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『オケ老人!』杏 単独インタビュー

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『オケ老人!』杏 単独インタビュー

1年後がどうなるかなんて想像もつかない

取材・文:須永貴子 写真:高野広美

「ごちそうさん」や「花咲舞が黙ってない」など、数々の主演ドラマをヒットに導いてきた女優のにとって、意外にも映画では初主演となる作品が細川徹監督の『オケ老人!』だ。彼女が演じる数学教師の千鶴が、アマチュアオーケストラに加入し、自由奔放な老人たちに振り回されながら成長していく本作は、笑いと感動、そして迫力の演奏シーンが満載のクラシックエンターテインメント。果たして杏はどのように取り組んだのか?

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半年かけてバイオリンを猛練習!

杏

Q:初主演映画のオファーを受けて、どう思われましたか?

ドラマでもそうですが、主演という意識はないんです。なぜなら、今回私が演じた千鶴にしても、自分がストーリーの主人公だという意識を持っていないので。しかも今回は、楽器をやらなきゃいけないというプレッシャーの方がはるかに大きかったので、主演についてはほとんど意識しませんでした。

Q:バイオリンに関しては、どんな準備をされましたか?

2015年の4月から練習し始めました。そこからクランクインまでの半年間はちょうど国内外の出張が重なっていたので、バイオリンと一緒に新幹線や飛行機で移動して、出張先でも合間合間に練習しました。音が出せなくても、運指だけでもやるようにして。バイオリンは接してみると、意外とカジュアルな楽器に感じました。『タイタニック』の酒場のシーンを思い出すというか、鼻歌を歌う感覚で身近な歌謡曲を弾いてみたくなるような。でも、クラシックのビブラートのような技巧的な部分はすぐにはできないものがある。身近さと果てしなさの両方を感じる楽器でした。

Q:千鶴は途中から指揮を押し付けられて奮闘しますね。杏さんはどのように取り組みましたか?

指揮の練習は「やりようがない」と言われたので、指揮棒の振り方や姿勢などの基礎だけは教えてもらった上で、カット割りや映り方が決まってからセッティングの合間に、次のシーンでの振り方を先生に教えてもらってそれをなぞる、という流れでした。ディズニーの『ファンタジア』みたいに、音に合わせて波がザバーン! みたいな気持ちよさをイメージしていたら、実際に出ている音よりも逆算してちょっと早めに振らなければいけないという現実的な問題があって、難しかったです。

Q:杏さんはアコースティックギターの弾き語りで、音源もリリースしています。新たな楽器との関係は今後も続きそうですか?

私は楽譜がまったく読めないので、指揮はまず無理ですね(笑)。もしも今後続けるならバイオリンか、それよりも一回りサイズが大きいビオラのほうが自分の身体のサイズに合うので良さそうだなと思いました。ビオラは人の声と同じ音域らしく、すごく心地良かったんです。

Q:コメディーでありつつ、音楽シーンの迫力が見事な作品です。

もともと、映画やドラマにおける音楽の力は偉大だなと思っていたんですけど、『オケ老人!』は特にオーケストラの音に臨場感があるので、私も劇場で観たいなと思っています。ストーリーの進行とともに楽団員が増えていくにつれてオーケストラの音に厚みが出てくるところもすべてちゃんと録音しているので、そこもステキだなと思います。

自由奔放なベテラン俳優たち

杏

Q:原作の主人公は男性ですが、監督は杏さんを想定して、女性に書き換えたと聞きました。当て書きされていると感じた部分はありますか?

そこは自分じゃわからないので、そういう部分があるのであれば、脚本を書かれた監督に聞いてみたいですね(笑)。ただ、この映画に出てくるキャラクターはすべて、作り込んだ別人格ということではなくて、演じている人たちの素の笑い顔や楽しんでいる姿がそのまま反映されている気がします。現場もまさにそんな感じでしたし。

Q:千鶴同様に、個性豊かで自由奔放なベテラン俳優さんたちに、杏さんが笑わされ、振り回された?

はい。千鶴のように、みんなと笑いあっていました。

Q:そういう撮影現場になる予感はありました?

最初はやはり、さまざまな年代の方が集まる中で当時20代だった私は、一番出番も多いので、誰よりも元気でいないといけないなと思っていたんです。ところが、いざ蓋を開けてみたら諸先輩方のほうが遥かに元気だったんです(笑)。

Q:どんな風に?

