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ぐるっと!世界の映画祭

東京国際映画祭と共催を選んだ東京フィルメックスの目的とは

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【第93回】(日本)

 日本の大手映画会社がコーポレートパートナーとして携わっている東京国際映画祭(以下、TIFF)と、それに対抗する形でアジアのインディペンデント作品をフィーチャーし、2000年に誕生した映画祭「東京フィルメックス」(以下、フィルメックス)。その2つの映画祭がまさかの手を結び、フィルメックスはTIFFとの共催となった。その目的と変化は? 第21回(10月30日~11月7日)について市山尚三ディレクターに聞いた。(取材・文:中山治美、写真:東京フィルメックス)

オープニング作品『愛のまなざし』
オープニング作品『愛のまなざし』の舞台あいさつを行った(写真左から)片桐はいり、中村ゆり、中村トオル、杉野希妃、万田邦敏監督(東京・有楽町の朝日ホール)。

東京フィルメックスの公式サイトはこちら>>

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TIFF共催のメリットとデメリット

特別招待作品『平静』のQ&A
特別招待作品『平静』のQ&A。司会の市山尚三さんと出演者の女優・渡辺真起子がいる東京・六本木のスタジオと、ソン・ファン監督(写真中央)のいる中国をネットでつなぎ、東京・有楽町の朝日ホールのスクリーンにその模様が映された。

 TIFFとフィルメックスの提携は2020年8月に発表された。2019年にTIFFのチェアマンに就任した国際交流基金理事長(当時)の安藤裕康氏からの提案で、目的は映画界の連帯強化。フィルメックスを、カンヌ国際映画祭の併設部門としてフランス監督協会が独立性を持って主催している「監督週間」のような位置付けととらえて「共催」とした。フィルメックスも映画関係者の評価は高かったが、スタート時からの主力スポンサーだったオフィス北野が2018年に撤退し、それを引き継ぐ形で特別協賛となった木下グループもわずか1年で手を引くなど屋台骨がぐらついていた。フィルメックスにとってもTIFFのサポートは渡りに船だったとも言える。同時に市山ディレクターは作品選定コミッティメンバーとして、TIFFにも携わった。

市山尚三
東京国際映画祭との共同開催を「やってよかった」と語る東京フィルメックス市山尚三ディレクター。

 共催のメリットは大きく2つあるという。1つは人材の交流だ。

 「TIFFのゲストと、フィルメックスに参加している若手監督や、タレンツ・トーキョー(フィルメックスの関連事業である映像人材育成プロジェクト)の参加者が交流し、さまざまなネットワークを構築できること。若手はなかなか海外セールス会社などと知り合う機会がないのでできるだけタレンツ・トーキョーの講師陣をそうした方々にお願いしているのですが、そう何人も招聘(しょうへい)できません。何せノウハウはあるけど、予算がないという映画祭なもので(苦笑)。一方でTIFFやTIFFCOM(TIFFのマーケット部門)では世界中から多くの業界関係者が参加しているのですが、その方たちと若手監督をつなげる人がいないので、わたしが入ることで紹介することができると思っています。ただ今年はタレンツ・トーキョーもTIFFCOMもオンライン開催になってしまったので形として見えることはありませんでしたが、リアルに開催ができるようになったときには効果が表れるのではないかと思っています」(市山ディレクター)

感染予防対策で前列2列を空けて行われた『水俣曼荼羅』
特別招待作品の原一男監督『水俣曼荼羅』のQ&Aはコロナウイルス感染予防対策で前列2列を空けて行われた。(東京・有楽町のTOHOシネマズシャンテ)

 もう1つが認知度のアップ。TIFFと共催となったことで今まで取り上げられることのなかったメジャー媒体でもニュースが報じられたという。

授賞式
授賞式で賞状を受け取った(前列左から)池田暁監督、春本雄二郎監督。後方は審査員の(写真左から)万田邦敏監督、映画評論家・クリス・フジワラ、同トム・メス、プロデューサーのエリック・ニアリ、アンスティチュ・フランセ日本 映画プログラム主任・坂本安美。(東京・有楽町の朝日ホール)

 「これは目に見える形で表れたメリットで、SNSでTIFFは知っていたけどフィルメックスを初めて知ったという方もいました。コアじゃない、ライトな映画ファンにも届いた。海外でも、TIFFのように国際映画製作者連盟(FIAPF)公認映画祭は渡航費などの助成支援の対象となる国もあり政府関係者にも知られていますが、フィルメックスを知らないという人もいます。ある種の認知度につながったのではないかと思っています」(市山ディレクター)

