間違いなしの神配信映画『ベルベット・バズソー:血塗られたギャラリー』Netflix

神配信映画

押さえておきたい監督編 連載第6回(全7回)

 ここ最近ネット配信映画に名作が増えてきた。NetflixやAmazonなどのオリジナルを含め、劇場未公開映画でネット視聴できるハズレなしの鉄板映画を紹介する。今回は個性やメッセージ性の強い監督の作風に注目。毎日1作品のレビューをお送りする。

呪われた絵画によって翻弄される、倫理観を失った人々を皮肉ったホラー

ベルベット・バズソー
Netflix映画『ベルベット・バズソー:血塗られたギャラリー』独占配信中

『ベルベット・バズソー:血塗られたギャラリー』Netflix

上映時間:112分

監督:ダン・ギルロイ

出演:ジェイク・ギレンホールレネ・ルッソトニ・コレット

 夜のロサンゼルスの街を徘徊し、警察無線を傍受して事件現場に駆けつけるパパラッチが狂気に染まっていく姿を、ジェイク・ギレンホールが演じた『ナイトクローラー』(2014)。これを初監督作品として手がけたのが、脚本を中心に映画業界で活躍しているダン・ギルロイだ。

 本作『ベルベット・バズソー:血塗られたギャラリー』(2019)は、ギルロイがふたたび、ジェイク・ギレンホールと、プライベートではギルロイのパートナーであるレネ・ルッソらを出演させ、脚本を書き自ら監督して撮りあげたホラー作品。呪いの力によって次々に登場人物が殺害されていくという内容で、一見よくあるB級ジャンル映画のように見えるが、アメリカのアート業界を舞台にしているところがユニークだ。

 本作には、美術評論家のモーフ(ギレンホール)、美術商のロードラ(レネ)、アーティストのグレッチェン(トニ・コレット)など、業界の一線で活躍する抜け目のない人々が次々に現れる。ロードラの下で働き、モーフの恋人でもあるジョセフィーナ(ゾウイ・アシュトン)は、そんな魑魅魍魎(ちみもうりょう)ひしめく環境でアートのビジネスに携わり奮闘していた。

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ベルベット・バズソー
Netflix映画『ベルベット・バズソー:血塗られたギャラリー』独占配信中

 ある日彼女は、同じアパートに住んでいた老人ディーズの死去によって、彼が描き残した大量の絵画を発見する。美術業界では全く知られてない人物によって描かれ、題材や絵柄も不気味な作品ばかりだが、そこには異様な迫力があった。ジョセフィーナは、「自分が死んだら作品は捨ててほしい」という遺言を無視。モーフがその絵の素晴らしさを賞賛すると、金の匂いを嗅ぎつけたロードラらも、いち早く駆けつけて販売に乗り出す。業界の人間たちは、ディーズの死を食い物にしようとするのだ。しかし、その絵画には、画家本人の血液と怨念が塗り込められていた……。

 登場する業界人は、見事なまでに共感しづらい者たちばかりだ。絵のことなど何もわからないセレブから得る金銭や、自分の影響力の拡大、性の欲望などに溺れ、それらを手にするためなら信念を曲げ、他人の仕事を剽窃(ひょうせつ)し、他人のアート作品を利用すらする

 物語の中心にいるジョセフィーナは、当初はそんな業界に批判的な目を向けていたが、自分が儲けられるチャンスに恵まれると、「誰も見てくれないアートに何の意味がある?」と、販売してはいけない絵を販売してしまうように、業界の悪しき価値観に染まっていく。そして、染まるからこそ腐った業界内で力を発揮できるようにもなる。そんな鼻持ちならない人々が、呪われた絵画の力によって殺されていくという趣向には、悪趣味ながらも一種の快感がある。

ベルベット・バズソー
Netflix映画『ベルベット・バズソー:血塗られたギャラリー』独占配信中

 対して画家ディーズは、美術教育を受けずに自分の創造の世界を描き続けた実在の人物ヘンリー・ダーガーのように、長年の間清掃員として働きながら、アート業界とは接点を持たず、ただ自分の内面の世界と向き合って絵画作品を完成させていった。

 印象派の画家ゴッホは、生前全く美術界から評価されなかったにも関わらず、死後、偉大な画家として崇められるほどの存在になった。それでは、ゴッホを偉大な存在にしたのはアート業界なのか? ……そうではないだろう。業界が目を付けず誰にも知られず、歴史から葬り去られていたとしても、ゴッホは偉大な存在だったはずだ。業界が存在しなくとも優れたアートは成り立つ。

 その事実を象徴しているのが、ジョン・マルコヴィッチが演じるアーティストが、浜辺で砂に絵を描いているシーンである。誰にも見られず、波によってすぐに消えてしまう絵を描いたとしても、それはアートになり得るはずなのだ。

 とはいえ、アート業界が審美眼や知識によって正当な評価を作品に与えることで、世界の人々は真に価値のある作品を観ることができるし、優れたアーティストが作品を発表しやすい環境が生まれ、後進が育つことも確かである。問題なのは業界そのものでなく、倫理観が欠如した者たちが業界内にいることで、正しい判断ができなくなってしまうことなのだ。そんな人々が、文字通り“魂のこもった”作品を無自覚に扱うという状況を、本作は皮肉をこめて描いている。

ベルベット・バズソー
Netflix映画『ベルベット・バズソー:血塗られたギャラリー』独占配信中

 タイトルの「ベルベット・バズソー」とは、倫理を見失った一人であるロードラが若い頃に参加していたバンドの名前だ。その象徴が彼女の首の後ろにいまもタトゥーとして刻まれているように、それを彫った当時は名声や金銭よりも、自己表現そのもののために活動をしていたのだろう。そんなタトゥーが、現在の彼女を攻撃し、復讐を果たすシーンは、恐ろしいというより、むしろ感動的である。

 彼女だけでなく、アート業界に入った人たちの多くは、はじめはアートが好きという気持ちから出発していたはずなのだ。それが、いつしか別の目的に変化してしまう……。それは例えば、日本を含めた映画業界における製作者、監督やスタッフ、俳優、評論家などにも当てはまることだ。そんな不心得が、若い頃の純粋な気持ちに復讐される本作は、その意味で逆説的な青春映画ともいえるのである。

 ダン・ギルロイ監督の前作『ローマンという名の男 -信念の行方-』(2017・日本劇場未公開)は、理想に燃えて正義を追求する弁護士の物語を描いている。正義の弁護士ローマン(デンゼル・ワシントン)は、弁護士としての天才的な能力を持ちながら、融通がきかず風采もあがらないため、孤独で貧しい生活を送っている。だが、一度倫理観を捨て、金儲けのためにその能力を使い始めると、途端に人望を集め、リッチになり、豪華な部屋に住み高級なスーツを仕立てるようになる。その姿はきらびやかだが、昔のローマンを知っている観客にとっては、むしろ悲壮な雰囲気を感じさせる。

 このように、不純な目的のために純粋な魂を売り、または倫理観を捨てるというテーマが、これまでのダン・ギルロイ監督の持ち味になっているといえよう。それを作らせてしまうというのは、業界人たちが魂を売れば売るほど、むしろ成功を手にしやすいという状況があるという、理不尽な現実の反映であるように感じられるのだ。(小野寺系)

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