ADVERTISEMENT
ぐるっと!世界の映画祭

第38回 高倉健トリビュート上映への道 上海国際映画祭(中国)

ぐるっと!世界の映画祭

  • mixiチェック
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • ツイート
  • シェア
第38回 高倉健トリビュート上映への道 上海国際映画祭(中国)

第38回 高倉健トリビュート上映への道 上海国際映画祭(中国)

 今年5月、上海国際映画祭と東京国際映画祭は、共にアジアの主要映画祭として発展していくために、協力協定の覚書を締結しました。第1弾として、6月13日~21日まで開催された第18回上海国際映画祭で行われたのが高倉健トリビュート上映。その舞台裏と現地での様子について、企画に携わった東京国際映画祭ホスピタリティーグループ・グループマネージャーの征矢あづささんがリポートします。(取材・文:中山治美 写真:征矢あづさ、東映株式会社、東京国際映画祭)

上海国際映画祭」ホームページ→

中国パワーで成長中

ADVERTISEMENT
会場
「高倉健トリビュート上映」のオープニング作品『鉄道員(ぽっぽや)』の上映の様子。約1,000席が埋まった。

 1993年に国家新聞出版広電総局と上海市の共催でスタートした、国際映画製作者連盟公認の映画祭。当初は隔年開催だったが2004 年の第7回から毎年行われている。映画祭側の発表資料によると、2014年は385作品が上映され、約30万人の観客を動員。取材も447媒体、計1,385人が詰め掛けたという。

外観
上海国際映画祭の会場の一つである上海影城は、大小9スクリーンある。

 メインは金爵奨と名付けられたコンペティションで、長編実写、アニメーション、ドキュメンタリーの三つの部門に分かれている。さらに、アジア新人賞部門もあり、今年は安藤桃子監督が最優秀監督賞、優秀作品賞、優秀脚本賞の3冠を獲得した。

 ほか今年は「中国人民抗日戦争勝利70周年特集」と題して、ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー監督『リリー・マルレーン』(1981)やフォルカー・シュレンドルフ監督『ブリキの太鼓』(1979)などの戦争映画11本を上映。さらに映画誕生120年・中国映画誕生110年の記念特集、ジャッキー・チェンのアクション映画週間など多彩なプログラムが組まれた。ユニークなところでは時代を先取りし、昨年から「4Kリマスター」部門が新設。鮮やかによみがえった大島渚監督『青春残酷物語』(1960)やジョン・ウー監督『男たちの挽歌』(1986)をスクリーンで味わうまたとない機会となった。

 第1回のコンペティション部門の審査員を大島監督が務めたのを皮切りに、日本からも毎年多数の作品やゲストが参加している。今年は 27作品と高倉健トリビュート上映が行われ、『花とアリス殺人事件』岩井俊二監督、『天の茶助』SABU監督らが現地入りした。

“高倉健トリビュート”への道

看板
高倉健トリビュート上映のメイン写真は『鉄道員(ぽっぽや)』。降旗監督や、東京国際映画祭ディレクター・ジェネラル椎名保氏などのサインがある。

 昨年11月10日に83歳でこの世を去った俳優・高倉健さん。高倉さんは主演映画『君よ憤怒の河を渉れ』(1976)が中国で公開され、大人気となったことが知られている。しかし今回のトリビュート上映は、上海国際映画祭と東京国際映画祭が協力提携の覚書を締結したからこそ実現できたという。

幸福の黄色いハンカチ
第28回東京国際映画祭では追悼上映として「高倉健と生きた時代」を開催。全作英語字幕付きでの上映。写真は映画『幸福の黄色いハンカチ』(山田洋次監督)のワンシーン。 -(C)1977,2010 松竹株式会社

 これは、東京国際映画祭の歴史を知る人にとっては、実に感慨深い出来事だったのではないだろうか。それは、第6回東京国際映画祭でのことだ。当局から許可を得ないで製作されたティエン・チュアンチュアン監督『青い凧』をコンペティション部門で上映したところ、映画祭に参加していた中国の代表団が会期半ばで引き揚げてしまったという事件が起こった。また、第23回大会で、一部の中国ゲストがオープニングカーペット・イベントをボイコットしたという一件が記憶に新しい。

 「今回の提携は、上海国際映画祭側からのアプローチでした。日中関係が度々問題となることを懸念し、まずは映画人同士での文化交流から始めませんか? と非常にポジティブな意見を頂いたのです。先方にとっても日本の主要映画団体がバックアップしている東京国際映画祭と提携することによって、中国でも人気の高い日本映画をスムーズに上映できるようになるというメリットがあります」。

 その記念すべき提携第1弾として上がった企画が、高倉健トリビュート。英語字幕の付いた作品リストの中から上海国際映画祭が5作品を選出。『君よ憤怒の河を渉れ』を筆頭に、『網走番外地 望郷篇』(1965)、『幸福の黄色いハンカチ』(1977)、『遙かなる山の呼び声』(1980)、『鉄道員(ぽっぽや)』(1999)と中国人の趣向を反映した感情を揺さぶる人生ドラマが中心。日本では“健さん”といえば任侠(にんきょう)映画のイメージが強いが、1本だけにとどまった。

