初めて訪れた子もおり、一気にテンションが高まったようだ。

こども映画教室
PCでの編集作業も本格的

 同時にこの出来事が、波紋を呼ぶことになってしまった。オーケストラの練習会場に残って撮影を続けていたあんなの妹はな(小3)が、高揚しながら海辺の話をするあんなを見て「貝殻を拾ってきたなんて。お姉ちゃんズルい」と泣き始めてしまったのだ。

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 聞けば、沿岸近くに住んでいた姉妹の祖父母の家は津波で流されてしまった。この辺りは、福島第一原発事故の放射能汚染の懸念もある。各家庭で判断が異なるが、姉妹の家では震災以降、その海岸に近寄ることも、貝殻を拾うことも禁止されていたという。講師を務めていた映像ディレクターの中井聖満が自戒を込めながら漏らした。「被災地に対して甘い認識があった」。土肥も「これが、相馬に暮らす子供たちの日常でなんだと思い知らされた。現地に行かなければ分からないことが多々あった」。

 気落ちするスタッフたちに反して、即座に前向きな行動を見せたのは子供たちの方だった。結局、貝殻は破棄することに。その代わりに、あんなは発想を切り替え、貝殻に模したデザインを取り入れた題字を鉛筆で描いた。その他の子供たちも、練習に励む同年代の子供たちの表情とオーケストラが奏でる演奏に魅せられるかのように、撮影に没頭していった。頭ではなく、心で「音楽の力」を掴んでいったようだ。土肥が言う。「公教育の中での映画ワークショップの推進を考えているが、やり方さえ間違えなければ可能なのではないか。やはり映画作りには、何らかのマジックが起こる」。

「福島こどものみらい映画祭2014」で初披露

こども映画教室
子供ディレクター誕生!

 彼らが製作した4本の短編映画は、10月11日に福島市にある教育文化複合施設「こむこむ」で開催される「福島こどものみらい映画祭2014」で初披露される。同映画祭は2009年にスタートし、震災直後の2011年には開催も危ぶまれた時もあったが「今やらないで、いつやる!?」と実行委員会メンバー一同が奮起して継続してきた歴史がある。事務局長の金間登志江が言う。「もともとは、子供の未来を考えようと大人が見るべき作品を上映する映画祭だった。でも震災が起こり、この映画祭のタイトルがもの凄く重く感じるようになりましたね。その一方で震災があって今まで福島は浜通り、中通り、会津地方と文化が大きく3つに分かれていたが、今回のように映画祭として初めて相馬に来ることができるなど、交流が増えた。これからは他地域とも協力して、子供たちの未来への手伝いが出来れば」。

 一括りに被災地と言っても、原発事故が尾を引く福島県の復興は見えない。ただ1つ言えるのは、今回作られた映画のには福島で生きる子供たちのイキイキとした瞬間が確実に記録されているはずであり、そしてこの子たちにも等しく未来があることを実感させてくれるだろう。

●こども映画教室
http://www.kodomoeiga.com

●一般社団法人エル・システマジャパン
http://www.elsistemajapan.org

●福島こどものみらい映画祭
http://www.mirai-cinema.jp

《第2回予告》
映画で哲学・倫理する!?
高知県立大学シネマフィロソフィア3.11の活動をレポートします。

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