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パンデミック映画のフェーズ別徹底比較【ネタバレあり】

 世界中でそして、日本でも拡がり続ける新型コロナウイルスの脅威。このことを予言していたかのような映画がスティーヴン・ソダーバーグ監督の『コンテイジョン』です。感染を意味するコンテイジョン(=Contagion)という言葉をタイトルにした本作はウイルスの感染拡大の様子や、医療従事者の苦悩、拡散されるデマなど、現実のと重なる部分が多く、驚かされます。

 この特集では『コンテイジョン』と同じくウイルスの感染拡大を描いた5作品『コンテイジョン』(2011)、『アウトブレイク』(1995)、『感染列島』(2008)、『復活の日』(1980)、『FLU 運命の36時間』(2013)を選びました。

1. 発生→ 2. 感染と拡大→3. 対応と混乱→4. 終息

各作品、各フェーズの描かれ方を比較し、さらに同じような局面を描いた他作品も参考に挙げていきます。ちなみこの過程が見られるもので言えば2016年の『シン・ゴジラ』などがあります。(村松健太郎)

※終息までの特集のため、ネタバレを含むことをご了承ください。

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1.発生

 これは文字通り、事態の発生と初期対応の部分です。

 東日本大震災の発生から物語が始まる今年公開の『Fukushima 50』やマイケル・クライトンの原作をロバート・ワイズ監督が映画化した1971年の『アンドロメダ…』などがこのタイミングを切り取った作品と言えるでしょう。

→『コンテイジョン』では…手を洗わなかったことが感染拡大に

コンテイジョン
『コンテイジョン』より Warner Bros. Pictures / Photofest / Getty Images

 さまざまな作品を手掛けてきたスティーヴン・ソダーバーグ監督ですが、本作はその中でも最も淡々と説明的な描写を極力省いて事象を追い続けた作品です。公開当時はエモーショナルな部分が少なく、パニック映画としては不満の声も出ました。しかし、現在の状況と比べると、あまりにもリアルで驚かされます。医療考証に参加したスタッフの中には、現在新型コロナウイルス対策に従事し、感染してしまった方もいるとのことです。

 その『コンテイジョン』での発生の時は、世界中を渡り歩くビジネスマンのベス(グウィネス・パルトロー)が出張から帰宅後、急に倒れるところから始まります。夫のミッチ(マット・デイモン)は慌てて病院に運びますが、ベスは帰らぬ人に。そして、正体不明のウイルスは確実に拡がり始めます。

実は、『コンテイジョン』発生の本当の始まりは、ラストシーンに描かれます。

 伐採された森林からコウモリが飛び去り、バナナのカケラを落とし、それを豚が食べ、その豚が食材としてベスが訪れた料理店で調理され、担当したコックが手を洗わないままベスと握手します。この約2分間の事象だけを追うシーンの後、映画はエンドロールに入ります。

→『アウトブレイク』では…発生はかなり以前のことだった…

アウトブレイク
『アウトブレイク』より Warner Bros. Pictures / Photofest / Getty Images

 アウトブレイク(=outbraek )は感染症の突発的発生を示す言葉で、これが広範囲で継続する状態がパンデミックです。『コンテイジョン』が医療従事者の物語であるのに対して『アウトブレイク』は感染拡大の封じ込めを狙う軍人が主人公の物語になっています。

 その『アウトブレイク』の発生の時は1960年代。ザイールの内戦に参加していた傭兵部隊の中で謎の出血熱が発生します。現地調査をしたアメリカ陸軍はデータを採取したのちにその一帯を人間ごと爆撃して焼き払いすべて覆い隠します。

→『感染列島』では…感染者の一人が都市部に紛れ込む

感染列島
『感染列島』~「感染列島 スタンダード・エディション」DVD発売中 3,800円+税 発売元:TBS・東宝 販売元:東宝

 この映画は2009年の瀬々敬久監督のパンデミック映画です。実際に公開直後に新型インフルエンザの世界的な流行が起きました。『感染列島』の発生の時は、2010年頃。フィリピン北部の山岳地で新型インフルエンザが発生します。WHOのメディカルオフィサーの小林栄子(檀れい)はその一帯での封じ込めを狙いますが、時すでに遅く1人の住民が都市部に出かけてしまっていました。

