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「最高の離婚」の人気脚本家が映画で初めてオリジナルラブストーリーに挑んだワケ

映画『花束みたいな恋をした』より。菅田将暉と有村架純が20代のカップルに
映画『花束みたいな恋をした』より。菅田将暉と有村架純が20代のカップルに - (C) 2021『花束みたいな恋をした』製作委員会

 終電を乗り過ごしたことで出会った若い男女の5年間の日常を菅田将暉有村架純のダブル主演で描いた映画『花束みたいな恋をした』(公開中)。「最高の離婚」(2013)、「カルテット」(2017)などの連ドラでも知られる人気脚本家・坂元裕二にとって、映画の脚本は約14年ぶりで、映画でオリジナルのラブストーリーを手掛けるのは初となった。「元々、僕はトレンディドラマから始まっていて、そこで脚本家として育ってきた分野がラブストーリーだったので、僕の核にあるものというか、愛着がある」という坂元が、ラブストーリーへのこだわりを語った。

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 23歳の時に書いた1991年の連続ドラマ「東京ラブストーリー」で社会現象を巻き起こすなど、若い頃からトレンディドラマの最前線で活躍し、ドラマの流行が変遷していく中でも、その時々に合わせて数々の名作ドラマの脚本を手掛けてきた坂元。個人で向田邦子賞や橋田賞を受賞しているだけでなく、作品自体もギャラクシー賞や国際的なドラマ賞を獲得してきており、名実ともに日本を代表する脚本家の一人だ。しかし、映画の脚本は意外なほど少ない。それは、映画の仕事であまり楽しかった経験がなく、自分の資質としてもラストを決めずに書き進めることができる連ドラ向きと認識していたことによる。

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 しかし、今回は企画を務めたリトルモアの孫家邦が「20年以上も前から、『映画を書きなさいよ』と言ってくださっていたんです。それに、主演の菅田さんと有村さんも、まだ企画も台本もない状態で受けてくださった。本当に自由に書かせていただいて、恵まれた環境でした」ということで、実現した。今回の物語は、20代前半のカップルの5年間の日常をつづった作品で、大事件は起きないが、観る者の感情を揺さぶる物語となっている。しかし、脚本の執筆は困難を極め「もともとはキャラクター性が強くて、その個性がぶつかりあうような全然別の話を数か月書いていたんですが、菅田さんと有村さんで考えると、台詞がなかなか出てこなくて話が進まなかったんです」とその経緯を振り返る。

坂元裕二

 そこで何かが足りないと感じた坂元は、「日記みたいな話にしたい」という最初のプランに立ち戻り、「主人公たちの日記を書いてみたんです。日記ってその時は記録しているだけで面白いものではないけど、読み返してみると、些細なことも『ああこんなこともあったなあ』っていろんなことが蘇ってきて、大きな出来事がなくても意外と面白いですよね。それで日記みたいな映画でいいじゃないかと思って脚本にしてみたら、1週間くらいで第1稿が書けました」ということで、それを2時間近くに収まるように仕上げていった。また、今回は企画書なしに脚本を書くことから始められたのも大きかった。「僕がトレンディドラマを始めた頃は、『このキャストでラブストーリーを作ろう』というだけで始まることもあった。でも今は企画書がないと、テレビドラマも映画も作れない。特にこの映画のように、普通のカップルの日常をつづったようなシンプルなラブストーリーって企画書に書けるものではないから、企画書優先でやると、例えば病気や、タイムスリップするなどの別の設定を入れてしまいたくなるんです。そうするとどんどんラブストーリーから離れていってしまう」

