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未来を見据え先を行く栃木県の映画館

ラジカル鈴木の味わい映画館探訪記

小山シネマロブレ

 「おやま、あれま、おやまゆうえんち~♪」ってテレビから流れるCMソングを関東で育った50代以上の人なら耳にしたことがあるはず。小山ゆうえんちの知名度はむっちゃ高く一世を風靡した。老朽化のため平成19年に閉園し、現在はショッピングモールの「おやまゆうえんハーヴェストウォーク」として生まれ変わっている。その中に8スクリーンの「小山シネマハーヴェスト」があるが、こちらは新作を上映する立派なシネコン。本連載では、系列の古い歴史を持つ「小山シネマロブレ」にスポットを当てます。前回取材の「宇都宮ヒカリ座」も系列館。

今月の名画座「小山シネマロブレ」

小山シネマロブレ
駅直結の小山ロブレの最上階7階に「小山シネマロブレ」が

 東北本線、両毛線、水戸線が交差。都心からJRの快速で60分。小山駅に直結した1994年築の「小山シネマロブレ」の7階へ、外に出る間もなく到着。上映前後は館内で買物や食事してもいい。「シネマロブレ5」とあるのは5スクリーンがあるからで、そう、ここはシネコン創成期の歴史的映画館!

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小山シネマロブレ
お客様を出迎える数々の美術品

 ロビーの中央に島型の受付と売店があり、周りを5つのスクリーンが囲む。上階には総ての映写機が放射状に設置された映写室がある構造。ロビーの至る所にガラスケースに入った、創業者のコレクションの高価な美術品は、まるでミュージアムのような重厚な雰囲気。全席自由。チケットはスタッフの対面販売、パンフレット、お菓子、もちろんポップコーンも販売。シネコンという概念が出来る前の設計だから、それぞれにトイレが完備されていたりする。近年はアート志向の単館系作品が中心。グループを経営する(株)銀星会館を引き継ぎ運営する創業者の3代目、取締役・柳裕淳さんと、支配人・仁木健一さんのお二人に話を訊く。

生粋の映画人だった創業者

小山シネマロブレ
建築当時、斬新だった島型の受付と売店

 「我々でいろいろ変えてきました。県内では無かったので2010年頃から『英国王のスピーチ』(2010)などのアート系の作品をかけ始めました。2015年、このビルの大部分を占めていた大型スーパーが撤退しまして、7フロアのうち4フロアが空になってしまい、最上階のこの劇場のお客様も減って、何か手を打たなければいけない変化の時期でした」

 2014年に亡くなった祖父の柳勲氏が1954年、この地にあった銀星会舘を買取る。最盛期は宇都宮ヒカリ座を含め県内で計16スクリーンを運営。駅前再開発で跡地に建てられた小山ロブレの最上階に、予定では日本初だったが工事の遅れにより僅差で「ワーナー・マイカル・シネマズ」(現:イオンシネマ)に継ぐ全国2番目の“元祖シネコン”が完成。「僕は小3でした。まだ配給の垣根が強かった時代に、いずれ変わるのではないか、いろんな作品をやってみようと、祖父にとっては未来へのチャレンジだったと思います。小6の時にこの劇場で観た『タイタニック』(1997)は特に印象に残っています。高校時代は(現支配人の)仁木さんの元でバイトをしました。当時は劇場以外のイベント上映も多く、よく荷物運びをやっていました(笑)」。柳裕淳さんは33歳、大学を卒業後、別の会社に身を置いたのち家業に参加。

小山シネマロブレ
応接室に飾られたオープン時の写真。左が創業者、中央右は女優の中島ゆたか(トラック野郎シリーズ初代マドンナ)、深作欣二監督、東映の岡田社長(当時)

 「祖父は僕をよく映画会社に連れていきました。東映のパーティーで岡田茂(前会長・2011年死去)さんに会ったり、往年の名だたる俳優の方々も多く祖父と暮らした実家を訪れてくださいました。40年間も県の興業組合長と全国の興業組合で理事を務め、すべての劇場がうまくいく道術を模索していたように思えます。バイタリティが凄かったです。80歳を過ぎてから再び本格的なシネコンを始め、シネマハーヴェストが完成ののち86歳で他界しました」

 柳勲さんは、自分が良いと思ったものは人にも、という強い欲求があったという。「映画1本1本、かみしめるように観ていました。集めた美術品も同じで、震災の後「作品(美術品)が倒れないためにはどうしたらいいかな?」って、建物が壊れているのに、そっち……? って(笑)。家業に入ることに抵抗はありましたが、病床で『次は全部任せたぞ』と言われた頃にはもう次の僕のビジョンを思い浮かべていましたね。今ではまだまだおぼつない足取りながらも精一杯舵取りをしています」。話を聴きながら、ふと裕淳さんと『ゴッドファーザー』(1972)のマイケル・コルレオーネが重なる。

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震災を乗り越えて

 仁木健一さんはロブレが完成以来、共に歩んできた劇場の歴史そのものの方。秩父出身の65歳。「柳勲さんは、好きなことをやり公私の区別が無い人でしたから、わたしが仕事の取り組みが程々だと、注意されましたね(笑)」。『アバター』(2009)から3Dのデジタル映写機を初導入し、徐々に全スクリーン対応。しかし2011年の震災で、スクリーン2の壁が壊れ、スクリーン4は天井が落ち、スクリーン5の映写機が倒れ、ロビーの天井は一部落ちる大きなダメージを受けた。「突貫工事を夜中やり、1週間休んだだけで何とか再開しました」

小山シネマロブレ
各スクリーン用のフィルムとデジタルの映写機が並ぶ映写室

劇場がプロポーズの場に!?

