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キューブリック監督のお蔵入り作品、原因は『シンドラーのリスト』の成功だった

巨匠スタンリー・キューブリック監督の右腕として支えてきたレオン・ヴィタリ
巨匠スタンリー・キューブリック監督の右腕として支えてきたレオン・ヴィタリ

 巨匠スタンリー・キューブリック監督の右腕として、完璧主義の映画を支えてきたレオン・ヴィタリが、自身が題材のドキュメンタリー作品『フィルムワーカー(原題)/ Filmworker』について、5月11日(現地時間)、ニューヨークのキーノ・ローバーのオフィスで単独インタビューに応じた。

【作品写真】俳優として注目されたキューブリック映画『バリー・リンドン』

 本作は、俳優として活動していたレオンが、キューブリック監督の映画『バリー・リンドン』でブリンドン子爵を演じて注目を浴びたものの、キューブリック監督の映画手法に惹かれて裏方の道を選択。キューブリック作品において唯一無二の存在になった過程を描いたドキュメンタリー。

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 『バリー・リンドン』でキューブリック監督と出会ったことで、俳優を辞め、監督の下で働く事になったレオン。その理由は「自分の居場所を見つけたから」という。「舞台ならば、大抵はリハーサルから千秋楽まで居られるが、映画は電話で呼ばれて演じて、それで終わることがある。編集で自分の演技が使われないことすらあるんだ。だが『バリー・リンドン』の撮影現場で裏方を見ていて、これならば撮影の最初から最後まで居られると考えたんだ。僕にとっては俳優を続けるよりも、その方が大きな刺激だったんだよ」と説明した。

 2016年にスティーヴン・スピルバーグ監督が、ドラマ化を企画していた(現状は未完成)、キューブリック監督の未完成作「ナポレオン」。レオンは同作について、「『時計じかけのオレンジ』がイギリスで大騒ぎになったこと(同級生を殺害した14歳の少年が、同作の影響について言及した)で、スタンリーは自身で上映禁止を要請したことがあったんだ。すると多くの人々が再上映を要求してきたよ。僕も、多くの人があの映画を観たいと思っていると言うと、彼は『再上映することが問題ではなく、いつ再上映するかが問題なんだ』と言ってきたんだ。だから、あの『ナポレオン』プロジェクトも、同様にずっと手掛けられないまま放置状態にあった。あれも、いつ手掛けるかタイミングを図っていたと思うんだ。ただ、もし彼が今も元気ならば、おそらく1時間全10話のシリーズというアイデアには、喜んで応じていたと思うよ」と話し、現在のテクノロジーならば、それも可能だったと付け加えた。

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 また、キューブリック監督は、ホロコーストを題材にした映画を手掛ける予定だったが、スピルバーグ監督の『シンドラーのリスト』の成功により製作をやめたことがあった。すでに脚本はあったそうだが、「スタンリーの場合、(脚本を改稿するため)あまり意味をなさないけれどね(笑)。あれは『Wartime Lies』(邦題「五十年間の嘘」)という小説で、彼はホロコースト自体よりも、ホロコーストの中で嘘をついて生き抜く伯母と少年の心理に興味を持っていたんだ。僕は、キャスティングのために俳優を探したり、当時の車やロケーションなども探したりしていて、かなりの撮影準備作業を進めていたんだ。でも、『シンドラーのリスト』が公開され、驚くほどの成功を収めてしまった。それによって、ホロコーストの映画=『シンドラーのリスト』になってしまったんだ」と残念がった。

『シャイニング』
映画『シャイニング』より少年ダニー - Warner Bros. Pictures / Photofest / ゲッティ イメージズ

 『シャイニング』の少年ダニーのキャスティングを、キューブリック監督から任されたことについては、「スタンリーは、(過去に出会った)どんな人物でも、その人がどんな仕事をしていて、何に長けているかを覚えていて、その人たちの仕事を自分の映画に生かせるかもと考えていたんだ。彼には、L.A.にも別のキャスティング・オペレーションがあったが、僕が(子役相手に)即興ができることを把握していたんだ。実際に僕はセットで、子役の手足を地べたにつけさせ、動物の格好をさせたりしながら、演技に集中させていくこともできた。大抵の子役は、10分以上集中することはごく稀(まれ)だからね。ダニー・ロイド(ダニー役)は僕がキャストしたときは4歳だったが、すでに集中できていたよ」と振り返った。

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 最後に、キューブリック監督から最も学んだことを聞いてみると、「どんなことでもアプローチすれば、不可能はないということだね」とレオン。「レーザーディスクが出たばかりの頃、そのカバーのアートワークにスタンリーがイライラしていて、僕に『君がこれをやってくれ(対応してくれ)』と言ってきたんだ。僕が断ろうとしたら、それでも彼は『ただ、やってみなさい』と勧めたんだ。彼は全てにおいて僕の先を行っていたけれど、何度もトライすることで、僕自身も進歩できたんだよ」と感謝した。(取材・文・細木信宏/Nobuhiro Hoski)

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