→『復活の日』では…イタリア風邪の正体は軍事兵器の流出

復活の日
(C) KADOKAWA 1980『復活の日 角川映画 THE BEST』  価格 DVD¥1,800+税  発売元・販売元 株式会社KADOKAWA

 1980年のこの映画は角川春樹プロデュースのSF大作。原作は『日本沈没』の小松左京です。復活の日』と他の4作品の最大の違いは世界で猛威を振るうウイルスが人為的に製造されたBC兵器に由来していることでしょう。東西冷戦がまだ存在していた1981年。民間で生み出されたウイルスにアメリカのタカ派軍人が極端な毒性を持たせたMM-88が東側に流出します。

 さらに、サンプルを運んでいたセスナがアルプス上空で墜落、サンプル保存容器が破損し、ウイルスが拡散されていきます。後から一帯で家畜の大量死が進み、イタリアでは嬰児と幼児を中心に感染が広まります。このウイルスによる疾病はイタリア風邪と呼ばれることになります。

→『FLU 運命の36時間』では…変異型鳥インフルエンザに感染した不法就労者

FLU 運命の36時間
(C)2013 CJ E&M CORPORATION, ALL RIGHTS RESERVED『FLU 運命の36時間』より 3,800円(税抜)発売元:CJ Entertainment Japan 販売元:TCエンタテインメント

 FLUとはインフルエンザ(=influenza)の国際的な略称の一つです。この映画は一地域に限定してパンデミックを描いてるという点が特色です。また群像劇になっているほか、体制によるローカルなエリアの犠牲も問わない姿勢などは韓国映画らしくもあり、日本でもヒットした『新感染ファイナル・エクスプレス』と重なる部分があります(マ・ドンソクが出演しています)。

 今作の始まりは2014年の香港。ここからから不法就労者を詰めこんだコンテナが韓国・ソウル南東部の都市盆唐(ブンダン)に運ばれてきます。コンテナの中では変異型鳥インフルエンザに感染した人間で溢れかえっていました。韓国の密輸業者の兄弟が唯一の生き残りの少年を連れて街に出ますが、弟が感染したうえに、唯一生き残った少年に逃げられてしまいウイルスを持った人間が世間に放たれます。

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2.感染と拡大

 このフェーズではいよいよ事態が(悪い方向へ)動き出していきます。

 ストレートに感染拡大を描く部分もあればメディアがデマの流布を報じ集団的なパニックが起こり買い占めという形をとることもあります。感染パニック映画の一大ジャンルにゾンビ映画と言うモノがありますが、どうしてもエンタメ色重視になりがちです。ただ、ジョージ・A・ロメロの2007年公開の『ダイアリー・オブ・ザ・デッド』や大泉洋長澤まさみ有村架純共演の2015年公開作『アイアムアヒーロー』などで描かれるメディアの様子は、現実世界での新型コロナウイルス関連の報道と比べてもかなりリアルです。

→『コンテイジョン』では…無症状の感染者が無自覚のうちに感染を拡大

コンテイジョン
『コンテイジョン』より Warner Bros. Pictures / Photofest / Getty Images

 ベスが感染した香港と、その移動先で接触した人々に症状が出始めます。

 この時、感染者を繋ぐ接点として手渡したクレジットカード、電車の吊り革、素手で持っていた荷物を公共のスペース無造作に置くことなどがさりげなく描かれます。感染者の中には自覚症状が現れるまでに時間差がある人間がいために地元から移動してしまい、さらに感染を拡げます。

 ベスの解剖が始まり(このシーンはかなりショッキングです)ウイルスの危険性が明らかになり始めたころ、世界的な感染が確認されます。CDC(アメリカ疾病予防管理センター)とWHO(世界保健機構)の面々が登場して事態の把握のために情報収集を始めます。現在の新型コロナウイルスに対する動きと全く同じですね。

 会議の中で人の手があらゆるものに触れれているという日常の説明や週末だと家にいて様子を見ている人間もいるのでもっと感染者は多いのではないかなどと言う会話が交わされます。

→『アウトブレイク』では…ペットにひっかかれたことがきかっけに…

アウトブレイク
『アウトブレイク』より Warner Bros. Pictures / Photofest / Getty Images

 ザイールでの一件から数十年後、同じ地域から謎のウイルスが発見され軍医大佐のサム(ダスティン・ホフマン)はウイルス検査の結果エボラウイルスを上回る脅威になりうると判断、軍上層部や元妻でCDCの職員である元妻のロビー(レネ・ルッソ)に声をかけ警戒情報の発令を要請しますが、なぜか却下されます。

