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チャレンジングな作品を幅広く上映するシアター・イメージフォーラム

ラジカル鈴木の味わい映画館探訪記

全景
忽然と建つ、モダーンな建築。隣接する古い建物とのギャップが面白い。

 渋谷クロスタワーがまだ東邦生命ビルだった頃。地下鉄表参道駅から、骨董通り、青山学院大学を越え、渋谷の警察署近くまで、2年間ほど通った。比較的知られざるエリア故、穴場が多い。こちらは正に映画館の穴場。渋谷駅東口からは徒歩10分、宮益坂を登りきって五差路を渡り、スターバックスの角を右に折れたところにシアター・イメージフォーラムはある。

今月の映画館「シアター・イメージフォーラム」

 文化の香り漂う、映画館として設計された建物。 ガラス張りのロビーはあまり広くなく、入れない人が外に溢れることもしばしば、それも絵になる。小さなカウンター、そして大きな階段? と思うと、実はデザインの一環で天井で行き止り。そこに沢山のミニシアター系作品のチラシが並ぶ。

窓
印象的な丸い窓から覗くロビー。

 1階はブルーでまとめた64席のイメージフォーラム1、地下は赤でまとめた98席のイメージフォーラム2。3階も30席程のシネマテークとして上映する。今もフィルムの映写機が8ミリ、16ミリ、35ミリ、とそろっているのがすごい。

 昨年から全席指定になり、上映3日前にオンラインの予約も可能。飲食物の販売はないので、開映まで周辺のカフェで待つか、蓋付きの飲料は持ち込み可なのでテイクアウトがいい。今回、4月からのロングラン、従軍慰安婦にまつわる論争を追ったドキュメンタリー『主戦場』(2018)を観る。

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イメージフォーラム創業の原点

階段
イメージフォーラム2への階段。踊り場を経てかなり深くまで降りる。

 創業者は映像作家かわなかのぶひろ氏。1960年代の新宿でアングラ運動の真っ只中にいた方。1971年に実験映画の制作・配給・上映、映像作家育成の「アンダーグラウンド・センター」 を発足し、1972年から1976年まで、渋谷・並木橋交差点にあった寺山修司主宰の劇団「天井桟敷」の地下劇場でシネマテークを開く。

 以前取材したアップリンク・ファクトリー同様、渋谷のミニシアターの源流をさかのぼっていくと「天井桟敷」にたどり着く。当時の観客が、のちに何人も作家に……。そして1977年に四谷へ移り、雑誌や書籍、映像のビデオなどの販売をし、2000年、現在の場所に移転、映画館となった。

カウンター
コンパクトにまとまったカウンター。

 「映画は100年以上の歴史があるが同じような物語を焼き直している。映像表現というものはもっと、無限の可能性がある。世界中どこでも酒があれば話ができるし、火、水、風のような個人を超えた生命の記憶を呼び起こす、誰もが共感できるものが作れる。映画は今、物語に重心を置き過ぎ、視覚面が退化している」と著書の中でかわなか氏は訴える。これが創業の精神、原点ですな。

 世界各国のアート系新作、レイトショーで新進監督の作品、美術館やギャラリーでも上映されたアバンギャルド・クラシックス、また監督やジャンルで組まれた企画、例えばクロード・シャブロルフィリップ・ガレル特集なども行う。物議を醸し、大手からは公開が敬遠されていた、アンジェリーナ・ジョリーの監督第二作『不屈の男 アンブロークン』(2014)も上映した。

 昨年の『縄文にハマる人々』(2018)や、アーティストのドキュメンタリーも多く、『はじまりの記憶 杉本博司』(2011)、『氷の花火 山口小夜子』(2015)、今秋、装丁家・菊地信義の『つつんで、ひらいて』が控えている。舞台挨拶、トークショーも盛んで、時にはミニライブも。アート全般に関わるすべての人に門戸は開いている。

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劇場担当・山下宏洋さんに訊く

寺山修司のパネル
3階に飾られていた寺山修司のパネル。天井桟敷の事務所だろうか。

 「支配人という役職はなく、番組編成と、広報がメインの仕事です。小さいので小回りが利き、建物も独立しているので、自由度が高い劇場です」

 山下さんは東京出身の47歳。大学生の時、映画を撮りたいと思い、イメージフォーラム映像研究所を卒業、バイトから社員に。2001年からイメージフォーラム・フェスティバル(IFF)のディレクター、2005年から支配人業を兼任する。

擬似階段
階段かと思いきや、先は行き止まり。チラシ置き場となっている。

 「時代でお客さんの求めているものが違うので、常に変化に敏感です。そこを読むのが“やりがい”です。ご覧いただいた『主戦場』は当館歴代No.2のヒット中ですが、これが2年前、3年前だったらこんなに反響はなかったかも。 日韓の関係が危うい現在、求められている映画なんです。大手マスコミは横並びの情報ばかりですが、これは個人の作品で、対立するさまざまな、報道されない意見もフェアに紹介しています」

 日韓のアーティスト、百瀬文イム・フンスンによる『交換日記』を10月4日まで公開。ソウルにあるミニシアター「ソウル・アート・シネマ」と同じ時間に上映し、上映後、日本と韓国にいる2人が生中継で対談するユニークなイベントも催した。

 観客動員数No.1は、僕も観た『いのちの食べかた』(2005)だ。

 「37週間で3万5,000人を動員しました。このときはミートホープ食肉偽装事件から端を発して、世間の感心が食の危険性や安全性に向いていました。配給会社に観せてもらって、これはすぐやったほうがいい! と思ったんです」