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 坂元は、いじめ問題を扱った「わたしたちの教科書」(2007)や、さまざまな家族の形を描いた「Mother」(2010)、「Woman」(2013)、「anone」(2018)の3部作など、多種多様な作品を手掛けているが、「自由に書いていいと言われたらずっと書いていられるほど、ラブストーリーを書くことは好きで、僕にとっては白いご飯みたいなもの(笑)」と、ラブストーリーを書くことには特別な思いがある。「自分が思っているだけかもしれないけど、単純に向いていると思うし、男女が好きだ嫌いだと言い合うような他愛もない話を書いている時が、一番楽しいですね。元々、僕はトレンディドラマから始まっていて、そこで脚本家として育ってきた分野がラブストーリーだったので、僕の核にあるものというか、愛着がある。いろいろ書いてはきたけど、基本的には2人のお話。異性の場合もあれば同性同士の場合もあるけれど、2人の会話を書きたいからやっているというのが基本にあるので、ラブストーリーが一番自分に向いているのかなと。だから、そこで何か事件があったとかは、二の次、三の次なんですよね」

 また、坂元の創作意欲の源には、俳優の存在もあるようだ。「僕は文章を書くのが好きなわけではないので、役者さんのお芝居を見たくて書いています。だから自分の中から出てくるものというよりは、その俳優さんの資質を見て、この人たちがこんなことを喋ったら面白いなという、その2人の関係性みたいなものを考えて書くので、キャストが決まらないと書けないですね。キャストが変われば書くものも変わるので、自分が好きになれる俳優さんが出演してくれれば、いくらでも書けるような気はしています」

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ありふれていながら尊い日々の描写が心地いい。監督は、ドラマ「カルテット」に続いて坂元とタッグを組んだ土井裕泰

 映画『花束みたいな恋をした』は、坂元脚本によるドラマ「問題のあるレストラン」(2015)に出演していた菅田と、「いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう」(2016)の主演を務めた有村が、主人公の麦と絹を演じている。脚本のない状態でも坂元が書くならと出演を快諾した2人の芝居には、感動や嬉しさがあったと坂元は言う。「それぞれが自分の演技プランを持ち寄り合っているわけでなく、現場の環境の中で近い距離感を作り、そこで芝居を作るという共通認識を持っていたんだと思う。だからこそ、麦くんと絹ちゃんの距離感や関係が常に表現されていて、分かち難い存在になっている。麦くんだけの時も絹ちゃんのことを考えるし、絹ちゃんだけの時も麦くんのことを考えるような、どのシーンを見ても2人セットで映画を観られる状態になっているのが、心地よかったですね」

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 完成した映画自体についても、「あまり観たことがないものができたと思います。それが一番嬉しかったですね」と満足げ。その真意を聞くと、「恋愛映画というと、大きいお話が混ざりがちだけど、ただ主人公の2人を見ているだけの物語を作れたということもそうだし、自意識ではなく関係性みたいなものを軽快な語り口で表現できたんじゃないかなと思っています」とのこと。執筆時点から「悩んでいる人物がいたとして、ずっと悩んでいる状態が続くと、お話が停滞してしまう。でも時間さえ進んでいれば空気が淀んだりしないから、この映画はどんどん時間を進めようと。それは事件が起きたから話が進むとかではなく、感情がどう動いたか、関係がどう変わったかとか、そのタイミングで時の流れを感じる」といったことを意識していたという。

海デートで自撮りする麦&絹

 本作は、ドラマ「猟奇的な彼女」(2008)や「カルテット」でも組んだ土井裕泰が監督を務めているが、「土井さんはとても人格者なので包容力があるというのか、『これどういう意味で書いているの?』ということをよく聞いてくれるんです。台本に書いていないこともたくさん話して、例えば美術のセットや小道具などのことも教えてもらえて、話し合いながらできるから、とてもやりやすい」と信頼関係の深さがうかがえる。苦手意識のあった映画だが、「今回は特に気心が知れている人たちばかりと組むことができたので、元々映画に感じていたような戸惑いは全くなかったです。2時間前後で収めなければいけないような作品自体があまり得意じゃないと思っていたけど、今回やってみたら道はなくもないなと思ったので、こういう映画を1年に1本、3年に2本とか作っていけたら幸せだなあと思うんですけどね」と述べ、今後の映画へも意欲を見せていた。(取材・文:天本伸一郎)

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