 一方、現地の猿が密輸されてアメリカ本土へ、ペットショップに持ち込まれますが、そこで人をひっかき、売り物にされず、近くの森に放たれます。猿にひっかれた人間(持ち込んだ男と商談を受けたペットショップの店主)が立て続けに謎の出血を伴う感染症を起こし死亡します。

 よもや致死率の高い感染症にかかっているとは思わない周りの人間や医療関係者の間に感染が拡がっていきます。CDCのロビーのもとにもこの新型の感染症の症例が伝わり始めます。

→『感染列島』では…院内感染から日本列島全土へ

 2011年初頭、いずみ野市のいすみの市立病院に高熱や肺炎などを併発した患者が運び込まれています。命救急担当の松岡(妻夫木聡)や安藤(佐藤浩市)らは新型インフルエンザの可能性を考え、あらゆる対処を施しますが、患者を救うことはできませんでした。また、時同じくして養鶏場から鳥インフルエンザの陽性反応が出ます。

 病院内では院内感染が発生、安藤も病に倒れてしまいます。鳥インフルエンザとの関連も不明のまま感染者が増大、日本政府は病院内隔離、地域封鎖、交通機関の停止を進めていきます。WHOは日本国内の感染の震源地と思われるいずみ野市に栄子を派遣します。松岡と英子はかつて交際していた過去があり、思わぬ形での再会となります。第一感染者死亡から2週間が経過するころには感染は日本列島全域に拡大します。

→『復活の日』では…脅威の速度で広がる感染…ワクチンを求め市民は暴徒化

復活の日
(C) KADOKAWA 1980『復活の日 角川映画 THE BEST』  価格 DVD¥1,800+税  発売元・販売元 株式会社KADOKAWA

 イタリア風邪の猛威は世界を脅かします。

 そんな中で、南極昭和基地と周辺の基地だけは、極地低温の環境でMM-88の活動が抑制されるために、被害は出ていませんでした。ただ、世界各国との無線連絡で世界各地で人類を含む多くの生物に甚大な被害が出ていることが知らされます。

 昭和基地の隊員吉住(草刈正雄)たちは、はるか彼方の日本に残した家族や恋人のことを心配することしかできません。ワクチンの開発が進でいましたが、感染拡大のスピードに追い付くことができません。ワクチンを求め市民は暴徒と化し、世界各地は厳戒態勢に入ります。

→『FLU 運命の36時間』では…医師団 vs. 政治家

 盆唐(ブンダン)の救助隊員カン・ジグ(チャン・ヒョク)は救助活動で知り合った女医のイネ(スエ)とその娘ミルと親しくなります。

 イネの勤務する病院に謎の感染症患者が運ばれてきます、例の密輸業者の弟でした。弟の持っていた携帯にはコンテナの惨状が記録されていました。韓国内で初めて鳥インフルエンザ感染者が発生した可能性が高いと判断されます。結果として弟は助からず、そのことで混乱した兄は病院内暴れまわります。

 一方、ミルは偶然出会った少年と親しくなります。その少年こそあのコンテナの生き残りでした。コンテナの調査などからウイルスは人から人へ感染する変異型鳥インフルエンザであることが判明、盆唐(ブンダン)地区の封鎖を提言する医師団に対して、地元選出の政治家は影響が大きすぎると言って反対します。しかし街中では感染者が発症、カン・ジグの目の前でも人が次々と倒れていきます。

→【不安と不在を描く】

 被害が拡大していく中で、現実の社会もそうですが、人々は様々な規制を受けストレスを抱えていきます。未知のウイルスへの恐怖感にこれが上乗せされるのですから、パニックを起こしたり、あきらめにも近い気持ちを持ってしまうこともあります。

 2001年の黒沢清監督作品『回路』と2004年の落合正幸監督の『感染』の日本の映画。前者は全世界、後者は一つの病院内という空間的な差異がありますが、極限状態で膨らみ続ける人間の不安の拡大を描いています。

 またダニー・ボイル監督2002年の『28日後...』では、ウイルスの感染拡大している4週間の間、昏睡状態にあった男が目覚めるところから映画が始まります。この時点ですでに、ロンドンに人の姿はありません。

 現在、世界各国の大都市はロックダウン(都市封鎖)かそれに近い状況にあり、街並みから人影が消えていますが、『28日後...』のロンドンの風景や2007年のウィル・スミス主演の『アイ・アム・レジェンド』の無人のニューヨーク・タイムズスクエアの風景は2020年の現実の風景と驚くほど、重なります。

