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ビートルズファン号泣の名シーン秘話も!『イエスタデイ』ダニー・ボイル監督インタビュー

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 ひょんなことから「自分以外は誰もビートルズを知らない世界」に身を置くことになった売れないシンガー・ソングライターが、彼らの名曲の数々を歌ってスターダムにのし上がるうちに、“本当に大切にすべきもの”と向き合うことになる姿をユーモアたっぷりに描いた映画『イエスタデイ』。メガホンを取ったダニー・ボイル監督が電話インタビューに応じ、突拍子もないアイデアにどう取り組んだのかから、あの涙腺を刺激する名シーンの撮影秘話まで、テンション高めに語りました。(取材・文:編集部・市川遥)

※重要なネタバレを含むので、ぜひ鑑賞後にお読みください。

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ラブストーリーというプリズムを通してビートルズを描く!

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 『トレインスポッティング』『28日後...』『スラムドッグ$ミリオネア』など疾走感あふれる映像が得意なボイル監督と、『フォー・ウェディング』『ノッティングヒルの恋人』『ブリジット・ジョーンズの日記』などロマコメの名手として知られる脚本家リチャード・カーティス(『ラブ・アクチュアリー』や『アバウト・タイム ~愛おしい時間について~』では監督もしている)というイギリス映画界が誇る二人は今回が初タッグ。ボイル監督が総合演出を務めた2012年のロンドンオリンピック開会式に、「ミスター・ビーン」の脚本家でもあるカーティスが参加したことをきっかけに二人は親交を深めることになりました。

「僕はずっとリチャードの作品には感服していて、彼がオリンピックの開会式にミスター・ビーン(笑)と一緒に参加してくれたのは素晴らしかった。僕はああいうコミカルなショーの監督ではないんだけど、リチャードはこのビートルズについての脚本を書いた時、パートナーを必要としていた。彼が脚本を送ってきたから『読んでみる』とは言ったが、こんな風に飛びつくことになるとは思わなかった。全く違う角度からビートルズを捉えるという点にほれてしまったんだ。伝記物でもなく、ストレートにビートルズを描写するでもなく、ラブストーリーというリチャードの得意なプリズムを通して、そして“ビートルズが消えてしまった世界”というとてもコミカルなアイデアを通して描く。ビートルズという不朽の存在を扱うのに、何て素晴らしい方法だろうと思ったよ」

 “ビートルズが消えてしまった世界”という突拍子もないアイデアを観客に本当のものとして感じてもらうため、「できるだけリアルでビビッドにする」というのがボイル監督が採用したアプローチ法でした。「だから問題は“自作の曲は微妙”というミュージシャンを演じながら、それと同時にビートルズに敬意を表した演奏ができる人を探せるのか? ということだった」と振り返るボイル監督が、「本当にたくさんの人たちをオーディションした」後に主人公ジャック役に決めたのは新鋭ヒメーシュ・パテルです。

「ヒメーシュは、ビートルズの曲を新鮮に聴かせることができる唯一の人だったんだ。もちろん何度も聴いている曲だから新しくはないんだけど、彼が歌うと新鮮さがあった。なぜなのか突き止めようとしているんだけど、今でも説明できない。リチャードの脚本だから、素晴らしくおいしいお菓子みたいで、人々を楽しませ、願わくば考えさせるように作られている。もちろんジョン・レノン登場シーンでは、映画の性質がちょっと変わるというか、深まるけどね。だけど、基本的にはこの映画から人々が得るであろう喜びは、人々がビートルズの音楽からもらった喜びなんだ」

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 「エリナー・リグビー」の詞を思い出すことにジャックが苦戦するシーンもかなり笑えますが、リアルでもあります。突然世界からビートルズが消え失せ、CDをチェックすることもググることもできなくなったとしたら、膨大な曲を完璧に思い出すことはなかなか難しいはずです。

「リチャードはビートルズのすごいファンなんだけど、この映画を書くために、歌詞をどれだけ覚えているか自分でテストしてみたんだ(笑)。結果、音楽が流れていたら歌詞がすらすら出てくるのにもかかわらず、音楽なしだと思い出すのがかなり難しいということがわかったんだよ。だから『エリナー・リグビー』を思い出すために永遠とも言える時間がかかるわけ(笑)。ヒメーシュのあの演技が大好きだよ。とてもおかしいのと同時に、とても普通で人間的だと思う」

 さらにこの映画にリアルさをもたらすため、ボイル監督はヒメーシュの歌唱&演奏シーンは全て撮影現場でライブで撮影したいと言い張ったそうです。

「映画で音楽をやるとなったら、技術者たちはいつだって歌の事前収録をして俳優たちには歌っているフリをさせるか、アフレコにしてほしいと言う。ライブではやらせない。何テイクもやるとリズムがほんの少しだけど変わってしまうから、技術者泣かせなんだ。だけど僕はオーディションで、ヒメーシュがライブでパフォーマンスすることでもたらされる魔法というものを知ってしまったから、ライブで収録しなくちゃと思った。そうして初めて、彼がビートルズの曲を表現できる唯一の人ということが信じられるものになる。だからみんなが聴く彼の歌と演奏は全てライブだよ。事前に収録されたものは一つもない。そのおかげで、この映画が技術的という感じをなくさせ、リアルで普通なものになった。願わくば、その魔法をみんなも楽しんでくれたらいいな」

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 映画の後半、地元に凱旋したジャックがホテルの屋上で「ヘルプ!」をパフォーマンスするシーンが素晴らしいと伝えると、ボイル監督は「そう! 知ってる!(笑)僕も大好きでお気に入り」とにんまり。