オープニングに降旗監督

降旗監督サイン
「高倉健トリビュート上映」のパネルにサインをする降旗康男監督。

 高倉健トリビュートのオープニング作品は『鉄道員(ぽっぽや)』。同作品は降旗康男監督が、1999年の第4回大会 で審査員を務めたときに上映されており、16年ぶりの凱旋(がいせん)上映となった。上映会場「上海影城」で行われたセレモニーには、日本から降旗監督や日本映画製作者連盟(映連)会長の東映・岡田裕介会長、高倉プロモーションのスタッフらが出席。会場は老若男女の幅広い層の観客約1,000人で満席になったという。

看板
上海国際映画祭の参加者受付ブース。

 残念ながら、高倉さんが主演した日中国合作映画『単騎、千里を走る。』(2005)のチャン・イーモウ監督は新作映画撮影中のために出席できず。代わりにビデオで「そのお人柄、感性、心の在り方、仕事への態度は、わたしにとってずっとお手本でした。あのときの高倉さんとの仕事は、生涯消えることのない印象をわたしに残したといえます」とメッセージを寄せた。

 続いて降旗監督が壇上に立ち、「言葉ではなく、最後に健さんが車の窓から手を振っていた情景を鮮明に覚えています。健さんが亡くなったということは認めたくない事実ですが、皆さんの記憶にも僕の記憶にも残り続けると思っています」とあいさつ。その言葉は中国人の琴線に触れたようで、涙ぐんでいる人もいたという。

 「降旗監督は以前にも映画祭に参加されているとあって、若い観客からもサインを求められるなど大人気でした」(征矢さん)。

移動で一苦労

上海の夜
上海といえば東方明珠塔(東方テレビタワー)。上海の夜を彩る。
ドラえもん1
中国ではちょうど『STAND BY ME ドラえもん』が公開中だった。大人気。

東京から上海までは、直行便で約3~4時間。欧米の映画祭より断然行きやすいが、映画祭の会場間の移動は大変。なにせ映画祭の会場は、市内45か所の映画館と広範囲に及ぶ。タクシーを利用したくても、なかなかつかまらないだけでなく、乗車してもすぐに渋滞に巻き込まれてしまうという。「地元の方は、タクシーを予約できる携帯アプリを活用していましたが、雨の多い6月は利用者が多いようで、予約すらも四苦八苦しました。映画祭会場に着いても、どこも若い観客で賑わっていたのが印象的。国際映画祭といえば アート系作品に偏りがちですが、ここは大衆映画が中心です。地元の映画ファンにとっては、日頃なかなか観賞できない世界の娯楽映画が堪能できるという魅力があるようです」。

 また中国は、インターネットの検閲があることで知られ、Googleへはアクセスできない。「ですので、Gmailを使用している方は要注意です。現地の映画祭スタッフとのやりとりは中国で主流の無料メッセージ・通話アプリ“ WeChat”を活用していました」(征矢さん)。国際映画祭参加の際は、現地での通信手段の確認を!

次は東京国際映画祭で!

写真6
東京国際映画祭と国際交流基金アジアセンターとの共同プロジェクト「アジア・オムニバス映画製作シリーズ『アジア三面鏡』」が始動。(写真左から)日本から行定勲監督、カンボジアのソト・クォーリーカー監督、フィリピンのブリランテ・メンドーサ監督が来年の東京国際映画祭でのお披露目を目指して製作に入る。

 第28回東京国際映画祭は10月22日~10月31日、東京・六本木ヒルズなどで開催。征矢さんらスタッフは、今回のお返しとばかりに上海国際映画祭の関係者を招待し、さらなる交流を深めていくという。

写真6
上海国際映画祭のカタログ。

 その一例として、お互いのセレクション作品を共有し合うというプランがある。国際映画祭といえば“世界初上映”や“アジア初上映”などのプレミアを上映条件とすることが多いが、そうした規定に縛られることなく、上海国際映画祭が選出した中国映画を東京国際映画祭でも上映していくという。また上海に続き、「高倉健と生きた時代」と題して追悼特集を行うことが決定している。

 「中国では、劇場で自国製作映画を一定期間上映することが義務付けられているスクリーン・クオータ制を導入しています。ただ昨今の韓国映画のように、中韓合作にすれば中国映画の扱いとなり、上映の枠が広がります。今回の提携を機会に日中共同製作を増やして市場を拡大する機会を得るのはもちろん、民間レベル、クリエイターレベルでの交流を重ねる努力もしていきたいと思っています」(征矢さん)

写真:征矢あづさ、東映株式会社、東京国際映画祭

取材・文:中山治美

  • mixiチェック
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • ツイート
  • シェア
ADVERTISEMENT

人気の記事

ADVERTISEMENT

話題の動画

ADVERTISEMENT

最新の映画短評

ADVERTISEMENT