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スターの靴職人サルヴァトーレ・フェラガモが遺したスタイル

映画に見る憧れのブランド

 顧客の脚を触るだけで、その人の性格まであてたと言われるサルヴァトーレ・フェラガモ。彼の作る靴は、その心地よさ、美しさと革新性でマレーネ・ディートリッヒグレタ・ガルボオードリー・ヘプバーンマリリン・モンローマドンナなど世界中のセレブを夢中にさせました。そんなスターの靴職人と呼ばれた彼が後世に遺したスタイルを、映画からご紹介しましょう。(※1 p.33)。

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カウボーイ・ブーツから始まったフェラガモ

サルヴァトーレ・フェラガモ
Alex Tai / SOPA Images / LightRocket via Getty Images

 1898年、南イタリアの14人兄弟の11番目として生まれたサルヴァトーレは貧しく、小学校3年生までしか学校へ通えませんでした。しかし、9歳で靴作りに目覚めた彼は、地元とナポリの靴職人のもとで修行。その後、11歳にして地元で靴屋を開業し、自分より年上の助手を6人も抱えるほどの職人に成長しました。

サルヴァトーレ・フェラガモ
サルヴァトーレ・フェラガモ本人。Mondadori via Getty Images

 16歳の時、渡米していた兄たちの後を追いカリフォルニアに渡った彼は、自分の靴店をサンタバーバラに開きます。ちょうど兄の1人が映画会社に勤務していたことから、ジェームズ・クルーズ監督の『幌馬車』(1923)でカウボーイ・ブーツを制作することに。彼の仕事は認められ、1923年にハリウッドへ店を移転させハリウッド・ブーツ・ショップとしてリニューアルオープンします。以後、撮影所から大量の仕事が発注されるようになりました(※2 p201)。

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画期的だったフレンチ・トゥとステージ・トゥ

サルヴァトーレ・フェラガモ
元祖フレンチ・トゥ。David Lees / Corbis / VCG via Getty Images

 撮影所が要求する多様な靴のデザインはサルヴァトーレの創造性を刺激し、ファッション史上様々なスタイルの靴が生まれました。まず、向上心の高い彼は大学で人体構造学を勉強した後、1925年に体重は土踏まずのアーチに垂直にかかるという事実を発見し、画期的な靴型を開発(※4)。当時、尖った靴先のシューズしかなかったところへ、靴先の丸いフレンチ・トゥ(※2 p.201)を発表してハリウッドスターたちを虜にしました。

 また、かかとから爪先まで1枚の板で作られたステージ・トゥ(※2 p.201)も開発し大人気に。ステージで踊りやすいようにと制作されたステージ・トゥは、伝説のF1レーサー、ニキ・ラウダジェームス・ハントのタイトル争いを映画化したロン・ハワード監督作『ラッシュ/プライドと友情』(2013)にも登場。ニキ(ダニエル・ブリュール)の恋人を演じるアレクサンドラ・マリア・ララがヒッチハイクするシーンで着用している靴がそうです。このステージ・トゥはホワイトのホルターネックのドレスとセクシーにコーデされていますが、確かにパンプスの女性らしさを保ちながらも、より安定感を可能にした靴と言えます。

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サテン地に刺繍のついたビジュー・ヒール

サルヴァトーレ・フェラガモ
『エバー・アフター』で登場したビジュー・ヒール。Jeremy Bembaron / Sygma / Sygma via Getty Images

 サルヴァトーレの顧客には、1920年代の無声映画の黎明期の映画監督D・W・グリフィスセシル・B・デミルチャーリー・チャップリンルドルフ・ヴァレンティノなど、業界人が大勢いました。そんな顧客の中に無声映画のヒロインとして地位を築いたリリアン・ギッシュもおり、彼女のために刺繍が入った靴を制作。サテンやシルクに刺繍とビジューがヒールにまで縫い付けられた靴は、1920年代に流行し、1950年代にカムバックするなど、靴の歴史に定着したスタイルになりました。

