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コロナ禍でのハリウッドの現状と来年の展望

来年、ハリウッドには、さらに大きな変化が待ち構えている
来年、ハリウッドには、さらに大きな変化が待ち構えている - Mel Melcon / Los Angeles Times via Getty Images

 2020年、ハリウッドは、コロナによって根底から揺さぶられた。ロックダウンで大都市の映画館が閉鎖され、新作映画の公開延期や配信への振り替えが続く中、映画館で映画を観るという文化そのものの存続が危機にさらされているのである。(Yuki Saruwatari/猿渡由紀)

 コロナがアメリカを襲い、ニューヨークとカリフォルニアでロックダウン命令が出たのは、3月半ばのこと。これを受けて、すでにプレミアを終えていた『ムーラン』や『クワイエット・プレイス 破られた沈黙』を含むすべて新作の公開が延期になった。その頃はまだ誰もが、2、3か月もすれば前のように戻るのではないかと思っていたのだが、ロサンゼルスとニューヨークでは、9か月経つ今に至るまで、映画館は一度たりとも扉を開けることを許されていない。

 その間、『ワンダーウーマン 1984』『ブラック・ウィドウ』『トップガン マーヴェリック』など超大作が次々に公開延期になり、インディーズ映画はVOD(ビデオ・オン・デマンド)でのリリースが当然になってしまった。先が見えない中、ディズニーは『アルテミスと妖精の身代金』『ゴリラのアイヴァン』などを動画配信サービス「Disney+(ディズニープラス)」での配信に回し、驚くことに、2億ドルをかけた『ムーラン』まで、プレミアム料金付きで「Disney+」での配信に変えてしまっている。そうやってひとつひとつ公開作が消えていくたび、劇場主の心はさらに暗くなった。

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 そこへ救世主として現れたのが、クリストファー・ノーランだ。「映画とは映画館で観るもののこと」と強く信じるノーランは、ロサンゼルスやニューヨークでまだ映画館が開いていないことを覚悟の上で、『TENET テネット』を、海外先行で公開、アメリカでも映画館が開いているところだけでの公開に踏み切ったのである。残念なことに、これは逆効果となった。日本を含む海外ではヒットしたものの、アメリカでは惨敗し、トータルで赤字になってしまったのだ。この時点で、アメリカではおよそ6割の映画館がオープンしていたのだが(現在は減って4割程度)、この例からスタジオは「やはりロサンゼルスとニューヨークなしで公開してはだめだ」と学び、秋の公開作も軒並み延期した。

 そんな中では、いつまでも作品を抱えているよりほかに売り払って元手を取り戻そう、という動きも強まる。たとえば、ユニバーサルが劇場公開するはずだった『続・ボラット 栄光ナル国家だったカザフスタンのためのアメリカ貢ぎ物計画』は、アマゾン・スタジオに転売され、同社の歴史で記録的なアクセスを稼いでいる。パラマウントも『星の王子ニューヨークへ行く』(1988)の続編『カミング・2・アメリカ(原題) / Coming 2 America』をアマゾンに売ったし、一時はMGMも『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』を配信に売ろうと模索していた(しかし、超大作とあってMGMが提示した値段があまりにも高すぎ、買い手がついていない)。そしてついにワーナーも、さんざん延期を繰り返してきた『ワンダーウーマン 1984』を、アメリカでは12月25日に劇場公開と動画配信サービス「HBO Max」にて追加料金なしで同時配信すると決めたのである。

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 「HBO Max」は、ワーナーメディアが今年5月末にデビューさせた自社の配信サービス。ディズニーにとっての「Disney+」に当たる存在だ。コロナが猛威をふるう今だけに仕方がないと、この決定には劇場主も渋々納得したのだが、その直後にまたワーナーが出した発表には、衝撃を受けた。『ワンダーウーマン 1984』だけでなく、ワーナーは、来年公開予定の17本をすべて「HBO Max」で同時配信するというのである。新型コロナウイルスのワクチンがついに実現し、トンネルの出口が見え始めたところなのに、来年末のことまでなぜ今決めるのだと、劇場主も、それらの映画を作った監督らも、激怒した。来年は、この件をめぐって訴訟が起こることも考えられる。

 この動きは、スタジオが、未来は劇場公開でなく配信にあると見ている事実を象徴する。ディズニーも、そもそもそのために20世紀フォックスを買ったのだし、つい最近も大幅な組織編成をして、配信中心の体勢をさらに固めている。観客にしても、この9か月間の間に、『シカゴ7裁判』(パラマウントがNetflixに売ったもの)、『ハミルトン』(来年劇場公開予定だったものをディズニーがDisney+で1年繰り上げて配信)、『ソウルフル・ワールド』(ピクサー作品)など、クオリティーの高い作品を家にいながら観られることに慣れてしまった。これが続くなら、何の文句もない。

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 医療関係者へのワクチン接種はすでに始まっているが、一般に回ってくるのは春ごろと言われている。つまり、映画館が普通に営業を許されるのには、最低でも数か月がかかるということだ。その間、人はますます今の状況に慣れていくだろう。そんな中では、映画館チェーンの倒産や、一部のシアターの閉鎖は免れない。映画館がなくなることはないにしても、アメリカにおいて、映画館に行くのはイベントになっていくということである。そうなれば、興行収入で映画の成功を測る従来のやり方も、変化を強いられるだろう。来年、ハリウッドには、さらに大きな変化が待ち構えているのだ。

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