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ベネチア映画祭イチオシ映画!『セッション』監督ミュージカルから人食いSFまで!(2/2)

今週のクローズアップ

小説が現実に影響を与える!トム・フォードが挑んだ斬新構造

ノクターナル・アニマルズ
夫の小説を読み、不安になっていく主人公 - (C)Merrick Morton Universal Pictures International

『ノクターナル・アニマルズ(原題) / Nocturnal Animals』

 ファッションデザイナーとしてその名を知られるトム・フォードの監督作第2弾。前夫エドワードジェイク・ギレンホール)から、彼の著書「ノクターナル・アニマルズ(夜の獣たちの意)」を受け取り、書評を求められたスーザン(エイミー・アダムス)。しかしその小説のあまりにショッキングな内容に、スーザンは不安を覚え、別れて20年が経つ元夫の真意を模索する

 オースティン・ライト著の小説「ミステリ原稿」が原作である、この映画の魅力はなんといってもその構造にある。今起きている現実(スーザンが元夫からの小説を受け取り読むことで不安を覚える)、小説のストーリー(男が美しい妻と娘とドライブ中、暴漢たちに襲われる)、過去の現実(スーザンが元夫と出会い別れる)という具合に、大きく分けて3つの時間軸が存在する。小説を読み進めるにつれ、現実でのスーザンは不安に駆られ、そして過去を思い返し……と頻繁に切り替わる時間軸でだれないようにするためには、高度な編集が必要であることは明らか。その点において上手く切り抜け、実験的な雰囲気までも醸し出しているのはしてやったりというところだろう。

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ノクターナル・アニマルズ
ジェイクは現実と小説内での2役を演じ分け - (C)Merrick Morton Universal Pictures International

 また、さすがは一流のファッションデザイナーだけあって、シーンごとの美しさは、ハイブランドの広告さながら。『シングルマン』でも同様だったが、建築物を取り込んでの画づくりにはこのうえなく長けている。そしてスーザンがアートギャラリーのオーナーという設定で、コンテンポラリーアート作品が登場するのも興味深い。特に冒頭で、肥満の女性たちが裸でギラギラと踊るスローモーションの映像は、観客をフィクションの世界へと誘う導入として効果的だったように思う。(ちなみにこれはヨーロッパに移り住んで約27年のトムが、もしアメリカにギャラリーを持つことになったら? という発想で創りだしたものだそう)正直、最もトム・フォードらしさが出ていたのがコンテンポラリーアートを通しての部分だったようにも思え、もっと主軸に絡めてほしかったという気持ちにもさせられるほど。

ノクターナル・アニマルズ
マイケルふんする刑事が絶妙 - (C)Merrick Morton Universal Pictures International

 キャスト陣には、エイミー、ジェイク、アーロン・テイラー=ジョンソンマイケル・シャノンとバラエティーに富んだ面々が集結。なかでも元夫エドワードと小説内の男を演じたジェイクは見事な演じ分けを披露。そして意外にもマイケルがアーロンより目立っていたり。本映画祭では審査員大賞を受賞している。

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人食いが次の餌食と恋に落ちるSFカルト!

ザ・バッド・バッチ
ヒロインが人食い男にまさかの胸キュン!の瞬間

『ザ・バッド・バッチ(原題) / The Bad Batch』

 真っ昼間に、とある少女が人食いたちがはびこる砂漠を歩いていた。次の瞬間……少女は無残なことに。とにかくイントロダクションで、このヘンテコな世界に引き込む力がすごい。訳も分からないまま、観客は必死に少女を応援せざるを得ないのだ。手に汗握りしめて。(グロが苦手なベネチアのお客さんはここらへんでリタイア)偶然にもこのあたり、アメリカ大統領選挙のニュースで話題になっているドナルド・トランプ氏のアメリカとメキシコとの国境に壁を建設するという発言に対する批判にも取れることで話題に。

 そんなのっけからガツンとパンチを食らわせてくる本作は、サンダンス映画祭で長編デビュー作『ザ・ヴァンパイア ~残酷な牙を持つ少女~』が話題を呼んだ女性監督アナ・リリー・アミールポアーによる長編第2作。テキサスあたりの荒れ地を舞台に、人食いたちのコミュニティーで餌食になった少女が生き延び、あることをきっかけに人食いの男と恋に落ちていくさまを描く。

 カルト、マカロニウエスタン、ホラー、カニバル、SF、アドベンチャーなどなど、数々のジャンルで遊んでいることがわかる作風は、映画ファンを飽きさせない。また、製作には一般メディアが取り上げないタブーを報じるカルチャー誌「VICE」が VICE Films として名を連ねているだけあって、“VICEっぽさ”に溢れている。それは、過激すぎて普段は表ざたにならない社会をのぞき見するような感覚とも言うべきだろうか。

ザ・バッド・バッチ
この鋭い眼差し…これを機にブレイクしそうなスーキー

 そして何よりキャストが驚きの連続。やんちゃなヒロインを演じているのは、モデルから女優として活躍するようになったスーキー・ウォーターハウス。本作が映画初主演であり、世間一般にはブラッドリー・クーパーの年の離れた元カノ”として知られている程度で、彼女の演技は未知数だった。しかし、監督が多くの女優と面会を重ねたうえ選び抜いたというだけあって、ふてぶてしくていかにもな若者感……スーキー以外の女優がこの役を務めるのが想像できないほどのハマリ役。

 スーキー演じるツンデレ主人公が、テレビドラマ「ゲーム・オブ・スローンズ」のジェイソン・モモアふんする人食い男に惹かれていくさまは、少女マンガ的展開で思わず笑える。人食いに食べられてしまうかもしれないドキドキから、人食いと恋に落ちてのドキドキという、大きな振り幅の感情の変化を伴わせる展開はお見事。

ザ・バッド・バッチ
キアヌ&ジムが突拍子もない役で出演! - Jason Merritt / Getty Images、Ben A. Pruchnie / Getty Images(右)

 そして、その脇を固めるキアヌ・リーヴスジム・キャリーが、大物の無駄使いと言わんばかりに、奇想天外な役を務めている。キアヌは妊婦たちを従えるカルトリーダー、ジムは砂漠をさまようホームレス。一目見ただけでは、2人だと認識できず……気が付いた瞬間の衝撃はかなり大きい。

 80年代DJブース風のセットで人々が踊り狂うシーンや、夜空にドラッグで幻覚を見ながら砂漠を歩くなど、目にも楽しいシーンが多く、音楽やファッションもヒップな感じに仕上がっている。若者カルチャーが満載な本作は、ファストファッションを楽しむような感覚のライトなエンターテイメントとしては申し分ないだろう。本映画祭では審査員特別賞を受賞。

第73回ベネチア国際映画祭関連ニュース>

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