万田邦敏監督
コンペティション審査員長の万田邦敏監督。

 デメリットはTIFFと同時期開催(TIFFは10月31日~11月9日)となったことで、映画ファンやメディアから掛け持ちは無理と多数の声が寄せられたことだ。一応、TIFF側と協議し、人気の高いアジアの巨匠作品の上映スケジュールが重ならないよう配慮はしていたという。

 「それは本当に申し訳なく思っています。ただ今回、コロナウイルス感染予防を考慮して会場に来られない方、上映スケジュールが重なって観られないという方の不満解消のために開催後のオンライン配信を実施しました。1,000人ぐらいの視聴者を予想していたところ、それを上回る1,413人の方にご利用いただいた。やってよかったと思っています」(市山ディレクター)

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コロナ禍の影響は?

デニス・ホー:ビカミング・ザ・ソング
中国・香港での公開はおそらく不可能な『デニス・ホー:ビカミング・ザ・ソング』を特別招待作品として上映した。

 今年のフィルメックスの上映本数は30作品(前年は31作品)。メインの東京・有楽町朝日ホールが新型コロナウイルス感染予防対策で客席数を減らしての上映だったこともあり、劇場観客動員は前年より2,526人減の9,303人。オンラインやタレンツ・トーキョーなどのサイドイベントの入場者数を含めると1万204人(前年は1万2,290人)で、コロナ禍の影響が大きかったことがうかがえる。

死ぬ間際
最優秀作品賞を受賞したヒラル・バイダロフ監督『死ぬ間際』(アゼルバイジャン・メキシコ・アメリカ)。

 「それでもオンライン配信を事前に告知していたのにもかかわらず、激減したというわけではない。劇場で映画を観たいという人は、足を運んで下さるのだということを確信しました」(市山ディレクター)

はリモートで参加したヒラル・バイダロフ監督
最優秀作品賞受賞したヒラル・バイダロフ監督はリモートで参加。

 感染予防対策で新たに導入したシステムが話題を呼んだ。上映後のゲストとのQ&Aセッションの際、スクリーンに映し出されたQRコードからアクセスしてもらい、サイトから観客の質問を受け付けたことだ。これは会場での飛沫防止だけでなく、マイクランナーが会場内を走り回って質問者にマイクを渡す時間を削減する目的もあった。

 「QRコードを使った質問の受付は、今年の釜山国際映画祭でも導入していたようです。マイクを受け渡す時間を省けるのと、受けた質問を簡略化してゲストに伝えることができるのでQ&Aセッションのクオリティーを高めることもでき、思わぬ好評を得ました」(市山ディレクター)

ジョニー・トー監督
観客賞を受賞した『七人学隊』のジョニー・トー監督は、受賞の喜びをビデオメッセージで寄せた。

 フィルメックスではQRコードを活用した観客賞の投票を3年前から導入しており、これと同じシステムをQ&Aで応用したという。QRコードにアクセスしない人、できない人も当然おり、その分、紙での投票より投票総数が減ってしまうことは否めない。しかしこれにはスタッフの労力の削減、さらにはコロナ禍での密を避けるためにもスタッフの人員を減らさなければならない状況を鑑みての対応だったという。

QRコードを使ったQ&A
QRコードを使ったQ&Aや、観客賞の投票が好評だった。

 「QRコードを導入した理由の1つは、投票用紙を配る人と集計する人の両方で人員を確保しなければならず、人手が大変。しかも結構なハードワークで、事務局の片隅で、せっかくボランティアで応募してくれた方々に単純作業をさせるのは申し訳なく思っていました。そうしたことも考えて導入しましたが、結果的に非接触というコロナ対策に有効な手段となりました」(市山ディレクター)

 一方で新たな予算増となったのがリモートでの舞台あいさつ。上映会場の有楽町朝日ホールやTOHOシネマズシャンテは建物の構造上、通信システムが最適ではなかったため、MCを務める市山ディレクターら日本のゲストは六本木にあるスタジオから中継。そのスタジオと海外のゲストを結んだ配信画像を、上映会場に映し出していたという。

