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劇的に変わった池袋、変幻自在の希有な映画館シネマ・ロサ

ラジカル鈴木の味わい映画館探訪記

全景

 1986年から4年間、20~24才の時にいた、リビドーとB級グルメの聖地池袋。一昨年取材の新文芸坐は東口、住んでいたのは、清潔感や安全性はアップしたが、猥雑さや都会の場末的な雰囲気は変わっていない西口。駅ロータリーからすぐ、ロマンス通りのアーケードをくぐると、独特の外観で威容を誇る、1968年築の元祖複合レジャービル、ロサ会館が。ある日、現在のカラーの鮮やかなピンクに染まっていたのにはびっくりしたっけ(新橋駅前のニュー新橋ビルとデザインが似ていて、同じ建築家? 1970年築だから可能性は大、どなたか情報をください!)。

今月の映画館「シネマ・ロサ」

 “昭和”が色濃く残る、娯楽の殿堂。テニスコート、フットサル、ボウリング、ビリヤード、ダーツ、ゲームセンター、各種飲食店、レンタルビデオ、ライブハウス、ギャバクラと、ほんとに見事にすべてが満載! こういう施設は少なくなった。この中に開業時からある映画館は健在。ビルの後ろにあり、裏口という印象だが、ときわ通りにある当時の僕の住居から駅へ向かって劇場通りを渡り徒歩5分で直結でした。池袋駅西口から徒歩3分、東京メトロ副都心線のC9出口から徒歩1分。

 週末、オールナイトをよく観た。『悪魔のいけにえ』(1974)『血のバレンタイン』(1981)『死霊のはらわた』(1981)のホラー3本立てを一番前の席で観たもんだから、さすがにゲップが出たことも(笑)。

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アーケード
リニューアルされた、未来的デザインのアーケード。

 昭和21年、木造二階建て、626席のシネマ・ロサが池袋西口に創業。周辺に系列のシネマ・セレサ、シネマ・リリオ、シネマ東宝も建ち、邦画各社の専門館だった。昭和43年、ロサ会館建造と共に、ロサとセレサが入りリニューアルオープン、他の2館は消滅。邦画の他洋画も上映するようになる。1975年、名画座になり2階のロサは邦画やハリウッドの娯楽作品、地下のセレサはヨーロッパを中心としたアート系を上映。

 かつてはアラン・ルドルフピーター・グリーナウェイアキ・カウリスマキジョン・カサヴェテスヴェラ・ヒティロヴァボリス・バルネットアレクサンドル・ソクーロフ等、アテネ・フランセの常連が喜びそうな 作家、異才・奇才の渋好みの特集をやっていた。

ロサ会館
ロサといえばこの色、この独特のデザイン。

 オープン直後はテナントがなかなか埋まらず。オーナーが老舗ゲームメーカー・タイトーの創業者ミハエル・コーガン氏と出会い、日本初のゲームセンターを設置。そして1978年のスペースインベーダーの大ブームと共に客が殺到し、一気に知名度は上がり、他の階もにぎわう。「このビルは23区初の総合レジャービルだったんです。多数のゲーム機があり、開店前にシャッターをくぐって入っちゃう、みたいな状態だったそうです」と、シネマ・ロサ支配人の矢川亮さん。一時期はポルノ映画館でもあった。1997年、再びロードショー館になり、ロサ1、ロサ2となり、リニューアル。

 1階は共通の窓口のチケット売り場。階段を上り2階のロサ1へ。今回鑑賞したのは『M/村西とおる狂熱の日々 完全版』。香ばしいポップコーンの香りがお出迎え、こうでなくっちゃ~(笑)。壁の神棚が何ともレトロチック。

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目まぐるしい変遷

 「自分は1990年代、六本木の俳優座シネマテンや、渋谷のミニシアターブームにどっぷり浸かって、ここにもフランソワ・トリュフォーの日本最後の特集上映や、ジャック・タチ、ラス・メイヤー特集を観に来ていました」

チケット売場
1階のロサ1、ロサ2共通のチケット売場。

 矢川さんは1976年東京生まれ、43才。2000年にバイトで入り今年で20年、2013年から支配人になって7年。変化に富む近年の変遷について、解説していただく。

 「1970年代の終わりごろは、成人映画専門でした。1995年までの名画座時代はロサ、セレサ共2本立て、土曜日は上も下もオールナイト3本立てなんてやってて。劇場で公開されずビデオ化される、いわゆるビデオスルーの作品がなぜかよく上映されました。当時、フィルムのプリント代も高かっただろうに、不思議です。ロサがハリウッドアクション、セレサはフランス映画、ヨーロッパ、アジアが中心で。2本立てが厳しくなってきた頃、ちょうど池袋地区のロードショー館の休館などがあり、ご相談いただいてロードショー館に切り替わりました。2000年からは松竹系のチェーンに入って2007年まで。その後は東宝さんや東映さん、単館系の配給会社さんの作品も上映するようになりました」

1への階段
2階へ上がるとシネマ・ロサ1。

 何とも目まぐるしい変化! 常に街の興行地図に準じてきたのだと、やっと理解。

 「1990年代のワーナーマイカルの“シネマコンプレックス”という考え方の登場は象徴的でしたね。いま業界では6スクリーン以上を擁するのがシネコンと決まっています。全国で3,561スクリーン、その88%がシネコンです。2018年2月、日劇が閉まり、映画会社の長い歴史を持つフラッグシップシアターもシネコンスタイルへ転換していってます」

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例のないラインナップ

 「昼間は全国300館規模のロードショー作品をやりつつ、一方レイトショーは、独自の自主企画をやっています。普通は、だったらレイトも系列の作品をかけろ、となって、チェーンの劇場では許されないんですが、各社と古いお付合いがあり、以前2本立てのコヤだったから“ロサさんはしょうがない”と、なぜか許されています(笑)。東宝、松竹系の作品を恒常的にかけつつ、一方で数十万円で作られた自主映画もやる、こういう劇場は珍しいと思います。全国でおそらくここだけ、非常に稀なケースです」

ポップコーン
映画館には、これがなくっちゃ!