サルヴァトーレ・フェラガモ
『エバー・アフター』より。20th Century-Fox / Photofest / ゲッティ イメージズ

 魔法もカボチャの馬車も出現しない、現代的で強いシンデレラをドリュー・バリモアが演じたアンディ・テナント監督作『エバー・アフター』(1998)に登場するガラスの靴はフェラガモ製。サテンに細かな刺繍や小さなビジューが縫い付けられており、サルヴァトーレが過去に流行させたビジュー・ヒールを彷彿とさせます。

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考古学的発見から生まれたサンダル

サルヴァトーレ・フェラガモ
『十戒』より。Paramount / Photofest / ゲッティ イメージズ

 ハリウッドで活躍した後、1927年にイタリアへ戻り、紆余曲折を経て、現在もフェラガモ本店として残るスピーニ・フェローニ宮殿に工房を構えたサルヴァトーレ。1920年代はエジプトで考古学的な発見が相次いで起こり、それにインスパイアされた彼は1923年のセシル・B・デミル監督作『十戒』(1956)で初めてサンダルを制作しました。実はこの時代、サンダルという言葉さえ使われておらず、足を隠すのが常識だと考えられていたのですが、サルヴァトーレのサンダルは大流行し、世界中に普及しました。(※5)。

サルヴァトーレ・フェラガモ
『オーストラリア』より。20th Century Fox / Photofest / ゲッティ イメージズ

 1930年代から40年代に彼が作った14,000足の靴の記録から特別にあつらえられたのが、バズ・ラーマン監督作『オーストラリア』(2008)でニコール・キッドマンが着用する靴と手袋。第二次世界大戦直前のオーストラリアを舞台に、ニコールが演じる英国貴族とヒュー・ジャックマンが演じるカウボーイが織りなすスペクタルロマンです。ニコールとヒューが舞踏会で踊るロマンチックなシーンで、美しい赤のチャイナドレス風の衣装にニコールが履いていたのが、フェラガモの赤いベルベットのサンダルなのです。(※3)。

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革命を起こしたウェッジ・ヒール

 同じ1930年代から40年代のイタリアは独裁政権下やエチオピア戦争、第二次世界大戦前の大不況下にありました。ところが、不足する原料は反対にサルヴァトーレの想像力を刺激し、ガラス、鏡、木、セロファンなど、あらゆるマテリアルを使った先進的な靴を次々と考案しました。

 なかでも、靴の補強に使っていたスチールの不足は、ヒールが壊れてしまうことから、サルヴァトーレは1942年にコルクのウェッジ・ヒールを発明(※4)。これは第二次世界大戦中にファッションの最先端となり、世界中でコピー製品が作られました(※2 p.211-213)。ヒールの高さと歩きやすさを両立するウェッジ・ヒールは、戦時下ではぴったりだったのでしょう。

折り返しアンクル・ブーツ

サルヴァトーレ・フェラガモ
元祖アンクル・ブーツ。David Lees / Corbis / VCG via Getty Images

 1950年代は、20年代から30年代に大流行していた毛皮やベルベットの襟が再びブームになっており、サルヴァトーレはこのファッションに合わせて、履き口に折り返しがついたスウェードのアンクル・ブーツを発表し一世を風靡(ふうび)しました。

 1952年のニューヨークを舞台にしたトッド・ヘインズ監督映画『キャロル』(2016)で、ケイト・ブランシェット演じるキャロルが履く靴は全てフェラガモ製。アンクル・ブーツからパンプスまで非常に美しいラインアップが見られますが、とりわけシックなのが、ケイトが毛皮と一緒に纏うスウェードのアンクル・ブーツで、50年代のサルヴァトーレのアンクル・ブーツを再現しています(※2)。

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メタル製のスティレット・ヒール

 1950年代にはヒールのトレンドは太いものから細いものへと移行してきていましたが、極端に細く先がとがったメタル製のスティレット・ヒールを出現させたのは、1954年のサルヴァトーレの作品からなのだとか(※1 p.24)。

