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国際的な評価を!東京国際映画祭の未来は?今後の展望

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東京国際映画祭フェスティバル・ディレクターの久松猛朗氏
東京国際映画祭フェスティバル・ディレクターの久松猛朗氏

 第30回東京国際映画祭(以下、TIFF)が11月3日に閉幕した。新たにフェスティバル・ディレクターに就任した久松猛朗氏はどのようなビジョンを描いて節目の年に挑んだのか。今年を振り返ると同時に、今後の展望について話を聞いた。(取材・文:中山治美)

【写真】宮崎あおい、蒼井優も!華やかな女優陣がTIFFに!

■第30回を振り返っての感想をお聞かせください。

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今年3月10日にフェスティバル・ディレクターに就任してから映画祭開催まで時間が短く、かつ予算にも限りがありできるかな? と思った時もありましたが、スタッフと方向性を決めて、そのメニューに上がったものはほとんど実行することができました。満足度はかなりあります。

■久松さんはワーナー・ブラザース映画・元副代表であり、松竹常務取締役も務めました。その立場から、これまでTIFFに対してどのような印象を持っていましたか?

大きな映画祭ではあるけれど、若干、敷居が高いかな? と感じていました。作品をぱっと見て、普通の映画ファンが見たいというものよりは、どちらかというと監督も俳優もあまり知られておらず、内容も分かりやすいものではないなという印象がありました。

■そこで今回目指したのが「アートとエンターテインメントの調和」ということだったのでしょうか?

「ミッドナイト・フィルム・フェス!」に、「トリビュート・トゥ・ミュージカル」など割と入りやすいもの(集客が見込めるもの)も含めて実施できたので、映画のコアなファンだけでなく、客層の幅というか、色も増えたのではないかと思います。

■映画祭の予算はどれくらいでしょうか?

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おおよそ昨年並みの11億円ぐらいだと思います。

■共催・提携企画も含めてですか?

全部含めてです。

■映画祭のカタログを開いてまず驚いたのが、その共催・提携企画の多さです。しかも2017東京台湾未来映画週間(10月22日~23日)やショートショートフィルムフェスティバル &アジア秋の上映会(10月16日~22日)のようにTIFF開催前に終了したもの、逆に映文連国際短編映像祭 映文連アワード2017(11月27日~29日)と閉幕から約1か月経って開催されたものもあります。TIFFと同時期開催でも、ゲストやプレスパス保持者が共催・提携イベントに参加できるわけでもなく、あまり連動しておらず、双方にとって勿体無いように感じます。点が線に繋がってないというような。

共催と提携の区別が分かりづらいのですが、映画祭同士が提携するのは悪くないのではないかと思って、あまりそこでの排除の論理は採用していないのですが、見直すべき点はあるかもしれません。実は先方の方でTIFFとの共催・提携をチラシなどで告知していない例もあったので精査し、昨年から1つ減となっています。

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メイン会場のTOHOシネマズ 六本木ヒルズの入り口。ポスタービジュアルを担当したのは写真家・蜷川実花。

■TIFF開催前に他の国際映画祭も視察されたと思います。他の映画祭を参考に、TIFFでも実施したかったけど、乗り越えなければならないハードルがあって難しいなと思ったことはありますか?

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それはあまりないですね。フェスティバル・ディレクターに就任した後、カンヌ国際映画祭や上海国際映画祭を訪問し、予算があって羨ましいなと思うところもありました。しかしスタッフと自分たちが目指すところを話し合い、目標を明確にしてからはTIFFのスタンスが見えてきたので、他の映画祭のことは参考にはすれど、気にならなくなりました。同じことをやろうと追っかけても意味はありませんからね。まずは我々が楽しいと思うことをしっかりと前面に出して、観客やゲストが「また来年も参加したい」と思えるような映画祭にしたいと思いました。

■とはいえ、前後に開催される国際映画祭、特にアジアの映画祭の状況から、何らかの影響は受けるのではないかと思います。実際、今年は韓国映画がワールド・フォーカス部門で上映されたヤン・イクチュン主演『詩人の恋』の1本のみ。対して第22回釜山国際映画祭では日本映画が41本上映され、菅田将暉や蒼井優ら人気俳優が訪韓したこともあり、韓国をはじめとするアジアのメディアが少なかったように思います。

それはそれで今年のアジア映画界の流れを表しているのかもしれませんが、だからと言って、日本の映画関係者に釜山へ行くなと言うわけではないし、首に縄をつけて(作品を)引っ張ってくることはできませんからね。もちろん、釜山は外国になりますので、東京に出品するよりは釜山で……となるのであろうとは思います。でもそれ以前に、1回だけTIFFに連れてきても、我々に魅力がなければ離れて行くだけなので、我々がどうあるべきかが重要です。映画ファンだけでなく、日本の映画関係者やクリエーターの皆さんにとって、どれだけ魅力的に映るか。そこを(他の映画祭と)お互いに競い合って行くべきだと思います。

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(広報)今年は申請プレスの精査と承認作業を細やかに実施した結果、国内のプレス登録者数は1,346名(前年は1,506名)。逆に海外メディアは、審査員にヴィッキー・チャオ、コンペティション部門に『迫り来る嵐』のワールドプレミア&来日が発表された時点で中国媒体の登録が増え、前年の790名に対して今年は862名となりました。