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3.対応と混乱

→『コンテイジョン』では…医療の最前線にも犠牲者が

コンテイジョン
『コンテイジョン』より Warner Bros. Pictures / Photofest / Getty Images

 WHOは疫学者のオランテス(マリオン・コティヤール)は発生源と思われる香港に向かい、アメリカ国内最初の感染者と思われるベスの行動を追い、感染ルートの特定を急ぎます。ネット中心に陰謀論めいた発言を繰り返しているアランはレンギョウと言う薬草が特効薬だという持論を展開しますが、後に詐欺的行動だったことかが暴露され逮捕されますが、一部には熱狂的な支持者を集めてしまいます。

 ウイルスの分析と感染拡大防止にCDCのチーヴァー(ローレンス・フィッシュバーン)と共に動いていたミアーズ(ケイト・ウィンスレット)も発症、医療の最前線にも犠牲者が出始めます。各都市が境界線ごとに封鎖され、外出禁止令が発令され、どの都市もゴーストタウンのようになっていきます。

→『アウトブレイク』では…感染者が集まる街を封鎖し突破する者に容赦なく銃弾を浴びせる

アウトブレイク
『アウトブレイク』より Warner Bros. Pictures / Photofest / Getty Images

 感染が拡大しているにもかかわらず、サムの上司フォード准将(モーガン・フリーマ)の態度は煮え切らないものばかり、さらには上官のマクリントック少将(ドナルド・サザーランド)と何かを隠そうとしている節が見えます。

 感染者が集まる街シーダー・クリークに軍隊を派遣、事実上の封鎖を行い、封鎖を突破しようとする人間には容赦なく銃弾を浴びせます。一方、期せずして同じ脅威に挑むことになったサムとロビーの元夫婦コンビは封鎖された地域で新型ウイルスに感染した人たちを救おうと、奔走し、感染源を追います。

→『感染列島』では…感染拡大対策で地域封じ込め、買い占めや都市部脱出で大混乱

 いずみ野市立病院では感染者が殺到、(命の線引き)トリアージを行わなくてはならず、その方針を巡って松岡と栄子は衝突を繰り返します。インフルエンザの陽性反応が出た養鶏場を訪ねた二人は、自分たちが直面している出来事と、過去の症例から、鳥インフルエンザと市内を中心に拡大し続ける感染症とは別物ではないのかという推論を立てます。

 一方、政府は感染拡大対策のために地域封じ込めを閣議決定。不急の行動は規制され、多くの住民に自宅待機が命じられます。物資を買い占めが始まったほか、地方への疎開のために都市部から脱出する車でグリットロック状態が起き市民生活は大混乱します。

 やがて、感染が拡大し続けるウイルスは未知の新型ウイルスであることが判明。神の責め苦を意味するブレイム(=BLAME)と呼ばれるようになり、日本の社会基盤を崩壊させていきます。

→『復活の日』では…致死率が45%、ウイルス拡散から半年で国家は崩壊

 日本全土に戒厳令が布告される中、医療現場を支える土屋(緒形拳)や吉住の恋人で看護師の則子(多岐川裕美)らの疲労の色も濃く、医療崩壊寸前です。そんな過酷な現場に世界の死者が3,000万人を突破し、致死率が45%に上るという情報が届きます。土屋は何事にも終わりはあると励ましますが、それが最悪の終わり方である可能性も土屋は考えています。

 感染拡大から3か月、昭和基地は無線で呼びかけを続けますが、返答は全くなく、極地以外は絶望的な状況であることが徐々に明らかになります。ウイルス拡散から半年が過ぎると国家・政府はその態勢を維持できず完全に崩壊してしまいます。

 アメリカ大統領は各国の南極基地に全世界の被害と犠牲が出ていること、有効なワクチンの開発に至っていないことを説明すると、南極基地が最後の希望となるので南極にとどまり続けるようにと言い渡します。南極で残った人々は地球上で唯一統制のとれた組織となり、今後の方針を話し合います。

→『FLU運命の36時間』では…抗体の持ち主を探せ!

