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『ブラックパンサー』は歴史的な映画か アメリカ大ヒットから読み解く

ヒーロー映画としてもダントツに面白い『ブラックパンサー』
ヒーロー映画としてもダントツに面白い『ブラックパンサー』 - (C) Marvel Studios 2018

 『ブラックパンサー』(3月1日日本公開)が、アメリカで大旋風を巻き起こしている。公開前から成功は予測されていたが、ふたを開けてみると、数々の新記録を作り上げる爆発的ヒットに。批評家の評価も Rotten Tomatoes で97%とヒーロー映画で歴代最高なら、観客の評価もAプラスだ。(Yuki Saruwatari / 猿渡由紀)

【映像】『ブラックパンサー』予告編

 まずは、数字面から、これがどれほどすごいヒットなのかを見てみよう。この週末アメリカは、19日の月曜日がプレジデント・デー(歴代大統領の功績をたたえる祝日)のため、3連休だった。なので、4日間の週末ということになるが、通常、アメリカで映画の公開初週末というと、金、土、日の3日間を指す。この3日で見てみると、『ブラックパンサー』の北米興行成績は2億179万ドル(約240億円)。2月公開作としても、夏より前の公開作としても、史上最高だ。これまで、2月の記録は『デッドプール』の1億3,200万ドル(約145億円)、夏より前の記録は『美女と野獣』の1億7,400万ドル(約191億円)だった。

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 これはまた、黒人の俳優が主役(チャドウィック・ボーズマン)の映画においても、黒人の監督(ライアン・クーグラー)の映画においても、史上最高のオープニングである。アフリカ系の俳優が主演の映画でこれまでのトップはウィル・スミス主演の『スーサイド・スクワッド』(1億3,400万ドル・約147億円)、監督作品ではF・ゲイリー・グレイ監督作『ワイルド・スピード ICE BREAK』(9,900万ドル・約109億円)だった。(1ドル110円計算)

 『スーサイド~』は主役がスミスとはいえ、ほかは白人が中心。『ワイルド・スピード』のキャストも、さまざまな人種のアンサンブルだ。しかし、『ブラックパンサー』は、主要キャストのほとんどが黒人である。まさしくそれが、今作が単なるヒット映画を超えて、カルチャー現象となっているゆえんだ。メジャースタジオの娯楽アクション大作で、黒人がここまで表に出てくることは、過去になかったこと。また、彼らの描かれ方もポジティブで、ヒーロー物なのにこう言うと変に聞こえるかもしれないが、リアルでもあるのだ。

 物語の舞台は、アフリカにある架空の国ワカンダ。他国からは発展途上国と思われているが、実は想像を絶するテクノロジーを持つ文明国家である(この、“外から見ただけではわからない”というのも、さりげないメッセージのひとつだ)。主人公は、この国の新しい王ティ・チャラ。白人の悪役も出てくるが、彼を最大の危機に陥れるのはマイケル・B・ジョーダン演じるワカンダ出身のキルモンガーで、数々のワカンダの女性たちが、ティ・チャラのために男勝りの戦いっぷりを見せる。これらのキャラクターがスリル満点の話を展開していく中(迫力のアクションは言うまでもない)、映画は、“持つ”国は“持たない”国と分かち合うべきなのか、真のリーダーとは何なのか? といった、現代社会につながる事柄にも触れていくのだ。

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 冒頭に出てくるアメリカの街がカリフォルニア州オークランドなのも、偶然ではない。オークランドは、1960年代に、反人種差別、革命的社会主義などをうたうブラックパンサー党が結成された場所でもある。クーグラー監督もオークランド出身で、彼の長編デビュー作『フルートベール駅で』は、その地域を舞台にした、人種差別問題に触れる実話ものだった。公開週末、『ブラックパンサー』上映館の前には、あらゆる街でアフリカの民族衣装ダシキを着たファンが列をなしたが、オークランドでの騒がれ方は、特に大きなニュースになっている。ABCニュースに対し、人種平等と格差解消をうたう非営利団体イースト・オークランド・コレクティブのカーロッタ・ブラウン氏は、「私たちのように見えるスーパーヒーローを、ここオークランドで見られるなんて。まさに歴史的瞬間です」と語った。

 黒人に支持されるセレブも、大絶賛している。コメディアンのケヴィン・ハートは、公開早々に「信じられないくらい良いよ。演技も、ストーリーもだ。絶対観に行くべき」と、音楽プロデューサーのP・ディディも「ボックスオフィスで俺たちのパワーを見せよう!」とツイートした。オクタヴィア・スペンサーは、ミシシッピの生徒たちが無料で見られるよう、何回かの上映を貸切で買い取っている。

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 だが、最もパワフルなのは、元ファーストレディーの言葉だろう。4連休最後の19日、ミシェル・オバマ夫人は、「『ブラックパンサー』のチームの皆さん、おめでとうございます。あなたたちのおかげで、若い人たちが、ついに自分たちのようなスーパーヒーローをビッグスクリーンで見ることができました。私は、この映画が大好きです。この映画は、いろいろなバックグラウンドを持つ人々に、それぞれが置かれた状況でヒーローになってみせようという勇気を与えるでしょう」とツイートしたのだ。オバマ夫妻は、最も影響力のある人物の代表。来週末は、これまでヒーロー映画を一度も観たことのない層まで、映画館に駆けつけるかもしれない。

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