■第29回で『天才バレエダンサーの皮肉な運命』が上映された際、ロシア人やバレエファンが殺到したのと同じ現象が起こったのですね。

(広報)はい。

■一方、“東京の色”ということで自主映画を紹介・支援する「日本映画スプラッシュ部門」、歌舞伎座スペシャルナイト、さらに今年からユース部門で「TIFFティーンズ映画教室2017」が開催されました。試みは評価できるのですが、特に「TIFFティーンズ映画教室2017」の公式上映は座席数138席の劇場で、1回のみでした。その中で、いったいどれだけの海外ゲストが鑑賞できたのか疑問です。その一つの要因として、圧倒的に上映会場数とキャパシティが足りないのではないかと思います。

いやぁそれは解消しなければならないですね。確かにキャパシティの問題はあるのかもしれません。カンヌ国際映画祭や釜山国際映画祭のように我々はホームグラウンドを持っておらず、常に仮住まいの中で開催している苦しさがあります。以前行ったように、会場を新宿まで広げると予算もスタッフの数も足りません。また上映スケジュールに関しても正確に判断するのは実に難しい。一般の興行であるならば動員数を見て翌日に劇場を入れ替えたりできますが、担当者はパズルのような上映スケジュールを苦労して組んでいます。加えて配給会社からの「(劇場公開を前に)こんなに大きな劇場で上映されては困る」などのリクエストにも考慮しなければなりません。そうした様々な問題を解消していくためには、やはり映画祭に対する我々スタッフ、映画ファン、そしてマスコミの熱量も大切です。では一方でマスコミは、レッドカーペットの華やかな部分だけではなく、どれだけ映画祭を取り上げてくれているのか? という思いもあります。

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久松猛朗氏と映画祭のアンバサダーを務めた橋本環奈

■プレスパスでは公式上映のチケットを取ることができず、舞台挨拶などのイベントのみ入場可能となっています。また業務向けのP&I上映も100席前後の会場で満席になることも多く、コンペティション部門の作品を必ずしも全部鑑賞できるとは限りません。ですので媒体の編集担当者に対して総評を書くという約束ができない状況にあります。

なるほど。でもその状況がここ最近で変わったというわけではないのでしょう?

■映画祭会場が2009年に渋谷から六本木に変わり、キャパシティが小さくなったことでプレスへの割り振りが少なくなったように思います。また指定席制に変わったことも影響しているのではないでしょうか。たとえ空席があっても、招待客などにすでに発券されていた場合は、システム上「空いていない」ということになり、席を無駄にしてしまっているのではないでしょうか。

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(招待客やゲスト用に確保していたチケットを上映日当日に発券デスクに戻すという)返しのチケットはありますよ。

■そのチケットはプレス用には用意されておりません。私は今回ゲストパスでの入場はP&Iのみだったので歌舞伎スペシャルナイトなどは自分で購入したのですが、TIFFはP&Iで鑑賞できる作品も限られており、希望の映画が見られないというのが国内外のプレスやゲストの間でも浸透しています。ですので、わざわざパスを取得せず、むしろ普通にチケットを購入して一般上映を鑑賞した方が確実に入場できますので、そちらの方が得策なのではないか? と考えてしまいます。プレスの仕事はまず映画を鑑賞しないことには始まりませんが、それができない状況です。

他の映画祭は空席があった場合、パス保持者を入れてくれるのですか?

■TIFFでもP&I上映のみ取り入れていますが、多くの映画祭でチケット完売でも上映10分前に空席があればパス保持者を入場させてくれる“ラッシュ”というシステムを取り入れていますし、同様に一般客用にチケットを販売します。おそらく、チケット販売サイトで満席の表示が出ているのに、中に入ったら空席があったという違和感は、一般の観客も抱いているかと思います。

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出品者が保有していたチケットが余っているなら映画祭側に戻してもらって、一般の観客に販売するというのは改善した点です。今年も目立ってあったでしょうか?

■実はかなり空席が目立った一般上映があったので、ならばパス保持者に開放すれば良いのにと思った作品はありました。これは、パスを使って映画祭に参加する醍醐味でもあるのですが、たまたま時間が空いていたからと鑑賞した作品で、思わぬ発見をすることもあります。そうして出会った作品の監督・俳優のファンになり、以降、彼らの作品を追っかけてみようというきっかけになることも多いです。

アクレディテーション(映画祭のパス制度)に問題があると?

■それに限ったことではなく、チケットの販売種類も考慮すべき問題ではないかと思います。たとえば山形国際ドキュメンタリー映画祭は、一般の方も購入可能な見放題のパスがありますし、お得な回数券も販売しています。10回券を購入した人は使い切ろうと、普段だったら見ない作品に触手を伸ばすこともあるでしょう。また、これはTIFFより規模が小さいからできるのかもしれませんが、山形ではプレスも一般客も一緒に列を作って並ぶ、先着順制の入場です。私たちプレスも、一般観客の熱気を感じながら鑑賞するのは、映画祭ならではで楽しいものです。ほか、釜山国際映画祭やサンセバスチャン国際映画祭など多くの映画祭では、市民割引や、チケット何枚以上購入ならばディスカウントなどのシステムも導入しています。一番の理想は、TIFFと共催・提携イベントの両方が見放題という夢のようなパスが存在したら嬉しいです。

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なるほど、参考にします。

■今年は30回の節目の年とあってイベントが多かったですが、来年の展望を聞かせてください。

来年の予算もまだ出ていない状況ではありますが、イベントを縮小することは考えていません。今回の勢いを広げて、さらに強化していきたいと思っています。

■久松さんの任期は何年になりますか?

毎年更新なので、来年いるかどうか分かりませんよ(笑)。それはジョークとして、年明けには第31回に向けて各部署の担当者と話し合いを始めて行きます。ほか、エストニアのタリン・ブラックナイト映画祭で審査員を務めるなど他の映画祭にも参加していく予定です。一度審査員を体験し、少しでもTIFFの審査員の皆さんの心情がわかるのではないかと思っています。

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