 歴代最大のヒットは『君の名は。』(2016)で、2位が『カメラを止めるな!』(2018)。“カメ止め”の聖地、と言われている経緯を聞く。

 「あの作品は元々一昨年、新宿のK’s cinemaさんでやった、専門学校ENBUゼミナールのワークショップ“シネマプロジェクト”の、お披露目上映だったんです。これはすごい! って、単独で上映しようということになり、K’s cinemaさんが昼間の上映をするから、ウチはレイトショーでとお願いして同時に劇場公開が始まりました。これが聖地といわれる所以です」

ポップコーンカップ
ポップコーン塩味Mサイズ250円でこのボリューム。

 2003年から自主制作作品の上映を始め、冨永昌敬監督や入江悠監督の作品、“水戸短編映画祭セレクション”もやったが、現在は“インディーズフィルム・ショウ”、通称“IFS”からの自主映画作品がかかり“映画を作る者の聖地”と言われる。

神棚
映画館のロビーでは滅多に拝めない、神棚が。

 「午前中の時間帯でも上映しますが、レイトショーを中心に、1~2週ごとにプログラムを変えます。多彩な作品があり、どなたでも好みの合うのがあるはず。今の若い監督や役者が、何を考え、何をやっているのかわかると思います。他の劇場ではなかなかかからない作品ばかりなので、ぜひお運びください。亡くなった方には、良い映画でしたねえって言えませんが、今頑張っている人は応援できますから(笑)」

 例えば『なっちゃんはまだ新宿』(2017)の首藤凜監督は当時23歳だったり、何ともフレッシュ。

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時代に逆行!? 便利さに警鐘を鳴らす

 現在も入場券は当日のみ劇場窓口で販売。ネットの前売りや予約は導入しないのか。

スクリーン
『ファスタープッシーキャット キル!キル!』(1966) 監督:ラス・メイヤー 出演:トゥラ・サターナ、ロリ・ウィリアムズ、ハジ

 「考えますけど……今、ムビチケや、オンライン化がどんどん進んで、もはや紙のチケットはない。でも“IFS”では、まったく逆のことをやってもらっているんです。手作りでチケットを作って、手売りする。僕ら劇場は一切ノルマは課しませんが、本人たちが自分で宣伝して、お客さんと対面して売ることに意味がある。例えば、50枚買ってくれたお客さんがいても、チケットのナンバーをチェックしたら、そのうち誰も来てなかった。その人はお金があったけど映画には興味がなかったんです。世の中にはそんな人もいる、そんなこともわかるようになる。人と交流して、直接関わって、頑張って売ってごらん、と。それが映画ですからね。ネットを導入すると、できなくなってしまいますから」

 なるほど。すべてがデジタル化されることの危惧が、ここにも。

劇変する街と共に

 治安や風紀の悪いイメージから、定住率が低く、2014年、東京23区で唯一、豊島区は消滅可能都市に選ばれてしまったのは記憶に新しい。しかし、この4年で劇的に変わり、今や“住みたい街ランキング”に入る程の人気なのは、本当に驚いた!!

イケバス
池袋の新しいシンボル、かわいい“イケバス”に遭遇、北口付近。

 「危機感を持って、行政が本気で街づくりしたおかげです。文化、アート面を強力にサポートして、クリーンで暮らしやすくなりました。老朽化の豊島区役所は2年前に建て直され、階上を分譲マンションにして、借金ゼロで見事に再建されました。今では豊島区役所が全国で一番視察が多いそうです。さらに来年は、周辺に“ハレザ池袋”等のキャパ1,800~2,000席の9つの大演劇場も完成予定です」

 また、待機児童がゼロになって、日本一子育てがしやすい街にも。不人気、危険、暗いイメージからは完全に脱したのだ。西口も野外演劇場がオープンし、さらにイメージが変わるという。元住民としては、何ともうれしい限り! 映画環境も大きく変わるという。

キッチン・チェック
ロサ会館1階の老舗洋食屋・キッチン・チェック。

 「昨年オープンのグランドシネマサンシャインに続き、TOHOシネマズ池袋(仮称)も開業します。シネコンが3館になって、シネコン的観せ方が極まってくるでしょう。そうするとうちは、より今後はミニシアター的な傾向が強まってくるかもしれません。そしてわれわれも地域に貢献できるのかなと」

 昨年7月に公開の『天気の子』は、ロサとHUMAX、グランドシネマサンシャイン3館で上映という珍しいケースだった。劇場の大小、新旧による垣根を超え、一丸となって街を盛り上げていくのは素晴らしい。

 取材後、ロサ会館1階の、創業51年を誇る洋食屋“キッチン・チェック”でカツカレー1,400円を頂く。当時、ギャラが入ると奮発して食べた、あのボリュームは変わっていない。

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映画館情報

シネマ・ロサ
東京都豊島区西池袋1-37-12
03-3986-3713
公式サイト
Twitter:@Cinema_ROSA

ラジカル鈴木 プロフィール

イラストレーター。映画好きが高じて、絵つきのコラム執筆を複数媒体で続けている。

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