 2017年、『君の名は。』(2016)の新海誠監督が、「劇場版SAOを観るために小山まで行ってきました(都内は終了のようでしたので)。映画はとてもとても刺激的でしたし、湘南新宿ラインは久しぶりで楽しいし笑、良い休暇をいただきました!」とツイート。柳さんは「生憎スタッフは誰も監督に気がつかなくて、後からその事実を知ったのですが(苦笑)、映画『秒速5 センチメートル』での都内から岩舟へ向かう小山駅でのあの乗換の素晴らしい描写を魅せてくださった監督にはいつか正式にゲストでお呼びしたいと思っています」とその喜びを語る。

 また、こんな素敵な企画も。2016年、柳さんの知り合いの小山市出身の男性から受けた、ある相談を実現させたことがあった。「通常の上映と見せかけ、アルバイトスタッフや新聞記者を観客として仕込んだ。『素敵なサプライズ ブリュッセルの奇妙な代理店』(2015)のポスターも貼り、彼と彼女にチケットを買って入場してもらい、予告編の後に突如彼が用意した思い出や気持ちを告白する5分程の映像を流し、終了後に彼が指輪を差し出しました。彼女は大泣きして受け取って……。思い出の場所を次のステップへ歩み出す場所にしてくれて嬉しかったです」。地元の新聞に載り大きな話題になった。

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シャトルバスで映画のハシゴも

 「経営は一緒ですが運営は別で、はっきり分け、それぞれ違うビジネスモデルなんです」と柳さん。「宇都宮ヒカリ座」はエッジの効いた作品が中心で、そういう嗜好の方々のニーズに応えていきたい。ロブレは、マイルドなテイストの作品で定評がある。「駅から直結で、お子さんや家族連れ、中高年の方が多いですからね。特性を見きわめながら3か所で、この地域って“文化的に手厚いよね”と思っていただきたいんです」

 ロブレ前から大型ショッピングモール「おやまゆうえんハーヴェストウォーク」行きの無料送迎バスが。うまく利用して映画のハシゴをする熱心なファンも。こちらも訪れてみた。広々としたロビーの天井は光が七変化し、非日常的な宇宙ステーションのよう! 「日本一豪華な客席」と評判の座席は、前後にゆとりがあり思いっきり足を延ばせる。

小山に「おもいがわ映画祭」あり

小山シネマロブレ
出口上部には数々のゲストのサイン

 市の中心を流れる思川で開催の「おもいがわ映画祭」も、立ち上げたのは柳勲氏。山田洋次監督の『喜劇 一発勝負』(1967)は、思川沿いで温泉を掘り当てる話で、後日ロケ地近くで本当に温泉が湧く。2003年「小山温泉 思川」がオープン。山田監督を招待し、ヒロインを演じた倍賞千恵子さんも来場。映画祭は2008年から始まって昨年は第11回、今年は第12回を開催予定。「市の映画館のファンから有志が集まってウチからも何人か参加し、5年前から自治体も参画したNPOが主催しています」。名画やアニメ16作品と、一般公募によるオリジナル作品を上映。昨年のラインナップは『戦国自衛隊』(1979)、『湖の琴』(1966)、『家族はつらいよ2』(2017)など。

 ショートムービー部門は、まだ知られていない人を表に出す意図。「4年前『カメラを止めるな!』の上田慎一郎監督がグランプリを取っています。また去年『普通は走り出す』(2017)で国際的評価を得た、県内、那須野大田原出身の渡辺紘文監督を呼びました。年月を経るとスタッフも歳を取り、考えも片寄るので、若い意見も取り入れやすい環境をつくることに注力して、新しい可能性を探ろうと思っています」。今年からこちらにも顔を出そうと意欲満々の柳さん。

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昨年は“劇場発信”元年

小山シネマロブレ
『華氏119』 ドキュメンタリー 監督:マイケル・ムーア 2018年

 単館系作品『カメラを止めるな!』(2018)を、予定を変更して大手を含む300スクリーンが全国で公開したのは大事件だった。「劇場次第で発信出来ることが証明され、業界の大きな変化と可能性を感じました。独立した興業会社だからこそ、これからもそんな発信源を目指して、この変化だけで終わらせずチャレンジし続けたいです。今、価値観が多様化・細分化していて、“絶対的な名画”はもはやないでしょう。僕らはそんな時代の中でお客様それぞれに感動が湧くような場を積極的につくっていきたいです」

 取材終了後、柳さんお薦めの、特産物の小麦「イワイノダイチ」を100%使った「藤ヱ門」の生姜肉うどんを食べた。モチモチとしてコシがあって絶品でした!

映画館情報

シネマロブレ
栃木県小山市中央町3-7-1 ロブレビル7階
スクリーン1 120席
スクリーン2 120席
スクリーン3 171席
スクリーン4 131席
スクリーン5 99席
TEL : 0285-21-3222
公式サイト

ラジカル鈴木 プロフィール

イラストレーター。映画好きが高じて、絵つきのコラム執筆を複数媒体で続けている。

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