間違いなしの神配信映画『パドルトン』Netflix

神配信映画

押さえておきたい監督編 連載第4回(全7回)

 ここ最近ネット配信映画に名作が増えてきた。NetflixやAmazonなどのオリジナルを含め、劇場未公開映画でネット視聴できるハズレなしの鉄板映画を紹介する。今回は個性やメッセージ性の強い監督の作風に注目。毎日1作品のレビューをお送りする。

マーク・デュプラスレイ・ロマノおっさん2人の安楽死へのロードムービー

パドルトン
Netflixオリジナル映画『パドルトン』独占配信中

『パドルトン』Netflix

上映時間:89分

監督:アレックス・レーマン

出演:マーク・デュプラス、レイ・ロマノ、クリスティン・ウッズ

 2000年代にアメリカ・インディペンデント映画の新しい潮流となったマンブルコア(低予算で、無名の俳優や素人が普段の会話のように自然に演じる作品)グレタ・ガーウィグなどと並んでムーブメントの立役者だったのが、ともに俳優、脚本家、監督でもあるジェイ&マーク・デュプラス兄弟だ。

 弟で、最近は『スキャンダル』(2019)でシャーリーズ・セロンふんするメーガン・ケリーの夫役を演じたマークが、『アイリッシュマン』(2019)のレイ・ロマノと共演し、製作・脚本も兼ねた『パドルトン』(2019)は、マンブルコア世代の円熟を感じさせる。

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パドルトン
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 本作の主人公は小さな町に暮らす中年男性のマイケルとアンディだ。物語はマイケルが末期がんで余命宣告を受け、安楽死を選択するところから始まる。宣告の場に同席していたアンディはマイケル本人より動揺しているようだ。2人は恋愛関係ではなく、同じアパートの1階と2階に住む隣人に過ぎないが、家族も恋人も友人もいない者同士、毎晩一緒に冷凍ピザを温めてかじりながら、お気に入りのカンフー映画を見て過ごしてきた。夜が更けると各々の部屋に戻って就寝し、朝になると出勤、休日は2人で考えたゲーム「パドルトン」(壁打ちテニスのようなもの)に興じる。小学生のようにたわいない、地味な“ブロマンス”(男性同士の親密な友情関係)だ。

 致死薬を購入するため、遠方まで車で小旅行する珍道中を挟みながら、2人は判で押したように同じ日常を送る。それが退屈であると同時にかけがえないものであることを、こんなにもしみじみわからせる展開が心憎い。世間話が苦手で、あえて大切なことを口にしないまま、食事をするときも、映画を観るときも、パドルトンをするときも横並びでいる2人の距離感が視覚的に伝えるものがある。あまり感情を見せないマイケルを演じるマーク・デュプラスと、ちょっと神経質なアンディを演じるレイ・ロマノのやり取りは、ミリ単位で心の機微を表現している。

パドルトン
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 脚本は20ページ程の骨子だけで、マイケルとアンディの会話はほぼ、主演2人の即興だという。予定調和にならない瞬間を逃さずに捉えたアレックス・レーマン監督はもともと撮影監督で、ドキュメンタリーやリアリティー番組を手がけてきた。監督としての前作『ブルージェイ』(2016)もデュプラスが脚本・主演だが、テレビシリーズ『ザ・リーグ / The League(原題)』にカメラオペレーターとして参加した際に主演のデュプラスと意気投合したのがきっかけだ。デュプラスはレーマンが手がけていたドキュメンタリー『アスペルガーザらス』(2016)に製作総指揮として手を貸し、『ブルージェイ』の監督に起用した。

 デュプラス兄弟が手がけた作品は、社会でひっそりと生きる人間にフォーカスするものが多い。人の切なさやおかしみをすくい上げ、どこにでもいる誰かを、忘れられない一人として観客に記憶させる。『パドルトン』もそんな物語だ。「死んでいく男」と「そうじゃない方の男」は互いを、見ていないようで見ている。聞いていないようで聞いている。ただ思いやっている。人を見送るとき、あるいは見送られるときも、それ以上のことは、きっと誰もできない。そのささやかな尊さが、カジュアルな会話劇と引き算の演出というマンブルコアの真髄によって引き立つ

パドルトン
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 『パドルトン』は、『ブルージェイ』完成後にマークとレーマン監督が惨殺シーンのある映画を一緒に観る機会があり、あまりの凄惨さに監督が「僕たちの映画に死やバイオレンスがなくてよかった」とつぶやいたところ、「それこそ次に撮るべきテーマだ」とマークに言われたことが発端だという。

 エミー賞受賞のドキュメンタリーシリーズ「ワイルド・ワイルド・カントリー」やアニメーションまで幅広く手がける製作者として、さまざまな企画を進めるデュプラス兄弟が次に何を見せるのか? ドキュメンタリー精神で劇映画を作るレーマンの今後も、それぞれ楽しみだ。(冨永由紀)

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