 「リモート舞台あいさつのために六本木と有楽町を1日に2回も3回も移動するのは大変でしたが、舞台あいさつのクオリティーは保たれた。『ハイファの夜』のアモス・ギタイ監督の舞台あいさつのときには、わたしが六本木に移動する時間がなく、朝日ホールの控室から配信を行ったところ、わたしの映像がストップし、フランスのギタイ監督の映像はスムーズに流れていたということがありましたからね(苦笑)。次回はリモートになるかどうかわかりませんが、これができたおかげで他の映画祭や撮影でフィルメックスに参加できないゲストに、リモート参加をお願いできるノウハウができた。スタジオ代はかかりますけど、トラブルなく進めることの方が大事ですから」(市山ディレクター)

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改めて考える映画祭を開催する意義

きまじめ楽隊
審査員特別賞を受賞した池田暁監督『きまじめ楽隊』(2021年3月26日公開)。(C)2020「きまじめ楽隊のぼんやり戦争」フィルムプロジェクト

 新型コロナウイルスの猛威はさらに広まり、2021年も引き続き映画祭はオンラインか延期か? に揺れそうだ。市山ディレクターは最悪オンラインでも映画祭を続けるべきと力説する。

由宇子の天秤
学生審査員賞を受賞した春本雄二郎監督『由宇子の天秤』(2021年公開)。(C)2020 映画工房春組

 「映画館も休業を余儀なくされている今、たとえオンラインでも映画祭でなければ紹介されない映画があります。今回のオンライン配信で視聴回数ベスト3は、ツァイ・ミンリャン監督『日子』(特別招待作品)、コー・チェンニエン監督『無聲(むせい)』(コンペティション)、ヒラル・バイダロフ監督『死ぬ間際』(コンペティション)です。『死ぬ間際』は最優秀作品賞を受賞しましたが、賞をとってなければアゼルバイジャンの監督の作品を観ようという人はまずいないでしょう。また(香港の民主化運動を支持する歌手を追った)『デニス・ホー:ビカミング・ザ・ソング』は香港や中国での劇場公開が決まらず、上映の場を探していた。これらこそ映画祭を必要としている映画であり、それらを紹介する場として映画祭は必要だと思います」(市山ディレクター)

七人楽隊
観客賞に輝いたのはジョニー・トーら香港の7人の監督たちによるオムニバス映画『七人楽隊』。

 幸いオンラインでの映画祭開催が続き、海外セールス会社が劇場公開前に配信されることへの抵抗がなくなってきているという。

 「まだアジアの作品は違法ダウンロードなどを恐れて配信の許可は得られませんでしたが、海外セールス会社が欧州の場合、今回はすべてOKとなりました。今回はカンヌ国際映画祭のマルシェ・デュ・フィルム(映画マーケット)と同じニュージーランドの動画配信プラットフォーム「シフト72」を利用し、映画業界での信頼を得ているのでそこを使うならいいと快諾してくれました。劇場収入が見込めない今、わずかでも配信料も入りますから」(市山ディレクター)

池田暁監督
『きまじめ楽隊のぼんやり戦争』が審査員特別賞を受賞した池田暁監督。

 ただやはりリアルでの開催の重要性も実感するという。

春本雄二郎監督
『由宇子の天秤』が学生審査員賞を受賞した春本雄二郎監督。

 「映画祭は人が集まる場所であることを考えると、ゲストと観客が集えるのがベストです。今回タレンツ・トーキョーもリモートで開催し、Zoomでの飲み会も開催しましたが、それ以上の効果は得られない。やはりリアルな交流の場がほしいですね」(市山ディレクター)

山本英監督
『熱のあとに』でNew Director Awardを受賞した山本英監督。

 2020年の問題点を改善しながら、2021年も引き続きTIFFとの共催を継続する予定だという。

 受賞結果は以下の通り。

【最優秀作品賞】
ヒラル・バイダロフ監督『死ぬ間際』(アゼルバイジャン、メキシコ、アメリカ)

【審査員特別賞】
池田暁監督『きまじめ楽隊のぼんやり戦争』(日本)

【観客賞】
アン・ホイジョニー・トーツイ・ハークサモハンユエン・ウーピンリンゴ・ラムパトリック・タム監督『七人楽隊』(香港)

【学生審査員賞】
春本雄二郎監督『由宇子の天秤』(日本)

【New Director Award】
山本英監督『熱のあとに』(日本)

【New Director Award審査員特別賞】
金子由里奈監督『まどろむ土(仮)』(日本)

【タレンツ・トーキョー・アワード2020】
チア・チーサム『Oasis of Now』(マレーシア)

【タレンツ・トーキョー2020スペシャル・メンション】
ネリシア・ロー『Pierce』(シンガポール)
北川未来『KANAKO』(日本)

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