「ヒメーシュには、この曲は怒りを込めたパンクの曲みたいにやってほしいと伝えたんだ。あの瞬間の彼はジャックとして、大切な女の子を失い、音楽のひどい商業主義に自分が囚われてしまっていることに気付くわけだから、助けを求めて叫ぶ必要があるんだ。あのシーンのアイデアは、6,000人の人々がビーチに集まってジャックのライブを見るというもので、彼らは狂ったように跳ねたり踊ったりする。これまで撮影してきた中で最も特別な日の一つだ。観客が人々と、俳優と、この映画のアイデアと、そしてビートルズそのものとつながることができる。あのパフォーマンスは、みんなにものすごい喜びを与えたんだ」

 ヒメーシュにとっては歌を歌うだけでなくギターやピアノも弾かないといけないとあって、全てライブで演奏することは大きなチャレンジでもありました。

「彼自身がそれを認めているように、彼は偉大なミュージシャンというわけではないからね(笑)。彼は14歳まで母親にピアノを習わされていて、反抗期に-それって14歳がやることだよね-ピアノをやめてギターを始めた。彼がこれまで知らなかったビートルズの曲もあったんだけど、魔法みたいだったのは、彼がそれらを演奏した時、彼の声か彼自身に、曲とのつながりを感じさせる何かがあったということなんだ。彼にはとても感銘を受けたよ。もし僕らが違うやり方で収録したり、ヒメーシュをキャスティングできなかったとしたら、この映画が今とは全く違うものになってしまう可能性があったわけだから」

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ビートルズファン号泣の名シーンの撮影秘話!

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 本作の後半には“ビートルズが存在しない世界”ではジョン・レノンが殺害されることもなく生きていた! というサプライズも。美しく胸を打つシーンですが、ジョンを演じた俳優の名前はエンドロールにもクレジットされていません。配給に問い合わせたところ、「フィルムメーカーとジョン・レノンを演じた俳優は、ジョン・レノンの人生と思い出に敬意を表すため誰が演じているかを公表しないという契約をしています。彼らの希望を尊重し俳優の名前は公表致しません(原文:The filmmakers and the actor made an agreement that they would keep the actor’s identity a secret out of respect for the life and memory of John Lennon. We respect their wishes and therefore will not be releasing his name.)」という回答がありました。その俳優はそっくりすぎて70代のジョン・レノンそのものにしか見えませんが、ボイル監督作品ファンなら誰だかわかるかも……?

「似ているでしょ?(笑)彼はものすごいジョン・レノンファンなんだ。この役について話した時、彼はすぐには信じられなかったくらい。彼はその人生でずっと、ジョン・レノンを追い掛けてきたんだ。ジョン・レノンに関しては、リチャード・カーティス以上に何でも知っている。リチャードもかなりのビートルズファンで彼らのことは何でも知っているけど、それ以上なんだ。だから彼にジョン・レノンを演じてもらうのは素晴らしかったよ。僕たちはあえて、ヒメーシュと彼を会わせなかったんだ。撮影でドアが開く、あの瞬間までね。だからヒメーシュにとって、あの一瞬はものすごい瞬間だったわけだよ(笑)」

「映画が変わるシーンでもある。ジャックが突然、本当にたくさんのことに気付くわけだから。映画の魔法だよ。恐怖や暴力は、絶対的な美しさと驚異の瞬間によって克服できる。僕たちは、ちょっとの間、そんな勝利は可能だって信じることができるんだ。暴力は勝たない。美しさと真実、イマジネーションが勝つんだ。とても特別で、とても誇りに思っているシーンだよ」

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 ジョン・レノンとジャックの邂逅は感動的であると同時にユーモアにも満ちており、ボイル監督はそのバランスを絶妙に取っています。思わず泣き笑いさせられてしまった人も多いのではないでしょうか?

「そのバランスを見つけようとすることこそ、監督の仕事だった。感動的なものと面白いもののバランスの根っこには、ありふれた日常があるんだと思う。もともと脚本の本質としてあったものでもあるんだ。ジャックが最初ハマることになる“ポップスターの世界”は、本物の世界じゃない。普通の学校の先生という彼の世界、そしてジョン・レノンの船乗りとしての暮らし、海のそばでのとてもシンプルな暮らし、そうした普通さが、スーパースターの世界とつながる。だからこそ、彼らの生き方や言葉に感動させられるし、笑えもするんだ」

 また“ビートルズのいない世界”には「オアシス」「コカ・コーラ」「ハリー・ポッター」なども存在しないわけですが、注目すべきは「タバコ」が存在しない点。これってつまり、ジョン・レノンだけでなく、肺がんで亡くなったジョージ・ハリソンもこの世界では生きているっていうことなのでしょうか。

「イエス(笑)。その通り! タバコのシーン自体は人々を楽しませるためのジョークとして出てくるけど、物悲しさがある。さっきの“感動とユーモアのバランス”についてだけど、ビートルズの音楽で面白いのは、どこかに少し物悲しさがあるところだと思う。最高のハッピーな曲にだって、いつでもそれがある。それは脚本にもあった。リチャードが彼らの音楽から、自然にその要素を取り入れたんだ。いつだってちょっと物悲しいんだけど、それは人間の一部だと思う。僕たちはここにいて、生きて、永遠の存在のようにも思うけど、それは間違いで、僕たちは死ぬ。それはジョークを笑えなくしたり、人生の喜びを感じられなくしたりするものではなくて、ただ存在しているんだ。もし映画を観ている人が肺がんで亡くなった人を知っていたなら、その瞬間はもの悲しさを与えるだろう。もちろん、ジョージについてもね」

映画『イエスタデイ』は公開中

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