 またイメージフォーラム映像研究所からは、映画監督、 映像作家、脚本家、アニメーション作家、ポルノビデオ監督、テレビ演出家、また現代美術作家、写真家、ミュージシャン(UAカジヒデキほか)、DJ、タレントと、のちに名を成すさまざまなクリエイターを輩出。ジャンルを超え創造の根源を学べる所なのだろう。

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今年で33回目を迎えた実験映像の祭典

3階のスクリーン
3階のシネマテークを開催する時に使用するスクリーン。

 一方のIFFのディレクターとしての山下さんの役割はどんなことなのだろうか。

 「ディレクターとはいえ大きな映画祭ではないので、何でもやってます(笑)。メインはやはり作品の選定で、常に映画祭、美術館に行って探します。そして広報、制作物、字幕等の手配、ゲストとの調整などです」

 IFFのメインビジュアルのクレジットに、ミュージシャンの近田春夫の名が記載されている理由として、「ここ3年間、使わせていただいています。知り合ったとき『俺、絵を描いているんだよ』って、撮ったものをコラージュした作品をスマホで見せてもらい、どこで発表するわけでもないみたいなので『使わせていただけませんか?』と(笑)」と山下さん。

 ではIFFで上映する作品は、毎年どのようにテーマを決めているのか?

 「作品を観ていて自然に浮かび上がってきます。今年は“ラフ&ワイルド”です。昨今、無難でまとまったものが評価されがちですが、もっと個人的な生々しいものから新しさは生まれるのではないかと」

 シアターでは1本の作品を4~5週間かけるので、ある程度大衆性が必要だが、フェスの作品は1回か、せいぜい3、4回。より作家性の強いトンがったもの、エッジの効いた作品を上映する。

 「個人映画、実験映画を預かって配給しているところが他にはないので、キュレーターから、これかけてくれないか、と持ちかけられたりします。商業映画は、万人向けにするためバイアスは高くなっていますが、アート作品は作者の考えがストレートで、簡単に消化できない場合もあるけど、特別な経験になります。他者への理解や、感性の幅も広がる。わたし個人の経験としても大きなものになっています」

 IFFの会場はシアター・イメージフォーラムと共に、同じ国道246号線沿いで徒歩5~6分の表参道・スパイラルホールで行い、また名古屋の愛知芸術文化センターでも開催する。また、フェスの一環の「イメージフォーラム・フェスティバル2019in豊島」では、「韓国実験映画略史1969-2013年」として8作品を東京のシネマハウス大塚で行った。

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常にオープンな新しい映像表現

スクリーン
『アスパラガス/スーザン・ピット ドールハウスの魔法』(1973~1995)監督・作画・撮影:スーザン・ピット、音楽:リチャード・テイテルバウム・小杉武久

 また、イメージフォーラムの出版部門としてダゲレオ出版もある。こちらの出版物で僕が持っていたのは「アンディ・ウォーホル・フィルム」(1991・出版)。アンディが大好きで、かつて渋谷の西武で彼の実験映画上映があり、何日か足を運び会場で買ったもの。どれも不思議な気分になる“体験する映画”だった。2014年に森美術館での回顧展に併せて、シアター・イメージフォーラムでも13本を上映した。

 現在は、7時間を超えるタル・ベーラ監督の『サタンタンゴ』(1994)を、2回の休憩をはさんで上映を行っている。

 「これを一気に観られるのは、他のメディアでなく映画館ならではです」

 また、原宿のカフェ「シンク オブ シングス」で関連トークイベントも開催。かつては「青山ブックセンター」と共同主催のトークショーを定期的に行っていたが、今でも下北沢の「本屋B&B」など、さまざまな会場でイベントを実施している。

 「年末はアニエス・ヴァルダ監督特集をやります。また、中南米のアート色の強い映画が面白くて、商業的には難しいかもしれませんが、今後、やりたいと思っています。映画ってこうあるべきだっていう固定観念を持たないことが大事です。わたしもアートや実験作品を見過ぎて、少し疲れてしまったときは『ワイルド・スピード』シリーズを観ちゃったりもしますが(笑)、幅広く観て“自分自身”の映画を見つけて下さい」

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エリア発展を牽引してきたシンボルとして

カラフルな椅子
カラフルな椅子に座って上映まで待つ。

 確かに2000年頃の渋谷2丁目は、店も少なく静かだった。

 「ここに劇場ができてから飲食店が増え、青学の厚木キャンパスの学生が大勢こっち(渋谷・青山界隈)に流れてきて、人通りも多くなりました。フレンチの“ブシュリー・アミアブラ”は、営業時間が長いので、昼も夜も利用しています」

 文化的なエリアには素敵なカフェが多いもの。お隣には「メンローパーク・コーヒー」があり、「“ティントコーヒー”はハンドドリップで煎れていて、よく行きますね。2丁目のカフェ巡りをして、比べてみてはいかがでしょう」と山下さん。

 取材後、この辺りに来たら「もうやんカレー」か「キッチンジロー」かなと思ったが、ランチでカレーを出しているところが多く迷った挙句、「GOD BAR by スナックうつぼかずら」で話題の“ケニックカレー”を発見~!

映画館情報

シアター・イメージフォーラム
東京都渋谷区渋谷2-10-2
03-5766-0114
公式サイト
Twitter:@Image_forum

ラジカル鈴木 プロフィール

イラストレーター。映画好きが高じて、絵つきのコラム執筆を複数媒体で続けている。

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