FLU 運命の36時間
(C)2013 CJ E&M CORPORATION, ALL RIGHTS RESERVED『FLU 運命の36時間』より 3,800円(税抜)発売元:CJ Entertainment Japan 販売元:TCエンタテインメント

 都市封鎖を進む中でミルを連れて盆唐(ブンダン)を脱出しようとするイネ。カン・ジグにも声をかけますが、自分は盆唐(ブンダン)救助隊員だと言い、残ることを決めます。 大統領が陣頭指揮を執り、ウイルスの感染拡大の防止と、感染者の隔離が進みます。

 一方で、ミルが感染してしまったことから脱出することがかなわなかったイネはそのことを上司に、報告すると同時にコンテナから逃げ出した少年が健在であれば彼は抗体を持っている可能性が高いという考えを伝えます。

 隔離政策に地元議員や閣僚たちは地域の犠牲を計算に入れたうえで推し進めることを大統領に進言、アメリカ(在韓米軍)もそれを後押しします。

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4.収束と終息

→『コンテイジョン』では…致死率が25%~30%の試算、ワクチンの順番をめぐり命の線引き

コンテイジョン
『コンテイジョン』より Warner Bros. Pictures / Photofest / Getty Images

 CDCの研究から世界で12人に1人が感染し、致死率が25%~30%になるであろうという試算が出ます。その後、必死の研究によってワクチンが開発されたもの、すでに全米で250万人が、全世界では2,600万人が命を落としていました。

 しかし、全世界にワクチンが行き渡るにはかなりの時間が必要であり、その順番を巡って誕生日ごとの抽選が始まります。ワクチンが開発され、その効果が認められてなお、命の線引きが行われ続ける日々が続きます。

→『アウトブレイク』では…人として正しい選択をする

アウトブレイク
『アウトブレイク』より Warner Bros. Pictures / Photofest / Getty Images

 仲間を失い、ロビーも感染してしまったことを知ったサムは宿主の猿の足取りを追い、血清の合成に成功します。一方、ウイルスの細菌兵器への転用を図っていた軍上層部は正義感のために暴走するサムに逮捕命令を出すと同時に、陰謀の証拠隠滅のために感染が集中するシーダー・クリークをかつて、ザイールで行ったように住民ごと焼き払おうとします。

 ロビーへの臨床試験の成功で治療のめどが立ったことを訴えるサム、爆撃機のパイロット、そしてフォード准将は人間らしく行動することを選択し、爆撃を失敗に終わらせるとともに、マクリントック少将を逮捕。快方に向かったロビーとサムは新たな人生を歩みだします。

→『感染列島』では…半年後にワクチンが完成するも甚大な被害

 最初に松岡たちのもとに運ばれてきた患者の麻美が状態が回復し、ひっそりと病院から姿を消します。彼女が何かを隠していると感じた栄子は松岡と共に、改めて麻美から聞き取り調査をすることに。

 そこで、麻美の父の立花が東南アジアの小国アボンで医療に従事していること、そして正月に帰国した際に咳き込んでいたこと、一泊しただけで旅立って以降連絡がとれないことが明らかになります。WHOの協力を得られないこと知った松岡は原因究明のため自らアボンに向い、立花の診療所を突き止めた、診察記録と感染症の検体を手に入れます。

 栄子は長野での医療現場に向かいますが、自らもブレイムに感染してしまいます。栄子は自らの身体を使った血清療法を試すことを松岡に伝えます。栄子の覚悟を受け取った松岡は自身も血清療法に打って出て1人の命を救うことができました。しかし、自らの命をかけた栄子は駆け付けた松岡の呼びかけもむなしくこの世を去ります。

 半年後にワクチンが完成、しかし、第一感染者死亡から半年強の間だけで感染者は3,950万人、死亡者は1,120万人を数える甚大な被害を残しました。

→『復活の日』では…ウイルス対策が進まぬなか、地震が発生

 何とか体制を維持する南極政府ですが、ウイルス対策は遅々として進みません。さらに吉住はワシントン近郊で巨大地震が起こる可能性を発見します。

 南極政府はさらにこの揺れがARS(自動報復装置)を誤作動させる可能性があることに言及します。さらにソ連からもミサイルが発射される可能性があることを示唆します。

 これ以上の悲劇を防ぐため、ウイルス感染を覚悟のうえでワシントンにARSを停止させるために人員を派遣を決断、アメリカ隊のカーター少佐と吉住がワシントンに向かうことになります。ワシントンに上陸、廃墟と化したホワイトハウスに潜入した二人はARSに解除を目指しますがその直前に巨大地震が発生、カーターは重症を負い、吉住もシステムを止めることができず、全米各地から核ミサイルが発射されてしまいます。

 無人と化した大国間の核ミサイルによる報復合戦、その様子をモニター越しに見ることしかできない吉住。しかし皮肉なことに、直前に摂取したワクチンは有効で、世界が崩壊していく中で吉住はウイルスから生き残ります。

