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『MOTHER マザー』長澤まさみ&大森立嗣監督単独インタビュー 世の中から「NO」を突きつけられた人を見つめたい

長澤まさみ&大森立嗣監督

 今年で女優デビューから20年になる長澤まさみが、実話をベースに社会から見放された母子を描いた映画『MOTHER マザー』で主演。実の息子に執着し、依存するシングルマザーという難役に挑んだ。監督は、『さよなら渓谷』『日日是好日』などの大森立嗣。本作で初タッグを組んだ2人の対談では、言葉の端々からセンセーショナルな映画であることが伝わってくる。

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冒頭シーンは、どこか異様な感触

長澤まさみ

Q:ファーストシーンから放たれるヤバい空気感に、ググッと惹きつけられました。

大森立嗣(以下、監督):一見、親子の何気ない風景のようでどこか異様ですよね。初っ端(しょっぱな)からその感触を出そうと、意識しました。まず、自転車に乗った秋子は、坂を歩いていた息子の周平を抜き去り、自分を追いかけさせる。かと思えば膝のケガを見つけ、傷口をぺろりと舐める。秋子という母親はごく自然に、そういうことをしちゃう人なんです。

長澤まさみ(以下、長澤):傷口を舐めるところは神経に障るというか、「気持ち悪く見えたらいいな」と思いながらやりました。2人が普通の親子ではないことを示していて、秋子が秘めているものをひときわ喚起させるシーンでもありますよね。ただ、だからといって感情を込めすぎるのもおかしく、バランスがとても難しかったです。

監督:あれはどうしようもない“秋子性”みたいなものが、彼女から浮き上がってくる最初の瞬間。

長澤:そうですね。ただ、演じる上でその“秋子性”をハッキリと掴めた感覚は一度もないんです。自分とはあまりに遠く、撮影中も「どう捉えたらよいのか」という課題が常について回りました。

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何が秋子をそうさせてしまったのか

マザー

Q:では、撮影現場では何を拠りどころにし、演じられたんですか?

長澤:監督の言葉や、共演者の皆さんと一緒にいるときに心の中に湧き出てくる、その場その場で生まれる気持ちでしょうか。それを大切にしていきました。

監督:特に今回の場合、役柄には同化できないですからね。僕は、長澤さんにしかできない秋子を撮りたかったんです。

Q:周平は秋子にとって、息子であるのと同時に依存してしまう「一人の男」にも見えます。

長澤:それは、監督やプロデューサーさんに言われて気づかされたのですが、わたしの中では「男女の性差があれば必ず生まれる構図」なのかなと。一般的に母親は息子に甘くなってしまいがちだし、父親の方は娘にそうなるじゃないですか。だから、さして特別なことではない。ところが秋子と周平だと、異様に感じられるのがこの作品の面白さなのかなと。

監督:二人目の子供ができた秋子は、妊娠していることを、周平を使って実家の母親に伝えさせる。すると相変わらず、つれない反応が返ってくる。すがるのが周平しかいないのも特異な状況ですが、木野花さん演じるその老いた母親との関係にも、歪(いびつ)さは表れていますよね。

長澤:周平が生まれる前から秋子の人格は出来上がっていて、「何が彼女をそうさせてしまったのか」ということが、一番の問題なのだと思います。

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息子役・奥平大兼に本気のビンタ

大森立嗣

Q:後半、周平にビンタをするシーンでは、ひどい女ではあるけれども、単なる毒母に収まらない秋子のバックボーンが少しうかがえました。

長澤:あそこはきっと一発撮りで終わってしまう予感がしたので、とにかく自分の中で集中力を高めて臨んだのですが、その分、周平役の奥平(大兼)くんのことを全然顧みられず、申し訳なかったです。奥平くんはお芝居をするのも初めてで、加えていきなり本気のビンタですから。すごく驚いていましたけど、でもどの場面も彼が素直に反応してくれて本当にありがたかった。お互いが目の前の感情に一つ一つ、向き合うことに必死だった結果、完成作はパッションに満ちた、熱を帯びたシーンの連なりになった気がします。

マザー

Q:ところで、大森組は初参加でしたが、いかがでしたか?

長澤:速いです! どんどん撮影が先に進んでしまうんです。

監督:すぐに本番へ行きたくなっちゃうんですよね。

長澤:それ自体は全く問題ないのですが、当初はすごく遠慮していて、自分の中で腑に落ちていない疑問点があっても、ちゃんと監督に伝えられなかったんです。それではダメだと思い、段々と喰らいついていけるようになりました。方向性が監督と共有できたら、絶対にいい作品になると思ったので。

監督:最初の1週間くらいはやりにくそうでしたよね(笑)。遠慮せずに喋りだしてからは、すぐに大丈夫になった。よく言われるんですよ、僕。「現場で何も言ってくれない」って。俳優さんたちはみんな、不安になっちゃうみたいです。

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長澤まさみがラストで見せる壮絶な顔

長澤まさみ

Q:さて本作は、秋子の、そして長澤さんの「顔」の映画でもありますね。

監督:ええ。がっつりアップを狙ったところがいくつかあり、いいシーンになってOKを出したあと、ほくそ笑んでいました。やっぱり簡単に言葉に変換できない表情を撮れたときは嬉しいですね。秋子の顔の変遷はこの映画の大きな要素で、ラストシーンはスケジュール的にも一番最後。僕が言うのも何だけど、どうしてあんな壮絶な顔に辿り着いたんだろうね。

長澤:わかりません(笑)。秋子は自分がどういう状況に置かれているか気にしていなくて、素直に日々を生きているだけだと思うんです。現在もこれからも同じくずっと、快楽的に生活を続けることしか考えていないのではないかと。

監督:すごかったなあ。女優ってやっぱり怖い(笑)。いや、演出でお願いしなくても、あの顔に到達してしまうんですから。映画を撮影していく中で、長澤さんがどんどん変化していく姿を一番近くで目撃できてよかった!

Q:改めて今、秋子ってどんな人物だと思われますか?

長澤:可哀想な人……ですかね。でもおそらく、「可哀想」なんて言葉をかけたらその言葉にかこつけて、悪いことをしそう(笑)。そういう人なのではないでしょうか秋子は。子供みたいに気ままで、相手の意のままには動かない。けれども時に魅力的に見えたりするから不思議です。わたしは、秋子のことを好きにはなれませんでしたが、絶対的に人を惹きつける人だと思います。

監督:それともう一つ言えるのは、どうやら息子の周平を自分の分身と捉えているようで、驚くべき執着心があるよね。僕は世の中から「NO」を突きつけられ、弾き出された人を、映画でもう一度見つめてみたいんです。答えは出ないかもしれないけど、その人のことを考えたり、物事を多角的に眺めていくことはとても大事だと考えています。

マザー

 秋子とは一体、何者なのか? 長澤まさみは言った。「映画が明示していない、余白のところでいろいろと想像させる人物なんですよね」その余白の部分までをも彼女は引き受け、観る者を刺激するようなパフォーマンスを本作で見せる。女優生活20年。その「無双ぶり」に圧倒された。

取材・文:轟夕起夫 写真:中村嘉昭
(C)2020「MOTHER」製作委員会
映画『MOTHER マザー』は7月3日より全国公開
オフィシャルサイト>>

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