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「ベルばら」池田理代子、日露の文化交流に一役

「ベルサイユのばら」のオスカルとアントワネットも駆けつけた!?
「ベルサイユのばら」のオスカルとアントワネットも駆けつけた!?

 漫画「ベルサイユのばら」などで知られる劇画家・声楽家の池田理代子がこの程、ロシア・モスクワで開催された第20回国際知的図書見本市 non/fiction に合わせて現地入りし、モスクワとサンクトペテルブルクでトークイベントを開催した。中央芸術家会館で行われた際には“ベルばら”のオスカルとマリー・アントワネットが花束を持って駆けつけ、池田の来露を歓迎した。

 池田の招聘(しょうへい)は、日露間の人的交流を目的とした「ロシアにおける日本年2018」事業の一環として国際交流基金などの主催で実現したもの。池田作品のロシア語版は正式には出版されていないそうだが、愛好家によるものや英語などの他言語に訳されたもの、さらにアニメ版を親しんでいる人も多く、ファンクラブも存在するという。

池田理代子
池田理代子

 池田もロシアとは縁が深く、初めて訪問したのは約40年前のソビエト連邦時代。漫画「オルフェウスの窓」でロシア革命を描くにあたって雪の中のロシアの大地がどのようなものかを体験したく、船とシベリア鉄道を乗り継いで旅をしたという。その時の印象について池田は「ロシアという土地はわたしが思っていたよりもずっと大きく、深く、矛盾に満ちていて、神秘的で大変魅力的な国だと思いました」と語る。

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 その言葉が示すようにロシアに魅了された池田は、グリゴリー・ポチョムキンなど男性遍歴も多かったロシア黄金期の女帝の生涯を描いた漫画「女帝エカテリーナ」も発表し、来露は5度目になるという。池田は「ロシアに来るたびにいろんなことを吸収して帰りますが、今回はロシアに漫画文化があることを初めて知って驚くと同時に大変うれしく思います」と集まったファンに向けてあいさつした。

 トークテーマは「日本及び海外における池田理代子漫画が人気である現象について」。だが池田は、現在に至るまでの経緯を語らずにはいられなかったようだ。とりわけ池田が漫画を教科書の余白に描き始めた小学校1年生の頃は、今のこの海外でのブームが信じられないほどの漫画に対する偏見があり、大人たちから「読んではいけない」と注意されて育ってきた世代。さらに1967年に漫画家デビューした頃は女性の社会進出は珍しく、賃金格差も歴然と存在していたという。

オスカルとアントワネットと池田理代子
オスカルとアントワネットに囲まれる池田理代子

 池田は「同じ雑誌で書いていた、同じくらい人気のある男性漫画家のギャランティーは女性の倍でした。当時、わたしは不思議に思って編集長に尋ねたことがあります。編集長はなぜそんな質問をするのか? という顔をしながら『男は女を食べさせるのだから2倍のギャラをもらうのは当然でしょう』と。その言葉でわたしは、世間で働いている多くの女性がどんなに頑張っても苦しい思いをしているのかということを知りました」と当時を振り返る。

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 そんな社会背景の中で多くのファンに支持されたのが“ベルばら”だった。同作はオーストリアの作家シュテファン・ツヴァイクの小説「マリー・アントワネット」に感銘を受けた池田が、史実にフィクションを加えて描いた歴史ロマン。池田は小・中学生に歴史に楽しく触れてほしいと描いたそうだが、フランス革命で活躍する男装の麗人オスカルに羨望や共感を抱いた社会人の女性たちからの反響が大きく、多くのファンレターを受け取ったという。

 池田は「今、性の問題は世界的な風潮として、その垣根を越えようという運動がたくさん起こっていますが、わたしはこの40~50年間、そうしたことにすごく問題意識を抱いてきました。ちょっと早すぎたかなと思っています」と語り、作品に社会に対する自分の思いや考えを込めて描いてきたことを明かした。

 また池田の作品の国内外での人気の高さは、“ベルばら”をはじめ「栄光のナポレオン-エロイカ」「女帝エカテリーナ」「天の涯まで~ポーランド秘史」など歴史への造詣の深さがある。その際、常に気をつけているのが「日本語をきちんと美しく描くこと」だそうで、この日のトークも当然、ロシア語の通訳が入っているが、終始敬語でファンに語りかけていたのが印象的だった。

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 池田は「日本でも学校の先生が、フランス革命やブルボン朝を勉強するなら“ベルばら”を読めと勧めてくださるそうです。何年か前にボローニャ大学に呼ばれて講演会を行った時には、日本の政治家の通訳もするようなイタリア人男性から『日本語の敬語を“ベルばら”で勉強しました』とおっしゃっていました。わたしが努力してきたことが報われたような気がして、とてもうれしく思いました」と語った。

 その池田が今、関心を抱いているのがロシアのウラジーミル・プーチン大統領だそうで、客席に向かって「もしわたしがプーチンさんの生涯を書きたいと言ったら会ってくれるでしょうか?」と客席に尋ねる一幕もあった。客席から一斉に「ダー!(イエス)」の声があがると、池田は満足そうに微笑んでいた。
 
 国際交流基金によると、2018年にロシアで劇場公開された日本映画は『メアリと魔女の花』(2017)、『三度目の殺人』(2017)、『ガールズ&パンツァー 最終章 第1話』(2017)、『さよならの朝に約束の花をかざろう』、『万引き家族』、『ペンギン・ハイウェイ』で、6本中4本がアニメとなる。2019年も細田守監督『未来のミライ』の公開が決定しており、改めて日本の漫画やアニメの人気ぶりを示している。(取材・文:中山治美)

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