 それから数年後、ただ1人生き残った吉住はアメリカ大陸を徒歩で縦断、チリの南端でワクチンにより生き残った人々の集落にたどり着くのでした。

→『FLU運命の36時間』では…抗体の持ち主が鍵

 命の選別が始まる中でカン・ジグはミルとIDを取り換え、自分が感染者だと偽り隔離・移送されることを選びます。

 カン・ジグの機転でミルと共に非感染者扱いになったイネは抗体を持つコンテナの少年のもとに向かい。血清を作りミルに投与しますが、その直後にミルと離れ離れになってしまい、ミルは感染者エリアに運ばれ処理されることに……。

 感染者の移送先では非人道的ともいえる形で感染者が扱われ、処理が進みます。そのことを知った市民が暴徒化、混乱の中でミルを発見したカン・ジグはイネに連絡を取り、ミルの無事を伝えます。

 一方で、抗体を持つコンテナの少年を移送する中で、密輸業者の兄が襲い掛かり少年を殺害してしまいます。

 唯一の抗体を失ったかに思えましたが、ミルが新たな抗体の持ち主になりうることを知った大統領は武力行使を強引に進める閣僚や米軍の反対を押し切り、ミルから抗体が得られなければ全責任を取るという覚悟のもと、盆唐(ブンダン)市民の鎮圧作戦の中止を命じます。その後、保護されたミルから抗体が得られたことが明らかになります。

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まとめ

 5作品を比べて見ると政治的な思惑が介入し事態をややこしくさせる『アウトブレイク』が都市部への感染拡大などがなかったこともあり実は一番被害が少ないのが意外な結果です。

 医療従事者の立場から描いた『コンテイジョン』と『感染列島』はその感染拡大が前者は世界規模で、後者は日本国内にほぼ限定されていますが、どちらも数千万人単位での感染者が発生していて多くの犠牲が出たこと描かれます。

 『感染列島』に関して言うと、そのタイミングで日本にいた外国人の罹患や海外脱出の部分がなく、2009年と言う製作年を考えてもこれだけ強力なウイルスが本当に日本国内だけで収まるのかはちょっと疑問が残る部分があります。

 『復活の日』は終盤にアメリカで大地震が起きそれを、外国からの核攻撃と誤認したシステムがソ連に核弾頭搭載ミサイルを発射、すでにウイルスで35億人の人類が犠牲になっているうえにこの事態が重なり文明は、ほぼ崩壊状態になります。被害と言うことで言えば映画史に残る甚大な被害を描いています。小松左京は『日本沈没』もそうですが、描かれる被害が甚大になる時があります。

 『FLU 運命の36時間』は『アウトブレイク』のようにエリアが限定されていて、政治や軍事が現場に介入して事態を混乱させる部分もあったりと、共通する部分もあるのですが、基本的に封鎖する側の軍人側が主人公の『アウトブレイク』に対して『FLU 運命の36時間』は封鎖の対象になる市民の側が主人公ということもあって同じ事柄でも随分と印象が違って見えます。

【フィクションはフィクションのままで……】

 人間とウイルスとの闘いは新石器時代に人間が農業中心の定住生活に入ったころから始まっていると言われています。

 ポリオや狂犬病、麻疹、天然痘に始まり、中世ヨーロッパで黒死病と呼ばれたペストが猛威を振るいました。大航海時代・植民地開拓が始まると世界はより一層、密なつながりを持つようになり、第一次世界大戦の終結の一員にもなったスペイン風邪(インフルエンザ)、デング熱やエボラ出血熱、AIDSやSARS、MARSなど新たな脅威が現れ続けています。

 今回取り上げたことはあくまで映画・フィクションの中での出来事です。しかし、その一方でフィクションは現実の延長線上の存在でもあります。

 時に、未来を予言したのではと言われるフィクションというモノが時々登場します。2020年の東京オリンピックとその中止を予告していた大友克洋監督による1988年の長編のアニメーション『AKIRA』や、原発の危機を1997年の時点で描き、2015年に映画化された東野圭吾による『天空の蜂』などは後々予言の映画と言われるようになりました。

 1995年のテリー・ギリアム監督作品『12モンキーズ』は未知のウイルスによって人類の99%が死に絶えた世界が舞台ですが、劇中の設定は西暦2035年の出来事です。現実が『12モンキーズ』や『AKIRA』のようなことになってしまわないことを切に願います。

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