例えば、時間のかかる演奏シーンの撮影などは、ホールや体育館に朝から晩まで缶詰状態になるので、体力的にはそうでもなくても、集中力のキープが難しくて、意外と気疲れしてしまうんです。それなのに、みなさんはオンオフの切り替えをせずにずっとオンでいらっしゃる。特に理由もなしにそこかしこでコントが始まり、メイキングのカメラが回ればカメラ目線を送り、実況中継のレポーターみたいなやりとりをすることもあって、本当に楽しかったです。

笑いを説明しない細川監督

杏

Q:年齢は関係ないんでしょうか。

むしろ、60~80代の方々のほうが、体力があるのかも。びっくりするくらい食べて、飲んで、動くんです。そういえば黒柳徹子さんもものすごく食べるんですよね。この年代の方の飲食のキャパシティは、今の若い人たちよりも遥かに大きいのかなと思いましたし、こんな風に歳を重ねたいと思う側面がたくさんありました。元気であることはもちろん、好奇心や探究心を忘れないことや、童心を忘れず、新鮮なものを新鮮なまま受け取れる気持ちがすごいなと思います。

Q:一方、年下の坂口健太郎さんや黒島結菜さんからはどんな印象を受けましたか?

やはり、お芝居に人柄が出ているなと感じました。坂口さんはほんわかした方だなーと。お芝居中もナチュラルというか、一緒にいて落ち着くというか。見た通りの方だと思います。黒島さんはしっかり者なんですけど、無理しているわけではなくて、自然体。独特の存在感があって、もっとお芝居を見ていたい気持ちになりました。

Q:杏さんが感じる、細川監督らしさが出ている部分とは?

言葉で説明しない笑いが多いような気がします。最初の方のシーンで、公民館の使用予定ボードに書いてある(バンドの)「セックスソルジャーズ」っぽいモヒカンの人たちと入れ替わりで梅が岡交響楽団が入っていく。そのモヒカンの人たちが、何の説明もなくいつの間にかオーケストラのメンバーになっているんです(笑)。エンドロールでも、セックスソルジャーズが劇中曲を担当していることがわかるクレジットが入っていたりとか。こういう遊び心が面白くて愛おしいです。

出産を経た今、未来について思うこと

杏

Q:『オケ老人!』は産休に入る前の最後の撮影のお仕事で、産休明けに人目に触れる最初のお仕事になりますね。

はい。でも、それはそれ、これはこれといいますか、自分の休んでいたこととは直接結びつけて考えてはいません。ただ、最近よく「1年前の今頃」について考えるんですね。1年前の今頃は『オケ老人!』を撮ってもいなかったんだなあ、早いなあって。もちろん子どももできていなかったし。1年ってあっという間ですし、1年後がどうなるかなんて想像もつかないなあと思います。

Q:今後、仕事のペースはどうなりそうですか?

映画やドラマの現場は自分を合わせていかないといけないので、子育て中の自分にはちょっと難しいなと思っています。もしもそれでも大丈夫な形で携われる現場があれば、少しずつやっていきたいです。

Q:演じる役柄も変わっていく気がします。

どんな役が来るかはもちろんわかりません。ただ、自分の状況が変わったことで、考え方やものの見方、受け止め方が変わってきています。例えば、ニュースやドラマ、映画、小説、漫画の受け止め方とか。街を歩いていても、「ここに段差があるな」「凸凹している道なのかな」「このお店は子どもと入れるのかな」など、出産する前には想像もしなかった視点が増えました。だから、役を通して出てくるものや表現の仕方は変わってくるのかなと、うっすらと予感しています。


杏

『オケ老人!』では、真面目で不器用なキャラクターを愛らしく演じ、コメディエンヌとしての才能を存分に発揮している杏。抜群のスタイルでのバイオリンの演奏姿は美しく、マニッシュな燕尾服での指揮姿も眼福だ。その後、出産を経てライフステージが大きく変化した彼女は、もともとのぶれなさに加え、さらに風格と落ち着きを増していた。芝居はもちろん、歌や執筆業などマルチな才能に恵まれた彼女の活躍がますます楽しみだ。

ヘアメイク:平元敬一(NOBLE)、スタイリスト:佐伯敦子

(C) 2016荒木源・小学館/「オケ老人!」製作委員会

映画『オケ老人!』は11月11日より全国公開

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