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間違いなしの神配信映画『あの夜、マイアミで』Amazon Prime Video

神配信映画

今観ておきたい6選 連載第3回(全6回)

 配信映画は、いまやオスカーほか賞レースの常連にもなっており世界中から注目されている。この記事では数多くの配信映画から、質の良いおススメ作品を独自の視点でセレクト。今回は今観ておきたい6選として、全6作品、毎日1作品のレビューをお送りする。

黒人レジェンド4人の伝説の一夜を通し根深く残る人種差別問題を描く

あの夜、マイアミで
『あの夜、マイアミで』はAmazon Prime Videoにて配信中

『あの夜、マイアミで』Amazon Prime Video

上映時間:114分

監督:レジーナ・キング

キャスト:キングズリー・ベン=アディルイーライ・ゴリーオルディス・ホッジほか

 伝説のボクサー・モハメド・アリ、伝説のアメフト選手・ジム・ブラウン、伝説のミュージシャン・サム・クック、そして伝説となった黒人解放指導者・マルコムX。アフリカ系アメリカ人の誇りであり、友人でもある4人が、モハメド・アリ(当時の名はカシアス・クレイ)が、世界チャンピオンとなった1964年2月の夜、マイアミの「ハンプトン・ハウス・モーテル」に集まった。それぞれに人生の転機を迎えることになる、この一夜は、伝説中の伝説といえる時間となった。そんな史実を基にした映画が、『あの夜、マイアミで』だ。

 本作が描くテーマは、近年盛んになっている「BLM(ブラック・ライヴズ・マター)」運動にも関係するものともなっている。ここでは、現在の社会ともつながりを見せる本作をさらに楽しめるように、作品の背景や映画作品としての魅力を紹介していきたい。

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あの夜、マイアミで
『あの夜、マイアミで』はAmazon Prime Videoにて配信中

 この原作となった戯曲を書いたのは、ディズニー&ピクサー作品『ソウルフル・ワールド』(2020)の監督として名を連ねたケンプ・パワーズ。『あの夜、マイアミで』は、劇作家でもあるパワーズの最初の上演作となった舞台作品が基になっているのだ。

 本作の監督レジーナ・キングは、『ビール・ストリートの恋人たち』(2018)で、犯罪者として逮捕された無実の息子を救うために奮闘する母親の役で、アカデミー賞助演女優賞を獲得した、優れた俳優でもある。以前からテレビドラマの演出やドキュメンタリー を手がけていて、本作が長編映画初監督となる。その手腕は、キングズリー・ベン=アディル、イーライ・ゴリー、オルディス・ホッジ、レスリー・オドム・Jrら俳優たちののびのびした演技から感じることができる。偉大な存在とはいえ、まだまだ若い4人は、しばしば子どもっぽい一面を見せる。彼らを聖人ではなく、生きた人間として描いたことで、本作の人間ドラマは、より共感できるものとなっている

あの夜、マイアミで
『あの夜、マイアミで』はAmazon Prime Videoにて配信中

 映像の美しさにも注目したい。『ビール・ストリートの恋人たち』や『ムーンライト』(2016)の監督バリー・ジェンキンズは、アフリカ系のキャストの肌の色を美しく見せる色調が長年アメリカ映画で見られなかったと主張し、自作ではその不満を払拭するような映像美を完成させている。本作もまた、色調や陰影によってキャストが映える映像が実現されているといえよう。本作でカメラを担当しているのは、『オールド・ガード』(2020)を手がけた女性の撮影監督タミ・レイカーである。男性たちの物語が女性たちによって撮られているのも、本作の特徴の一つだ。

 舞台となっているハンプトン・ハウス・モーテルは、フロリダ州マイアミのマルコムXが滞在した宿でもある。セレブの4人が過ごすには似つかわしくないが、そこにマルコムが滞在するのには理由がある。彼は黒人解放運動を進める活動家として急進的な言動で知られ、いつでも身の危険を感じていた。彼にとってアフリカ系の人々が暮らす地区に宿泊するのは、身を守る一つの手段でもあるのだ。キリスト教を奴隷主から押しつけられる宗教とみなして拒否する彼は、宗教団体「ネイション・オブ・イスラム」でも活動しており、若い信者を護衛として連れている。モーテルの前で彼らがものものしく見張りをする姿は異様である。

あの夜、マイアミで
『あの夜、マイアミで』はAmazon Prime Videoにて配信中

 高級ホテルに泊まっていたサム・クックはモーテルの部屋のみすぼらしさについて文句を言い始めるが、「君のホテルの部屋は白人に予約してもらったんだろう?」とマルコムに切り返されてしまう。当時マイアミ州や南部の州は、「ジム・クロウ法」という人種隔離政策が、ちょうどこの年まで施行されていた。冒頭でジム・ブラウンがひどい差別を受けたシーンが示すように、アメリカでどれだけ多大な功績を打ち立てようが、どれほどリッチだろうが、一部の地域で彼らは同じ人間としての扱いを受けられない場合があった。セレブといえる彼らでさえそうなのだから、一般的なアフリカ系の人種がどのような扱いを受けていたのかは想像に難くない(日本人の多くを占める黄色人種も黒人同様「有色人種」に分類され、白人と区別されていた)。

 そんな差別が、この時代まで州法によって守られていたのである。1964年など、つい最近のことだ。この法律は、その年に撤廃されたものの、人種差別自体はアメリカの至るところでくすぶり続けている。BLM運動が立ち上がる理由となる、警官による黒人への暴力事件は、いまも深刻な社会問題となっている。

あの夜、マイアミで
『あの夜、マイアミで』はAmazon Prime Videoにて配信中

 このように、安心できない社会をともに生きている4人だったが、本作ではただ仲良しとして描かれるわけではない。彼らはそれぞれに微妙な方針の違いがあり、ときに言い合いに発展することもある。マルコムは他の3人にも急進的であるように望み、とくにサムに対しては、発信する力がありながら黒人の解放運動についての情熱が足りないと説教してしまう。だが、サムは白人の経営者に雇われるだけだった黒人ミュージシャンの枠を飛び越え、経営側にまわることで正当な利益を手にする前例となるなど、自分のフィールドでできる限りのことをやっていると反論する。方法は異なっても、彼らはそれぞれに差別問題や権利の獲得について深刻に考えて行動しているのだ。

 彼らの言い合いは、BLMで議論されてきたこととも関連する。差別を受ける側がどの程度の強さで、そしてどのような方法で自分たちの境遇に反対すればいいのか。その感覚が各人で異なることによって、アフリカ系同士でも分断が生まれてしまうのだ。

 本作は、そんな分断について譲歩による融和を描いていく。やり方が異なったとしても、差別を乗り越えるという目的と倫理観を持って進み続ける限り、お互いを尊敬し、意思を尊重し合うべきではないのか。そして、ときには意見を交わし刺激を与え合い、影響を受ける部分があっていいのではないか。本作『あの夜、マイアミで』は、実在の4人のキャラクターを物語に活かしながら、現代に生きるわれわれ観客により良く変わり続けることの重要性を気づかせてくれるのである。(文・小野寺系、編集協力・今祥枝)

『あの夜、マイアミで』はAmazon Prime Videoにて配信中

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