サルヴァトーレ・フェラガモ
『ツーリスト』より。Columbia Pictures / Photofest / ゲッティ イメージズ

 アンジェリーナ・ジョリージョニー・デップが初共演を果たした、フロリアン・ヘンケル・フォン・ドナースマルク監督の『ツーリスト』(2011)の冒頭で、アンジェリーナがベージュのワントーンコーデでエレガントに装い、美しいメタル製スティレット・ヒールでパリの街を颯爽と歩きますが、彼女が履いているヒールもフェラガモ。土踏まずのカーブとヒールの高さが絶妙で、彼女の美脚を際立たせています。

フェラガモのアイコンとなったガンチーニ

サルヴァトーレ・フェラガモ
これがガンチーニ。Lorenzo Palizzolo / Getty Images

 サルヴァトーレが死を迎えたのは1960年(※2 p.223)。しかし、彼は頭のてっぺんからつま先までフェラガモで装う(※4)という夢を子供たちに託し、彼らに製品にまつわるすべてを教えこんでいました(※2 p.225)。その結果、1965年には長女がハンドバッグ、次女が初めてのウェア・コレクションを発表し、1969年にはフェラガモのアイコンとなったバッグの留め金具ガンチー二が誕生(※4)。続き1970年に次男がメンズライン、1971年に三女がスカーフとネクタイの製作を本格的に開始し、1980年代にフェラガモはトータルブランドとして大きく成長したのです。

サルヴァトーレ・フェラガモ
プライベートでガンチーニを愛用するリース・ウィザースプーン。Bauer-Griffin / GC Images / Getty Images

 『007/黄金銃を持つ男』(1974)ではフェラガモを象徴するガンチーニのローファーを履いたジェームズ・ボンドが登場。イアン・フレミングの原作で黒のカジュアルなシューズかモカシンを履き、レースアップシューズを嫌ったと描写されているように、ロジャー・ムーア演じる3代目ボンドはスリッポンのローファーが基本。これはスパイにとって着脱しやすいシューズだから、というのが理由でした(※9)。ブーツやレースアップシューズを好むダニエル・クレイグのボンドとは対照的なのが面白いですね。

サルヴァトーレ・フェラガモ
『007/黄金銃を持つ男』より。United Artists / Photofest / ゲッティ イメージズ

 美しさに限界はない、デザインに飽和点はない、そして靴屋が製品を飾るために使う素材には終わりはない(※1 p.249)と語ったサルヴァトーレ・フェラガモ。彼が50年もの間作り続けた靴は、現代にも引き継がれる靴の定番スタイルとして残ったのです。

【参考】

※1…文藝春秋「夢の靴職人 フェラガモ自伝」サルヴァトーレ・フェラガモ著 
※2…講談社「サルヴァトーレ・フェラガモの華麗なる靴」
※3…フェラガモと映画『オーストラリア』のコラボレーション。シューズ'レディ・サラ'発売 - AFP
※4…フェラガモの歴史フェラガモ公式サイト
※5…数々の新しいスタイルを生んだ天才 - HighBrand.com
※6…Madonna Tangos With Evita - Newsweek
※7…【動画】女性同士の愛を描く映画「キャロル」16年2月公開 フェラガモが衣装協力 - FASHIONSNAP
※8…cinema - museo Salvatore Ferragamo
※9…A Guide to James Bond’s Slip-On Shoes and Loafers - The Suits of James Bond
※10…fashiontv | FTV.com - SALVATORE FERRAGAMO FOR AUSTRALIA BY BUZ LUHRMANN

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此花わかプロフィール

此花わか

映画ライター。NYのファッション工科大学(FIT)を卒業後、シャネルや資生堂アメリカのマーケティング部勤務を経てライターに。ジェンダーやファッションから映画を読み解くのが好き。手がけた取材にジャスティン・ビーバーライアン・ゴズリング、ヒュー・ジャックマン、デイミアン・チャゼル監督、ギレルモ・デル・トロ監督、ガス・ヴァン・サント監督など。(此花さくや から改名しました)

Twitter:@sakuya_kono Instagram:@wakakonohana

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