間違いなしの神配信映画『ザ・ファイブ・ブラッズ』Netflix
神配信映画
今観ておきたい6選 連載第5回（全6回）
配信映画は、いまやオスカーほか賞レースの常連にもなっており世界中から注目されている。この記事では数多くの配信映画から、質の良いおススメ作品を独自の視点でセレクト。今回は今観ておきたい6選として、全6作品、毎日1作品のレビューをお送りする。
人種差別問題と埋蔵金探しという社会性とエンタメ性を併せ持つスパイク・リーの真骨頂
上映時間：155分
監督：スパイク・リー
キャスト：デルロイ・リンドー、ジョナサン・メジャース、クラーク・ピータースほか
奇しくもジョージ・フロイドさん死亡事件に端を発する「BLM（ブラック・ライヴズ・マター）」運動の盛り上がりの最中に配信がスタートしたスパイク・リー監督の映画『ザ・ファイブ・ブラッズ』。徴兵を拒否する伝説のボクサーモハメド・アリのインタビュー映像で幕を開ける本作は、「多くの黒人がベトナム戦争に従軍していたにもかかわらず、彼らを中心に描いた映画がない」という監督の問題意識のもと、生まれた映画であるという。しかし、過剰に身構える必要はないだろう。なぜなら本作は、スパイク・リーならではの多彩な映画的技巧とユーモアが盛り込まれた「娯楽大作」となっているのだから。
物語は現在のベトナム、ホーチミンからスタートする。ベトナム帰還兵であり、いまや老境に差し掛かろうとしているポール（デルロイ・リンドー）ら4人の黒人男性が、数十年ぶりにベトナムの地を訪れる。彼らの目的は、かの地で戦死したノーマン隊長（チャドウィック・ボーズマン）の遺骨の回収と、埋められた金塊を探すこと。埋められた金塊？ そう、彼らは山奥に墜落した輸送機に積まれていた金塊を、上層部に報告することなく現地に埋め、ほとぼりが冷めるのを数十年もの間待っていたのだ。
そんな父親ポールの身を案じると同時に、そこに「秘密」の匂いを嗅ぎつけた息子デヴィッド（その後、ドラマ「ラヴクラフトカントリー 恐怖の旅路」で主役を演じることになるジョナサン・メジャースが好演している）が合流し、総勢「5人」となった一行は、その「目的」を達成すべく、『地獄の黙示録』（1979）さながら、川を上って森の奥深くへと分け入っていくのだった。
本作が面白いのは、全体のちょうど半分のところで、物語がその様相を大きく変えていくところにあるだろう。ベトナム戦争の凄惨な記憶と、彼らを導くメンター（よき助言者、指導者）でもあったノーマン隊長の雄姿。それらのフラッシュバックを随所に挟みながら（しかし、彼ら4人の姿は、なぜか現在と変わらない。これは回想ではなく幻想なのだろうか？）も、基本的には和やかなムードの中で進んでいく前半部の旅路。お互いの近況を語り合いながら、かつての「戦友」とはいえ、現在の状況や思想はさまざまであることも知る（なんとポールはトランプ支持者になっていた！）。
しかし、そこから物語は、予想外の方向に転がり始める。彼らしか知らないはずの埋蔵金を奪おうと、謎の勢力が襲い掛かってくるのだ。ホーチミンで金塊の現金化を請け負った謎のフランス人（ジャン・レノ）が関係しているのだろうか。そもそも彼を紹介したのは誰だったか。仲間内で広がる疑心暗鬼。
「埋蔵金探し」と諸勢力によるその「奪い合い」という、王道かつエンターテインメント性の高い展開で、観る者の心を激しく沸き立たせる後半部。冒頭のモハメド・アリをはじめ、随所に挿入されるニュース映像や歴史的な人物・出来事など、本作で参照されるブラック・カルチャーは、実に膨大なものとなっている。
けれども、それがBLMに通ずるような、変わらない現状に対する「いら立ち」や「告発」に終わることなく、何重にもツイストしていく後半部の展開と相まって、個別に異なる立場や状況の中で選び取る、それぞれの「意志」と「選択」の問題へと昇華していく点が、本作の何よりも秀逸なところなのだ。そのキーワードは「愛」。そう、本作の中で繰り返し流されるソウル・R＆B歌手マーヴィン・ゲイの名曲「ホワッツ・ゴーイン・オン」の歌詞のように。いわゆる「社会派」である以上に、あくまでも「娯楽大作」という形を取りながら、観る者の心に普遍的で確かな「メッセージ」を刻みつける『ザ・ファイブ・ブラッズ』。スパイク・リー監督の面目躍如ともいえる一作だ。（文・麦倉正樹、編集協力・今祥枝）
